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パチンコ、「当日限り有効」カードの闇…脱法的行為、客の損で店舗が丸儲け

文=朝霞唯夫/ジャーナリスト
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パチンコ、「当日限り有効」カードの闇…脱法的行為、客の損で店舗が丸儲けの画像1カード会社が発行する「第三者型」プリペイドカード

 1990年代、ピーク時に遊技人口(ユーザー数)は3000万人ともいわれ、全国に約1万8000店舗、売上高は30兆円を記録した“娯楽の王様”、パチンコ。しかし、その後は減少の一途をたどり、ユーザーは約940万人にまで落ち込んでいるという。スマートフォン(スマホ)などの携帯ゲームをはじめ、娯楽の形態が変化し、ユーザーも高齢化してきたことが挙げられるようだ。とはいうものの、現在も「全国に約1万店舗あり、業界全体の年間売上高はここ数年、約20兆円となっている」(業界関係者)という。

 右肩下がりが続くと見られるパチンコ業界だが、それでも年間20兆円という巨大産業に、大きな問題点があるとの指摘もある。

「多くのユーザーは気にも留めていませんが、不当な“損切り”が行われ、利益の上積みを長年続けている店舗があります。このツケはユーザーが負っているのです」(業界関係者・A氏)

 どういうことか。パチンコ店の支払いシステムには、大きく分けて2種類ある。「第三者型プリペイドカード」を利用するものと、パチンコ店が独自に発行する「店発行型ICカード」を利用するものだ。

 前者は、プリペイドカード発行会社が資金決済法という法律に基づいて発行するカードをユーザーが購入し、このカードによってパチンコ玉やスロットのメダルを入手し、遊ぶ仕組みだ。これを導入している店舗は約3500店で、全パチンコ店舗の3割強とみられている。

 残りの6割以上の店舗が導入し、現在主流となっているのが、後者の「店発行型ICカード」を利用する仕組みで、ユーザーはまずパチンコ台の横に設置された玉貸機にお金を入れ、玉貸ボタンを押して出てきた玉で遊ぶ。遊戯終了時点で玉貸機に投入したお金の残高が残っている場合は、その金額分が記録されたICカードが発行され、店舗内に設置された精算機で精算することができる。

「パチンコ店の経営健全化、透明化を図るため、1989年に施行された前払式証票法は、のちに資金決済法に吸収され現在に至っています。同法に基づいた第三者型プリペイドカードを発行するよう業界内で意思統一が図られました。同法制定前にはカード会社が数社ありましたが、現在1社に統合されています。一方、その取り決めを無視し、法の網をかいくぐって違ったかたちで出来たのが、現在主流となっている店発行型ICカードを利用するものです」(A氏)

 資金決済法とは、前払い式支払手段に適用される法律で、2009年に制定されたもの。商品券、ギフト券、電子マネーなどが該当し、昨今話題の仮想通貨も対象となっている。プリペイドカードもこの法律に適用されるものだ。

 第三者型は、カード販売機が店舗内に設置されていても、売上は一度発行元のカード会社に流れる。ユーザーが店舗内で使用した金額分は、店側がカード会社に証票を送付し、カード会社から店舗に支払われる仕組みだ。これによって、ガラス張りの経営がなされることになる。しかも、カードの有効期限は無期限なので、ユーザーはカードに余った金額分については後日利用できる。

店発行型カードのカラクリ

 ところが、この資金決済法には“抜け道”がある。同法第4条には適用除外要件が示されており、この2項には「発行の日から政令で定める一定の期間内に限り使用できる前払式支払手段には、この法律を適用しない」と記されている。政令では6カ月以内なので、6カ月以下の期限が明記されているものは、同法の適用外の扱いとなる。それが店発行型ICカードを利用する店舗だ。

 店発行型の場合、店舗とユーザーの両者間の契約となる。この場合、2者間の取引行為は、民法上の契約に基づくものとされる。ユーザーのなかには、特定の店舗に通う人も多く、ここまでの説明では“ユーザーには関係ない話”と映るかもしれない。では、店発行型だと何が問題となるのか。

「多くの店発行型のカードは、『当日限り有効』などと明記されています。お金を投入して遊び始めたが、途中で店を出なければいけなくなったり、気分が乗らないから帰ったりするときは、大部分の人はパチンコ台横の玉貸機から出てくる残金が記録されたICカードを精算機に入れて精算する。しかし、なかには当日中に再び来店して遊ぶつもりでカードを持って店外に出たまま戻ってこなかったり、大きく勝ってすっかり喜んで精算し忘れたりするケースは、ままあることです。ところが、カードに残金があっても後日使用できず、その金額が少額であっても、ユーザーにとっては損金が発生してしまうことになる。その“浮いたカネ”は、そのまま店側の丸儲けとなるわけです」(A氏)

 本来であれば、後日気が向いた時、またパチンコを楽しもうとした際、使えるはずのカードが使えないというわけだ。別の業界関係者B氏は語る。

「第三者型を導入している店舗は約3500店。全体の3割強でしかありません。つまり6割以上の店舗がお客の精算し忘れた損金で儲けているのです。一人当たり少額の損金であっても、パチンコ台数300台以上の中規模店一店舗当たりで月間約20万円の儲けが出るといわれており、業界全体で年間100億円を上回るとみられています」

 一店舗当たり20万円であっても、6000店舗で12カ月を掛け合わせると144億円もの金額に膨れ上がる。ユーザーの気付かないところで店舗は暴利を貪っているという話なのだ。さらに、B氏は続ける。

「約1万店舗の半数以上は1円パチンコを導入しています。それだけ低額で遊ぶユーザーが増えているということです。だから、経営する側も利益が出にくい仕組みになっていて苦しい事情は理解できます。しかし、こういう時代だからこそ、お客さんを大切にし、経営をガラス張りにして業界を盛り上げる工夫をすることが大切だと感じています」

だらしない行政の罪

 矢野経済研究所によれば、2016年12月末のパチンコホール経営企業数は3421社で、15年末から1年間で151企業減少。同業企業が営業するパチンコ店舗数は16年12月末時点で1万678店舗と、15年末から315店舗が減少しているという。パチンコ経営が難しいことは、このデータを見るだけでもわかる。しかも、パチンコ台数300台以下の小規模店が軒並み閉店し、新規出店は400台以上の中規模店ばかりだという。薄利多売で利潤を求めるなかで、このような“損金”が計算のなかに組み込まれているとしたら、あまりにも酷い話ということになりはしないだろうか。

 A氏は「この問題は、店舗だけが悪いわけではない」と語る。

「業界全体のだらしなさもあるが、行政も情けない。そもそも、資金決済法に“抜け道”があること自体が問題なのです。しかし、同法を所轄する金融庁は是正しようとしない。同法の対象範囲が広く、パチンコのプリペイドカードだけに特化した適用を新たに設けることに消極的です。加えて、業界の所轄官庁である警察庁もこの問題には及び腰です。さらに、消費者庁も無関心すぎたきらいがあります」

 金融庁、警察庁、消費者庁といった複数にわたる省庁がこの問題を見逃してきた責任も大きいというのだ。業界も含めた4者が放置してきた結果、そのツケをユーザーが一身に背負ってきたといえる。

ユーザーの権利を一方的かつ著しく制限

 店発行型の場合、民法上の契約に基づくことは前述のとおりだが、2者間の契約行為は、対等ではない。店側と客側では立場上、情報の質や量、交渉力などに格差が存在している。そのため、消費者の権利を擁護するため、消費者契約法が定められている。その第10条には「消費者の利益を一方的に害する条項」が記されている。

「この『当日限り』の期限は、ユーザーの権利を一方的かつ著しく制限するもので、消費者契約法第10条によって無効になる可能性が極めて高いといえるでしょう」(業界に詳しい弁護士)

 ユーザーにしてみれば、無効だったカードが無期限で使用可能となり、“損切り”をさせられていたものが使用可能となるので朗報といえるだろう。しかし、店舗側にしてみれば、従来通り、「当日限り」を表記したまま翌日以降も使えるようなかたちで放置したままにすると、表示と違った使用が可能とみなされ、資金決済法の対象になる。そもそも、期限が無効になったカードは、言い換えれば「期限がないカード」。つまり、資金決済法の定めるところに従うことが求められ、従わない場合は罰則が科せられる。

 最後にA氏はこう警鐘を鳴らす。

「パチンコ業界は“脱税体質”とか、ギャンブル依存症を増やす元凶といった批判が根強くあります。加えて、売上も年々縮小傾向にある。それでも娯楽として楽しんでくれているお客様に支えられています。だからこそ、これまでの不透明な慣行を排除し、法律をきちんと遵守して、お客様の権利を適正に擁護する姿勢を明示することが求められているのだと、強く感じています。店が規制の目をかい潜って不当な利益を得ようとするやり方は、改めていかなければなりません」

 ユーザー側もまずはこのような事実を知ることが、“パチンコ改革”の第一歩なのかもしれない。
(文=朝霞唯夫/ジャーナリスト)

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