だが、不思議なのは、釣り師はなんの見返りがあって釣り行為をするのか、という点。その謎に迫っているのが、ネットウォッチャー・Hagex氏の著書『ネット釣り師が人々をとりこにする手口はこんなに凄い』(アスキー新書)だ。
まず、“釣りの動機”として挙げられるのは、「人から注目されたい」ということ。わざと炎上を起こす人や自分のきわどい写真を投稿する女性などと同様に、「注目されたい病」に罹患しているケースだ。また、「いたずら・ストレス解消・暇つぶし」の場合もある。これは「政治、宗教、人種、ジェンダーなど、センシティブなテーマについて、偏見を助長する創作文章を投稿し、読み手を怒らせる」のが目的。さらに、「自分の文章力・釣り師としての実力を試したい」人や、単純に「金銭をもらっているため」というケースも考えられる。
元釣り師が語る、釣り師の内幕
釣り師も十人十色ではあるが、本書では、一人の元釣り師にインタビューを決行。女性の憎悪が渦巻く掲示板として人気のサイト「発言小町」をフィールドに活動していた人物で、現在は釣り文章の鑑定師であるトピシュ氏(30代女性)が、知られざる“釣り師の内幕”を明かしているのだ。
そもそもトピシュ氏が釣りを始めたきっかけは、ただの「思いつき」。当初は普通に書き込みやトピ立て(特定の話題を振ったり質問をすること=トピック立て)を行っていたが、試しに炎上要素を加えて書いてみると多くの反響があり、面白さを感じたという。実際、「発言小町の通常平均的なレス(トピに対するコメント、回答)数は20〜30、多くて50ぐらい」というが、釣りトピだと「200~300はもちろん、500レスまでいきました」と話す。
彼女のような“固定の釣り師”は、「発言小町」においては「常時活動しているのは3〜4人ぐらい、最大10人程いると思います」というが、小町ウォッチャーならば、この数字に「思っていたより少ない」と感じたのではないだろうか。しかし、釣り師は決して1ネタだけで勝負しているわけではないらしい。というのも、彼女の場合は「1日2トピ立てよう」と課題を課し、「最終的には、20くらいのトピが並行しました」と話している。人を欺いているという罪悪感を解消するためにも、読者に喜んでもらいたい・満足させたいと思った彼女。そのためには「話を完結させる」ことが大事だと思い至ったが、1日中オチを考える結果を招き、やがて生活に支障を来すようになり、彼女は釣り師から足を洗ったそう。
マイナビニュースには釣り師が多い?
また、釣るためには“人物設定”も重要だ。例えば60代の女性が娘に連絡する時は固定電話を使うのか、それとも携帯電話なのか。買い物はネットスーパーなのか、地元のスーパーなのか、それとも生協なのか。まるで作家のような気の使いようだが、釣りと見破られないためには、こうしたディテールが大事なようだ。逆に、重要そうに思える文体に関しては、「特徴や雰囲気を出そうとすると、それを維持するのが大変なので」一般ユーザーが普通に書く文章を徹底したという。
さらに、「発言小町」は「投稿された内容を一度スタッフがチェックして掲載される検閲制」が取られているが、釣り師はそこにも気を使う。掲載不可となりそうな文章を書かないことはもちろんだが、スタッフが疲れてスルーしそうな時間帯を狙ったり、週末は派遣社員が検閲しているという憶測などを考慮して投稿していたという。いかにも大変そうだが、独特のランキングなどがある「発言小町」は、釣り師にとって「チャレンジしたくなる」システムなんだとか。
こうしてみると、緻密な釣りというのは決して楽な作業ではない。そして、掲示板などに寄せられる悩みや体験談のすべてが釣りではないかと疑心暗鬼になってくる。ただ、このように「すべては釣り」と考えてしまうことについて、著者は「自分で考えることをストップさせた状態」と警鐘を鳴らす。大事なのは、「自分の頭で文章を判断」する力なのだ。
ちなみに、釣り師が活発な場所としては、「発言小町」のほかに、日本最大の掲示板「2ちゃんねる」などが知られているが、「(ニュースサイトの)『マイナビニュース』は、本当に釣り師が多い」「運営がいちばん釣りにノリノリな感じがします」とのこと。果たして、あなたは釣りか否かを判断できるのか──修練の場として掲示板を覗いてみるのも有効かもしれない。
(文=編集部)