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米ファンド、出資元決定の既成事実化を狙った日経へのリークが裏目に

ルネサス救済、トヨタと経産省に案だけを盗まれたファンドの怒り

文=江田晃一/経済ジャーナリスト
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ルネサス救済、トヨタと経産省に案だけを盗まれたファンドの怒りの画像1ルネサスの官民共同買収案について報じる
9月22日付日経新聞。
 経営再建中のルネサスエレクトロニクスに対して、再建策を提示していた米国の投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が支援を断念したことがわかった。これにより、官民投資ファンドの産業革新機構を軸とした救済の枠組みを、ルネサス側は受け入れる見通しだ。KKRは日本市場からも撤退する可能性が濃厚。ただ、KKRを含めて出資を計画していた複数の投資ファンド関係者は、「経産省に完全に当て馬にされた」と怒りが収まらない。

 背景には、一体何があったのか?

「自社に影響が出る」と危機感を募らせたトヨタ

「そもそも話を持ちかけてきたのは経済産業省とトヨタ自動車だ」と投資ファンド関係者は憤る。

 話は今夏にさかのぼる。ルネサスが金融機関からの融資確保に奔走する中、経産省とトヨタの関係者が複数の国内外のファンド関係者と接触していた。ルネサスの抜本的な再建策に向けた枠組みづくりのためだ。

 ルネサスは東日本大震災以降、財務状況が悪化。金融機関や大株主の日立製作所、三菱電機、NECから支援を引き出せても急場しのぎにすぎないのは明白だった。年内に資金がショートしかねないため、国が水面下で早くも「次」の支援に向けて動き出していたわけだ。

 経産省とトヨタが、一部品メーカーのルネサスの動向を気にしていた背景には、ルネサスの主力製品であるマイコンの存在がある。東日本大震災でルネサスは那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災したことで、自動車用エンジンの心臓部となる半導体であるマイコンの供給を停止。自動車各社は減産に追い込まれた。ルネサスの自動車用マイコンのシェアは、国内市場に限れば8~9割。「社内でも、ルネサスが経営破たんすれば、影響は計り知れないとの危機意識が生まれた」(トヨタ関係者)

 震災後、トヨタ自動車やホンダなどは調達網の見直しに動き出して、ルネサス以外のメーカーからのマイコン調達も検討。ただ、自動車は製品供給期間が10~15年と長い。新車ならばともかく、既存の車種の半導体調達はルネサスに頼らざるを得ないのが実情だ。  

 トヨタにしても、自らが主役になりルネサスを支える気はないが、複数のファンド関係者によると「相当、危機感を持っていた」と振り返る。「ケチなトヨタさんが『出資しても構わない。救済の良いアイデアはないか』と熱心だった」との声もある。

KKRの1000億円出資報道は、既成事実化のため

 ファンド側が提案したのは、複数のファンドが軸になり、トヨタなど国内製造業から出資を募る方式。関係者は次のように語る。

「経産省側は産革機構を使う案も打診してきたが、こっちは『国が表立ってからむとうまくいかない』と釘を刺した。実際、公的資金を投じながら破たんしたエルピーダメモリの例もあり、産革機構のカードは切れない印象だった」と語る。

 こうした中、予想外の出来事が起きる。8月29日の日本経済新聞の報道だ。軸となるファンドの1社とみられたKKRがルネサスに1000億円出資提案すると、1面トップで報じた。経済誌記者は「ニュースの出元はKKR。既成事実化するためにリークした」と真相を語る。KKRは日本に進出して約5年だが、手がけた案件は1件のみ。「何がなんでもこの案件を取りたかったのだろうが、完全な逆効果だった」と指摘する。

 実際、日経の報道以降、「外資に製造業の中核技術が流出するのでは」との見方が支配的になり、動きにくかった経産省が、大手を振って「産革機構」のカードを使いやすくなったわけだ。

結局、ルネサスは国内市場向けに特化?

 産革機構の救済案は、同機構が軸になりトヨタなど製造業大手から出資を募る形式だった。ファンドが産革機構にすり替わっただけであり、ファンド側が提案していたのと同じ枠組みだ。関係者は「アイデアだけ盗まれた」と憤りを隠さない。

 ルネサスの赤尾泰社長は10年4月の会社発足後、「グローバルで戦える企業に変えていく」と強調してきた。だが、今回の産革機構の支援の枠組みは、ルネサスの再生というよりは、トヨタなどの大手製造業の意向を配慮した意味合いが強い。

 結果的に、海外の半導体大手が日本市場に攻め込む中、ルネサスは海外で取引を拡大するのではなく、「内向き」の姿勢を求められることになる。今回のルネサス救済は、日本の半導体産業が終焉にまた近づく一歩になるのかもしれない。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)

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