相続税なんて一部のお金持ちだけが払うもので、自分には関係のない税金、そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。確かに、今年まではそのように考えていても無理はありませんが、来年からは多くの方が相続税を払うことになりそうです。国は相続税を増税する一方で、高齢者から若年層への財産移転を推奨しており、制度を上手に利用すれば、非常に大きな節税になることもあります。
まず相続税の主な変更点を見てみると、基礎控除額が従来の6割の水準まで下がってしまうため、亡くなった方が多額の資産を形成していなくても、相続人に相続税が課せられる可能性は高くなります。例えば、夫が死亡して、妻と子供2人が相続人である場合には、14年中までは8000万円を超える資産について相続税がかかりますが、15年1月からは4800万円を超える資産に相続税がかかってきます。
相続税は預貯金や有価証券に対してのみ課税されるのではなく、土地や建物等も含む、あらゆる資産に対して課税されるため、大都市に一戸建てを所有していれば、この基準を超えてくる可能性が少なくありません。今回の改正により、相続税の課税対象となる人は従来の1.5倍になり、首都圏では4割近くの人が相続税の申告をすることになるとの見込みがあります。
したがって、今まで相続税なんて関係ないと思っていた人にも相続税が降りかかってくる可能性が大きいのです。
現在、世帯主が60歳以上の世帯が日本全体の約8割の金融資産を保有している、とも指摘されており、国は相続税を通じて亡くなった方から税金を徴収することを狙って、基礎控除額も将来的にはさらに下がる可能性があります。では、生前に資産を誰かに譲ってしまえばいいのかといえば、そうでもなく、資産を譲り受けた相手は贈与税を納めなければなりません。
そこで今回は、『税理士だけが知っている お金を残すしくみ』(集英社)の著者である、税理士の平澤元章氏に、相続税から資産を守る方法について話を聞きました。
最大1億5000万円を贈与税なしに譲り受けられる?
平澤元章氏(以下、平澤) 消費税はモノを買うたびに支払う税金ですから、買い物を控えることで増税に対応することが可能ですが、相続は人の死にかかわることであるため、コントロールすることができません。突然、何百万円もの相続税を支払わなければいけないことになったら、その衝撃は消費税の比ではないでしょう。
–相続税改正の趣旨は、どこにあるのでしょうか?
平澤 国は、「亡くなるまで財産を持っていると、相続税をたっぷり取るぞ」と脅しているのです。裏を返すと、「亡くなる前に、お金や財産を若い世代に移転しなさい」と言っているようなものです。景気は、お金や財産を持っているだけでは良くなっていきません。使ってこそ、経済が活性化するからです。
—相続増税で買い控えとなれば、なおさら経済は活性化しないですね。
平澤 最近では、趣味を楽しむアクティブなシニア世代も増えましたが、大きな消費活動になっているとはいえません。若い世代はというと、消費しようにも十分な経済力がないので、やはり経済活性に寄与するとまではいえない状況です。そこで、親世代から若い世代へ資産を移転できるように、さまざまな制度を設け、若い世代の消費の活性化につなげていくことを国は狙っています。例えば、資産を譲り受けても贈与税がかからない各種制度を整備しています。
–そうした制度を活用すれば、若い世代は資産を非課税で譲り受けることができますね。税制をよく知らずに損することがありますし、逆に知っていると得することは多いですよね。
平澤 普段の生活費を補う制度や、教育費、マイホーム取得資金など、贈与税がかからずに親から子へ資産を譲渡できる制度は、さまざまなものがあります。相続時精算課税という、2500万円まで親から子への贈与に対して贈与税をかけず、相続発生時に相続税として計算する制度があるのですが、来年から適用範囲が広がり、孫への贈与にも適用されます。
従って、両親と祖父母4人の計6人が存命の場合、最大で2500万円×6=1億5000万円までの金額について、贈与税を課せられることなく譲り受けることができるようになります。この相続時精算課税制度を利用した場合には、結果として相続税の節税には結びつかないこともありますが、資産をもらえるならば早いほうがいいですよね。この制度は、相続税が課税されない家庭でも使うことができるので、贈与税を回避して子や孫に資産を譲る節税策として活用をお勧めします。
–こうした法律を知っているのと知らないのとでは大違いですね。
平澤 その通りです。いざ相続が発生してからではなく、今のうちから勉強しておいたほうがよいと思います。こうした制度を利用するために必要な知識はそれほど多くありません。早くから相続に備えることで、大きなメリットを享受できることになります。
相続税の改正なんて自分には関係ないと思っている方も、関連する税制には、知って得する制度がいくつもあるようです。それらを上手に活用しましょう。
(文=尾藤克之/経営コンサルタント)