JALの株式の約96%を保有する企業再生支援機構がJALの再上場に向けて選定した国内幹事証券は、野村、大和、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の5社。海外幹事証券はメリルリンチ日本証券とモルガン・スタンレーMUFG証券の2社。野村は、当初からJALの上場のアドバイザーとなり、7社ある幹事団の中でも中心的な役割を担ってきた。
野村が外された表向きの理由は、増資インサイダー疑惑である。同社は6月末になって、2010年に実施された国際石油開発帝石、みずほフィナンシャルグループ、東京電力の増資に関する内部情報漏洩事件で、社員が主要な役割を演じていたことを公式に認めた。
金融庁は近日中にも、野村に対して業務改善命令を出し、経営責任にまで踏み込む構えを見せている。インサイダー増資疑惑の渦中にある野村を、国が出資するJALの主幹事にするわけにはいかないと、様々な場面で指摘されてきた。だが、本当の理由は別にある。
それは、JALと支援機構が激怒する出来事があり、野村は事実上、出入り禁止になっているのだ、と関係者はいう。
全日本空輸(ANA)は、最大1751億円の公募増資を発表した。主幹事は野村證券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券。増資インサイダー問題に関与した野村とJPモルガンが揃って幹事団に入った。計画を発表した7月3日の時点では、最大2110億円の資金調達を見込んでいたが、ANAの株価が急落して、2割近く目減りした。
その7月3日のこと。ANAの本社で伊東信一郎社長らが、増資の実務に関わった関係者を慰労するパーティーが開かれた。その席で証券会社を代表してあいさつをしたのが野村證券の幹部。この人物はJALの上場についても助言役を務めていた。ライバル会社の同じ種類の仕事に、同時にかかわるのは証券界では信義違反といわれている。情報漏洩が疑われたりするのでタブーなのである。
これにJALと支援機構が激怒。支援機構は「ANAの主幹事に野村が入ったことは心外だ」と不快感を示したと伝えられている。
だが、支援機構は野村がANAの主幹事になったことに不満でも、おいそれと野村を切れなかった。「販売力で野村の右に出る証券会社はいない」(証券関係者)からだ。