AI(Artificial Intelligence)は日本語にすれば人工知能。これに対して、人間の知能はNI(Natural Intelligence)直訳で自然脳というそうだ。人間の脳をまねて人工的な知能をつくろうという研究は1950年代に、現在のコンピュータの原型といえる機械の開発製造が始まるとともにスタートしている。ここで興味深いことは、AIの研究が始まるとともに、人間の認知の仕組みを研究する認知心理学も誕生していることだ。
それまでの心理学では、脳の仕組みはブラックボックスだとして、どういった刺激を受けたら、どういった反応をとるかといった観察可能な研究をすることが科学的だとされた。行動主義心理学とよばれ、創始者の米心理学者、ジョン・ワトソンは、「パブロフの犬」の実験に影響を受けたといわれる。
ちなみにパブロフの犬とは、ロシアの生理学者イワン・パブロフが行った実験で、ベルを鳴らしてから犬にエサを与えることを繰り返すと、犬はベルが鳴る音を聞くだけで唾液を出すようになることを確認したものだ。刺激(ベルの音)への反応(唾液)という「条件反射」の理論を1903年に発表している。
ワトソンは一流大学で心理学を教えていたが、妻がありながら教え子との恋愛沙汰が問題になり、辞職せざるをえなくなった。だが、けっこうしたたかな人だったようで、その後、広告代理店J.W.トンプソンの重役として、理論を実践に移した。
つまり、広告という刺激を与えれば、消費者はどう反応して購買行動を起こすかといった研究分野で才能を発揮したのだ。彼が手がけたインスタントコーヒーや練り歯磨きの広告は、スポンサーの売り上げ増大に貢献し、大学教授のころとは比べものにならないくらいの収入を得て、富を築いたといわれる。
行動主義は1910年代に注目を集め、その後40年もの間、心理学の主流となった。
だが、人間の脳の中で何が起こっているかを無視した行動主義の考え方に反対する心理学者もいた。彼らは、1950年代に始まったコンピュータや情報科学の考え方の影響を受け、人間の脳も情報システムとみなし、その情報処理過程を明らかにしようとした。これが認知心理学(cognitive psychology)の始まりだ。
ちなみに、囲碁の名人に勝って一躍有名になった「AlphaGo(アルファ碁)」を開発したDeepMind創立者の一人は、認知神経科学で博士号を取得している。