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「大塚将司『反メディア的!その記事、ダマされていませんか?』」第18回

移民の受け入れはタブーか?人口減の日本、所得格差拡大、市場トリプル安の懸念も

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移民の受け入れはタブーか?人口減の日本、所得格差拡大、市場トリプル安の懸念もの画像1「Thinkstock」より
 古今東西、人口の減る国家が経済発展した例はない。だが、多くの日本人は、その“前例のない未来”を期待しているようだ。アベノミクスを掲げる安倍晋三政権が高い支持率を維持しているのは、そのためだ。

 “前例のない未来”を実現すべく挑戦するのを否定する気は毛頭ない。しかし、歴史に学ぶことはできない。海図も磁石もなしに大海原に漕ぎだすようなもので、いつどこで難破するかわからないが、無事に航海を終え成功する可能性もゼロではないだろう。

 米欧の先進諸国は“日本の実験”を高みの見物と決め込んでいるように見えるが、内心は果たしてどうだろうか。固唾を呑んで見守っているような気がしてならない。将来、日本同様に人口減少に向かわないという保証はないからだ。日本が成功すれば、ねたましいことではあろうが、万が一、同じ境遇になった時、日本の成否に関係なく、まさに歴史に学べるからだ。

●減税政策は所得格差を拡大させる?

 しかし、アベノミクスの3本の矢のひとつである成長戦略を見ると、米欧の先進諸国の反面教師になってしまう公算が大きいと言わざるを得ない。

 復興法人増税の1年前倒し廃止の検討や、地域を限って規制を緩める「国家戦略特区」構想に見られるように、「税負担を軽くし、規制を取り払えば、日本企業が活力を取り戻し、日本経済を復活させる」という幻想に捉われているからだ。

 経営再建に際して、リストラにのみ邁進する企業経営者を総入れ替えでもしない限り、法人の税負担を軽くしても、その資本の大半が内部留保に回されるだけで従業員の給与に反映されず、所得格差の拡大に拍車をかける恐れが強い。医薬品など、劇的な技術革新を伴わない分野での規制緩和は、パイの奪い合い、主役の交代になるだけで、期待するような成長にはつながらない。

 では、“前例のない未来”につなげるには何がカギを握るのか。

 まず、産業革命を成し遂げた英国、そしてIT革命を主導した米国のように、日本が未来の人間社会を大きく変えるような技術革新をリードできるかどうかだ。それができれば、人口減の足かせなど、吹き飛ばせるかもしれない。この認識は今の日本政府にないわけではない。iPS細胞の研究支援策などはその一例だが、現時点では海のものとも山のものともわからないのが現実だ。

●人口減少社会の日本では移民も検討を

 次に、人口減に歯止めをかける策も必要不可欠だ。ここ数年、政府は出生率の引き上げに躍起になっているが、期待通りの結果は得られていない。安倍政権も労働力人口の確保に向け、管理職登用の奨励など女性の活用に積極的な姿勢を打ち出しており、問題の所在はわかっているのだろう。

 ならば、当然、検討してしかるべき政策がある。移民の受け入れだ。

 日本でも、移民受け入れの是非がマスコミを賑わせた時期がなかったわけではない。四半世紀前、バブル経済真っ盛りの1980年代後半だ。建設労働者など、人手不足がイケイケドンドンの日本経済の足かせになるとの懸念が強まり、議論は沸騰した。

 しかし、しばらくするとバブルが崩壊し人手不足が解消した上、バブル期に流入した外国人労働者の犯罪やトラブルも顕在化、議論は急速にしぼんで今日に至っている。最近はネット右翼も出現、外国人に対するヘイトスピーチも横行している。加えて、安倍首相の支持基盤は保守層の中でも右翼的傾向のある人たちが中心だ。

 欧米諸国と違い、日本にとって移民が極めてセンシティブな問題なのは間違いない。安倍首相がためらうのはよくわかるが、日本経済を“前例のない未来”に導きたいなら、この問題をタブー視せず、真正面からその是非につき国民的な議論を始める時だ。集団的自衛権の憲法解釈の変更などよりも先に取り組むべき課題なのだ。

●輸出産業で外貨の取り込みを

 3つ目は、新しい輸出産業の創出だ。それも、医薬品や航空宇宙技術など、欧米諸国の“牙城”の切り崩しを狙う必要がある。人口減で内需に期待できない以上、外需頼みで成長する以外に道がないのは自明なはずだ。

 確かに、アベノミクスの3本の矢のうち金融政策は成功した。1ドル=98円前後、日経平均株価1万4500円前後、債券相場も安定しているという最近のマーケットの相場水準は、今の日本経済の実力に見合っている。しかし、この居心地のいいところに安住できるわけではない。

 いつ何時、マーケットのセンチメントが豹変するか予測不能だからだ。市場がアベノミクスの成長戦略に期待し続ければ問題はないが、失望した時はどうなるか。恐らく市場は、円安・株安・債券安というトリプル安に動くだろう。

 その時、安倍政権は行き詰まるだろうが、日本にとって不幸なのは、デフレの是非も含めた経済政策の未来像について、明確な対立軸がないことだ。仮に3年後の衆議院総選挙で再び政権交代が実現しても、2009年の自公政権から民主党政権へ交代した時と同じ結果になる可能性が濃厚なのだ。

 この意味で、“前例のない未来”でなく、“身の丈に合った国民経済”を掲げ、所得格差を是正し、横ばいでも国民全体の生活水準を維持するような政策を打ち出し、政権獲得を目指す政党が出現することを期待したい。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

※本記事は、「週刊金曜日」(金曜日/966号)に掲載された大塚氏の連載『経済私考』に加筆したものです。
●大塚将司(おおつかしょうじ) 作家・経済評論家。著書に『流転の果て‐ニッポン金融盛衰記85→98』上下2巻など

BusinessJournal編集部

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