悪質タックル問題に関する日本大学アメリカンフットボール部の内田正人前監督と井上奨前コーチの対応は、危機管理の視点から「前代未聞のお粗末さ」といわれている。弱者である選手が大学とは無関係の場で単独会見を開いた一方で、強者である彼らが言い逃れに終始しているのだから、それもそのはずだ。
5月25日に大塚吉兵衛学長が会見で謝罪したが、一連の対応が常に後手に回ったことは間違いない。その影響がもっとも及ぶと思われるのが、「来年度の受験者数」だ。
日大の2018年度の一般入試志願者数(全学部合計)は11万5981人。どの学部も倍率は2~5倍、医学部に至っては45倍という難関であり、17年度比は105%となっている。「前年度に比べて志願者数が伸びた大学の学部」ランキング(大学通信調べ)でも、文理学部が4位、経済学部が7位で、それぞれ3000人以上増えている。
まさに、記者会見で叫ばれた「日大ブランド」を証明する数字といえる。いうまでもなく、大学にとってブランドやイメージは生命線だ。30年以上前から、日大は「日東駒専」の一翼を担う存在として、ある種のステータスを保ち続けてきた。総合大学として日本最大の規模を誇り、15年度の収益規模約1882億円は私立大学トップだ。7万人以上の学生数も同様である。
「もう、うちのような大学とは規模が違いすぎて比較なんかできませんよ」と語るのは、東京都内の私立大学の受験担当職員だ。
「大学経営にとって、志願者数は重要な数字です。志願者は1人当たり3万5000円(平均)の受験料を支払ってくれますからね。単純計算ですが、11万人が3万5000円を支払うとすると、それだけで38億5000万円という数字になります。
大学の志願者数というのは、おおむね前年度比90~110%で推移します。新たな学部を創設したり校舎を新築したり、あるいは有名な教授を招いたりした場合は、140%などの大幅増になることもあります。日大さんも、何もなければ来年度も巨額の受験料と新たに1学年(約1万7000人)が支払う入学金や授業料が確約されていたでしょう」(前出の職員)
日大の危機管理学部は定員割れに?
さらに、この職員は以下のように続ける。
「あくまで推測ですが、受験者数がどのくらい減少するかは学部によって異なると思います。あまり影響がないのは医学部でしょう。なぜなら、医師を志望する学生はほかの受験生とは考え方が異なるからです。親が医師であるケースが多く、とにかく医師免許を手にしたい。そのため、医学部を持つ大学は、それだけでブランドとなっています」(同)
医学部がある帝京大学のラグビー部が強いように、ケガの対応や体のケアが学内で行えるため、医学部を持つ大学はスポーツが強いという相乗効果が生まれる。当然、スポーツ関係の新入生も入学させやすい体制といえる。
日大医学部の18年度の志願者数は、定員102人に対して4509人だった。来年度については、「倍率は下がるにせよ、さほどの影響ではない」(同)という。
では、今回の騒動の影響をもっとも受けそうな学部はどこか。それは危機管理学部だ。同学部の18年度の志願者数は、定員150人に対して1877人。倍率は12倍強だった。