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米山秀隆「不動産の真実」

処分に困った空き家、「マイナス価格」で引き取ってもらう時代に

文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員
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処分に困った空き家、「マイナス価格」で引き取ってもらう時代にの画像1「Gettyimages」より

買い取り再販ビジネス

 空き家増加が社会問題化しているが、一工夫することで流動化させるビジネスが活発化している。自治体は早くから、仲介業者が採算性の面で取り扱わないような物件を、空き家バンクによってマッチングさせてきた。ただし、安いからといって需要がつくわけではなく、多くの成約実績を持つ空き家バンクはごく一握りにすぎない。

 近年活発化したのは、地方を中心に空き家を数百万円程度で安く買い取り、数百万円程度で改修し、1,000万円から1,500万円で売る、買い取り再販ビジネスである。地方では新築の半値以下であり、立地や物件の状態によっては十分需要がつく。親から引き継いだ土地付きの家を数百万円で売却するのには抵抗があるが、保有し続けても税負担、管理責任、さらには事故が起こった場合の工作物責任などを負うばかりでメリットがなく、値段がついただけましと売却する人が増えている。

 その代表的な事業者は、こうしたビジネスの先駆けで今や全国に拠点を置く「カチタス」(群馬県桐生市)である。競売物件の買い取りから事業を始め、近年は空き家の買い取りで成長し、地方都市を中心に100店舗以上を持つ。年間の取り扱いは約4,000戸で、累計4万戸以上の実績を持ち、2番手以下に圧倒的な差をつけている。空き家を買い取る目利きが、この立地でこの状態ならば売れると見込んだ物件を仕入れ、売れる値段で確実に売り切る戦略を取っている。

 1978年に前身の会社が設立され2004年には名証セントレックスに上場したが、競売物件の減少で業績が悪化して2012年に上場を廃止し、投資ファンドの下で再建を図った。その後、空き家の買い取りで収益を伸ばし、2017年12月に東証1部に上場した。優れたビジネスモデルとの評価を受け、2017年度ポーター賞(一橋大学大学院国際企業戦略研究科が運営)を受賞している。

 こうしたビジネスは、都市部においては地価の高さから販売価格が高くなり、新築との競争力を出しにくいため、地方を中心に成長している。

賃貸需要の開拓

 さらに近年登場したのは、空き家を市場では供給が少ない戸建ての賃貸物件として活用しようとする動きである。所有者から安く借り、最低限の改修を施し、相場より安い価格で貸し出すことによって、起業家向けやアトリエ、工房などの需要を開拓している例がある。そのような需要が見込まれる場所であれば、十分、ビジネスとして成り立つ。こうした不動産投資は、「廃墟不動産投資」や「古民家不動産投資」と呼ばれることもある。

 また、こうした賃貸需要の開拓を専門で行っている仲介業者もいる。芸術家や工芸家のアトリエ、工房に使える物件を仲介する「取手アート不動産」(NPO法人取手アートプロジェクト(茨城県取手市)と株式会社オープン・エー(東京都中央区)が運営するサイト)、空き家を若いクリエーターなどの入居者とともに、工房やアトリエなどに改修して使う活動に取り組んでいる「omusubi不動産」(千葉県松戸市)などがある。こうした取り組みでは、借り手が自由にDIYで改修を行い、原状回復の義務がないDIY型賃貸としていることが多い。取手アート不動産では、東京芸術大学の学生や卒業生の需要などを開拓している。

 omusubi不動産がターゲットとする物件は、荷物だらけの古民家、未内装のままぼろぼろになっている古ビル、ほとんど空室のアパート、昭和の団地やマンションなどであり、こうした価値がないと思われている物件を、DIYや新たなアイディアによって再生させている。こうした活動が評価され、2017年10月には、日本一の不動産エージェントを決める「リアルエステートエージェントアワード 日本一決定戦」(オーナーズエージェント株式会社<東京都新宿区>ほかが主催)でグランプリを受賞した。

 以上述べてきた買い取り再販、賃貸需要の開拓は、需要がつかない「負動産」と思われていた空き家の新たな需要を開拓した例として注目される。ただ、当然のことながら、そのような潜在需要のある場所でなければ成り立たない。所有者にとっては、売却価格や賃貸料は高くなくても、放っておいてただ固定資産税を払っているよりはましという観点から、流動化を考える場合が増えている。

マイナス価格での取り引き

 ここまでは、取り引きでまだ値段のある世界である。これに対し最近、ウェブ上でどんな空き家の掲載も可とするマッチングサイトが登場している。空き家バンクにも掲載してもらえない物件、家財道具を大量に残しているような物件でも掲載可で、なかには残置物の処理費用として数十万円支払うという、実質マイナス価格の物件が掲載されている例もある。

 その代表的なサイトが「家いちば」(株式会社エアリーフロー<東京都新宿区>が運営)である。空き家処理に困った所有者が最後の駆け込み寺として物件を掲載しており、ただ同然かマイナス価格ならば、住まないまでも短期滞在用や物置などとして使いたいなどの需要を開拓している。2015年10月に開設し、これまでに200件以上登録され、20件ほど成約しているという。直接交渉でやりとりし、話がまとまって契約する際にはエアリーフローが間に入る。

結局は問題の先送り?

 このように空き家を抱える所有者が手放したくても、どうしても買い手がつかない場合、最後はただに近い価格やマイナス価格でようやく取り引きが成立する事態に至っている。こうした現象は、一部のリゾートマンションや別荘ではすでに現れていたが、現在は普通の住宅でも現れている。

 ただ、値段が下がったことで高齢者や低所得者が流入しているリゾートマンションや別荘のなかには、今は人が増えて悪くはないが、将来的に住んでいる人が亡くなった後の物件管理や処理について懸念する声が出ている例もある。新たな需要で一時的に空き家が使われても、将来的には管理が放棄されたり、相続放棄されたりするなどの問題が発生する可能性は残る。マッチングサイトで安く手に入れた人のなかには、必要なくなったら売れば良いとの考えもあるようだが、次の需要者が出てくるとは限らない。

 結局は、そうした物件を最終的に誰が管理、処理するのかという問題に突き当たることには変わりない。その責任があるのは所有者であるが、最近は空家対策特別措置法に基づく、強制的な取り壊しを含む代執行、略式代執行(所有者不明の場合に行われる代執行)が増えている。代執行の場合は、まだ費用を回収できるケースもあるが、略式代執行の場合は所有者不明のため費用を請求できない。所有者が最後まで責任を果たすという自覚を持って取得しない限り、今後も空き家処理で公的負担が増していくことは避けられそうにない。
(文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員)

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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