6月18日に発生した大阪北部地震を受けて、「日本は地震列島である」との認識があらためて高まっている。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災などを経た日本では、将来的に南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの発生も予測されている。
今回の大阪北部地震をめぐっては「南海トラフ巨大地震の前兆では」との見方も浮上しているが、実際はどうか。特徴や今後の注意点なども含めて、東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授に話を聞いた。
いつ大地震が起きてもおかしくない上町断層帯
――今回の大阪北部地震のメカニズムを教えてください。
遠田晋次氏(以下、遠田) 日本列島はプレートがひしめき合っているため、海上で大きな地震が発生します。今後、西日本では南海トラフ巨大地震が想定されています。実は、プレートの中もジワジワとゆがみが生じているのですが、仮に南海トラフ巨大地震が発生しても、そのゆがみが解消されるわけではありません。そのゆがみが長年にわたり蓄積され、プレート内部が割れるわけです。
プレート内部は日本列島全体で割れており、特に関西地方は岩盤が東西に押されて無数の活断層が生じています。関西独特の盆地や山地など起伏に富んだ地形は、活断層が何度も地震を起こしたためにできたものです。そんな活断層が多い関西で、今回の地震が発生したのです。
400年ほど前の慶長伏見地震ではマグニチュード(M)8弱の内陸型地震が発生していますが、直下型地震の発生という意味では、関西は関東地方よりも危険です。確かに東京や首都圏周辺でも地震は発生しますが、地下の深い部分で起きるため、それほど大きな被害にはなりにくいのです。今回の大阪北部地震は、震度6弱で、震源は深さ13kmという浅い地下で発生したので被害が大きくなっています。
――今回の地震について、遠田教授は「(大阪府を南北に縦断する活断層の)上町断層帯と関係している」との見解を示していますね。
遠田 現時点ではデータが少ないため断言はできませんが、上町断層帯は約8000年間隔で動くとされており、最後の地震から約9000年が経過しているので、いつ大地震を起こしてもおかしくない状態にあります。日本列島の活断層のなかでも、今後大地震を起こす可能性が高い部類といえます。
上町断層帯全体が動くとM7.5程度の地震が起きると推定されており、今後の状況を見極める必要があります。今回の地震がなかったとしても、多くの研究者がかねて「上町断層帯はそろそろ危険」と指摘していました。
――今後の注意点はなんでしょうか。
遠田 2016年の熊本地震では4月14日にM6.5の地震が発生し、その28時間後に本震が発生しました。その後も、M6.4などの余震が発生しています。今回も、余震がどのように起きるかを注視する必要があり、それによって周辺の活断層が刺激されているかどうかが見えてきます。
地震の深刻度からすると、南海トラフ沿いよりも上町断層帯のほうが高いかもしれません。阪神・淡路大震災の例を見ても、直下型地震は逃げる暇がなく多くの人命を奪うことがあります。ただ、南海トラフ巨大地震は津波などの危険はありますが、まだ避難するまでの時間的な余裕などがあると思われます。
東京の地震が「やっかい」な理由
――最近、関東地方の群馬県や千葉県でも地震が発生しましたが、関連はあるのでしょうか。
遠田 M9の東日本大震災は滋賀県の琵琶湖あたりまで地震活動に影響を及ぼしましたが、群馬地震はM5弱で極めて小さく、遠方の大阪北部まで影響を及ぼした可能性はほぼないと見ていいでしょう。
一方、千葉県南部で発生した地震については、岩盤の境目がゆっくりとずれて動く「スロースリップ」と呼ばれる現象が起きており、房総半島や関東になんらかの影響を及ぼすことはあり得ますが、こちらも大阪北部にまで影響を与えているとは考えにくいです。
地震が頻発すると「地球は活動期に入った」と表現する人もいますが、もともと日本列島全体が地震の多い地域なので、いわば偶然、一定の期間に複数の地震が発生したと見るべきでしょう。
――そもそも、事前に「大阪北部で大きな地震が発生しそうだ」という予測はあったのでしょうか。
遠田 今は長期的な視点で地震の予測を立てます。そのなかで、「上町断層帯は要注意だ」といわれていたので、そういう意味では指摘されてはいました。ただし、数カ月や数日単位での予測は困難です。
――「関東に巨大地震が来る」といわれて久しいですが、実際のところはいかがでしょうか。
遠田 東京は非常にやっかいです。実は、東京で発生する地震の仕組みがなかなか解明されていないのです。陸側プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートがあり、プレートがひしめき合っているので、東京の真下にはさまざまなタイプの地震が発生します。それぞれの境界やプレートの内部が割れることで、地震が発生します。そして、宮城県沖地震は約30年間隔、南海トラフ地震は百数十年間隔で、それぞれ発生することが過去の歴史や記録からわかっています。
しかし、東京については、過去に関東大震災を起こした相模トラフ沿いのメカニズムしかわかっていないのです。内陸の千葉市直下あたりで発生したといわれる、1855年の安政江戸大地震は相模トラフとはまったく違うタイプです。そのため、予測については「今までこれくらいの頻度で地震が発生した」という歴史的経緯で確率を試算しているにすぎません。
ほかに立川断層帯などの活断層もあり、東京ではさまざまなタイプの地震が発生する可能性があります。一方、大阪の場合は基本的に内陸の活断層による地震がほとんどであり、慶長伏見地震も同様です。
南海トラフ巨大地震は数十年以内に発生か
――南海トラフ地震についてはいかがでしょうか。
遠田 数十年後には、必ず発生します。昭和の東南海地震や南海地震はM8弱で、江戸時代の南海トラフ巨大地震である1707年の宝永地震はM8.6といわれています。
今回の大阪北部地震と南海トラフ巨大地震の直接の関連は少ないと見ています。ただし、「南海トラフ地震が発生する40~50年前から、内陸で大きい地震が起きやすい」という説もあります。また、不気味なのは東日本大震災の前に本州北部で多くの地震が発生したことです。たとえば、岩手・宮城内陸地震、新潟県中越地震、能登半島地震などです。それは、巨大地震の予兆的な活動だったと見ることもできます。
――今後の地震活動はどうなっていくのでしょうか。
遠田 全体的な話をすれば、関東を含む東日本は“ポスト東日本大震災”に、西日本は“プレ南海トラフ巨大地震”に備えるべきでしょう。西日本では数十年後に南海トラフ巨大地震が発生すると思われ、「早ければ5~10年後」と予測する人もいますが、その前段階として地震活動が活発になる可能性があります。
そして、東日本では、東日本大震災の余波で震源の周辺地域にゆがみが生まれ、活動が活発になる可能性があります。関東平野直下の地震が以前より増えた理由も、そこにあります。今回の大阪北部地震については、余震が続いていることを見ても、今後数カ月くらいは状況を注視していかなくてはなりません。特に、この数日間が山場でしょう。
――我々は巨大地震とどう向き合っていけばいいのでしょうか。
遠田 巨大地震はいつか発生するものですが、そのときのために人命救助やインフラ被害の復旧・復興のシステムを構築していくことが大事です。
(構成=長井雄一朗/ライター)