過大な「株主還元」競争、企業の成長を著しく阻害…短期利益重視経営への警鐘
株主還元政策:将来への投資と株主還元政策のバランスの重要性
フィンクCEOの手紙には、米国企業による株主還元の規模に関するデータが紹介されるのがお約束です。15年の手紙によると、14年の米国企業による配当と自社株買いの合計額は9000億ドルとなり、過去最大となっていました。
次に16年の手紙によると、15年のスタンダード・アンド・プアーズ500(S&P500)指数採用企業による配当性向は、09年以来最高水準、14年10月からの1年間における自社株買いは、前年比27%増となっていました。
そして、17年の手紙によると、15年10月からの1年間におけるS&P500指数採用企業による配当と自社株買いの合計額は、営業利益の合計額を上回っています。税引後の当期純利益ではなく、営業利益を上回っているとは驚きです。これは、総還元性向(配当と自社株買いの合計額を当期純利益で割って算出される指標)が優に100%を上回ることを意味します。日本企業の株主還元も過去最高を更新していますが、配当性向は3割程度、総還元性向は4割程度といったところであり、米国企業の株主還元の規模の大きさに驚くばかりです。
こうした状況に対して、フィンクCEOは次のように述べています。
「我々は余剰資本の株主への還元をもちろん支持するが、企業は将来成長への投資と株主還元のバランスを取らなければならない。企業が自社株買いを実施すべきなのは、自社株買いからのリターンが資本コストや将来成長への投資に対する長期的なリターンを上回る時に限られる」
長期的な投資家からすれば、目先の株主還元よりも長期的なリターンが重要となるため、成長投資の重要性を強調するのです。フィンクCEOの意見は、投資案件がない場合に株主に資本を還元すべきだというバフェットの考えと同じです。
では、米国企業は過少投資、過大還元となっているといえるのでしょうか。
この点に関しては2つのスタンスがあります。まずは、将来投資へ配分すべき資金を株主還元に配分しているというスタンス。まさに経営の短期主義の議論となります。このスタンスで有名なのは、14年9月の経営誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に『繁栄なき利益』という論文を掲載し、同年のマッキンゼー賞を受賞した米マサチューセッツ大学のウィリアム・ラゾニック教授です。ラゾニック教授は、株式ベースの報酬制度が自社株買いの要因となっていると考えており、こうした報酬制度の抑制を提言しているほどです。