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社会の底辺化する介護業界、最低限生存の待遇…人手不足で覚せい剤常習者や犯罪者も就労

文=中村淳彦/フリーライター、編集協力=清談社
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社会の底辺化する介護業界、最低限生存の待遇…人手不足で覚せい剤常習者や犯罪者も就労の画像1「Thinkstock」より

「人手不足」「低賃金」「ブラック労働」と問題が山積する介護現場――。

 2014年に神奈川県川崎市の有料老人ホームで起きた転落死事件は、まだ記憶に新しい。また、最も世間に知れわたっているのは、介護職の低賃金問題だろう。全産業平均より大幅に低い賃金は国会でも問題になり、国の審議会で議論が繰り返されている。

「安い、低い」と叫ばれ続けたにもかかわらず、15年4月の法改正で介護報酬が大幅に引き下げられた。介護職の低待遇が社会問題化するなか、それが現場で懸命に働く人たちに出された結論である。

 介護職の人たちの給与は、介護報酬から支払われる。介護職は非正規雇用が多く、「いくら働いても、普通の生活ができない」という貧困に近い状態の人も多いが、これからはさらに困窮することになるだろう。

 これまでの「生かさず殺さず」から、「最低限、生存できる程度まで待遇を下げよう」というメッセージが、国から送られてしまったのだ。

暴力団から覚せい剤を購入していた女性職員が夜逃げ

 そのような状況で、最も深刻な問題である「人手不足」は加速するばかりだ。人手が足りないことによる過酷な労働で、離職率は相変わらず高く、すでに介護という職種は多くの人から見放されている。

 短大や専門学校など介護福祉士の養成機関は全国的に深刻な定員割れ状態で、有効求人倍率は他産業と比べて極端に高い。特に、大都市圏では4倍近くにまで達している。もはや、まともな採用ができない状態となっているのだ。

 ここで、私が経験した介護職の人たちのエピソードを書いておこう。

 私が介護にかかわったのは、08年のことだ。当時、すでに超高齢化社会が目前に迫っている事実は誰もが知っていた。そこで、私は「“介護”なら、なんとかなるかもしれない」と、最も参入障壁の低かったデイサービスを立ち上げた。

 介護は、介護保険法で「施設運営は誰でもOK」という強烈な規制緩和がなされた。そのため、街のラーメン店から大企業まで、介護の「か」の字も知らないような異業種の参入が現在進行形で続いている。

 ある日、施設を利用する高齢者と家族から絶大な信頼を受けていた、30代の女性介護福祉士・Aが突然出社しなくなった。「風邪」「ひどい生理痛」と適当な理由で毎朝連絡してきたが、嘘は明らかだった。

 Aは介護歴10年を超えるベテランでコミュニケーション能力が高く、施設のエース的な存在だった。辞められると困るため、私は欠勤に目をつぶって慎重に対応した。そして、欠勤が何日も続いた頃、突然、施設にいかつい男性がやってきたのだ。

「おい、職員のAは来ているか。俺は金を貸している者だ」

「ずっと休んでいますよ。それより、あなたはどちらの方ですか」

「あー、俺は○○組の者だよ。Aとはずっと付き合いがあったけど、この数日間、連絡が取れなくなって探しているところだ」

 なんと、暴力団関係者が施設を訪ねてきたのだ。詳しい事情を聞くと、1年半ほど前から、Aは暴力団関係者から覚せい剤を頻繁に購入しており、代金の一部を支払っていないという。

 Aは優秀な職員ではあったが、気分の浮き沈みが激しく、嘘が多く、現場を混乱させる元凶でもあった。「覚せい剤」と聞いて、Aのおかしな行動の点が線でつながった。

 仲のよかった職員が「暴力団関係者が施設に来た」とAに告げた翌日、Aは夜逃げした。数日後、暴力関係者だけでなく、地元の不動産業者や施設を利用する高齢者の家族までもがやってくるようになり、「Aさんはどうしたの!」というクレームや心配の声が上がった。

 そんな高齢者や家族に対して、「Aは覚せい剤を使用していた」とは、とても言えない。Aが踏み倒した家賃は、仕方なく私が支払い、高齢者の家族には適当な嘘をついた。

 介護職としては有能だったAが暴力団とつながり、覚せい剤を常用しているなどとは、夢にも思わない。Aは現在、東北地方の有料老人ホームに勤めていると聞いた。

ホームレスや犯罪者まで介護職に就く現実

 さすがに覚せい剤は特殊な事例だが、介護施設を運営していると、職員たちが引き起こすトラブルは絶えない。いじめ、パワハラ、セクハラなどは日常茶飯事である。

「豊かさ」や「幸せ」を提供するはずの福祉施設で、なぜこのようなことが起きるのだろうか。大きな原因のひとつは、限度を超えた人手不足である。応募があれば誰でも採用するため、本来であれば介護職に向いていない人材も多い。さらに、辞められると困るので、きつく注意することもできない。そんなことを繰り返せば、介護の現場は必然的に荒れてくる。

 介護職の人材不足は、本当に深刻である。25年には1947~49年生まれの団塊の世代が75歳以上となり、人口に対する高齢化率は現在の12%から30.5%まで膨れ上がる超高齢化社会を迎える。

 そのため、「現在240万人が従事する介護関係職を350万人まで増やさないと、業界が破綻する」といわれ、国を挙げて介護職の増加に取り組んでいる。この介護職不足は、「介護2025年問題」とも呼ばれている。

 しかし、低賃金問題は介護報酬減によって実質的に黙殺され、人手不足に拍車がかかることで、介護施設のブラック化が進んでいる。介護2025年問題は目前に迫っているが、解決の気配すらない。

 介護職の有効求人倍率は全国平均で2倍を超え、東京都4.34倍、愛知県3.96倍、大阪府2.77倍と、まさに目を覆うような状態だ。特に高齢化が急速に進む大都市圏で、人材不足が顕著となっている。

 人手不足の恐ろしさは、「現場が回らない」という目先の問題だけではない。今日や明日を乗り切るために採用の敷居を低くしたことで、介護の質の劣化が起きる。

 さらに国の政策が介護にからむことで、悪夢に拍車をかけている。09年、厚生労働省は失業者を対象とした「重点分野雇用創造事業」を行い、失業者、果てはホームレスまで介護職に送り込むプロジェクトを大々的に繰り広げた。

 そして先日、法務省は刑期が終わった受刑者がすぐに働けるように、介護分野の職業訓練に力を入れて介護施設に出所者を紹介するプランを発表した。人材不足による希望者の全入職だけではとどまらず、犯罪者の更生に利用される。介護業界の破壊が進むことは、容易に想像できる。

 このままでは、介護現場の崩壊は加速するばかりだ。そろそろ、一度立ち止まって本格的な崩壊を食い止める必要がある。
(文=中村淳彦/フリーライター、編集協力=清談社)

中村淳彦

中村淳彦

1972年、東京都生まれ。アダルト業界の実態を描いた『名前のない女たち』(宝島社)、『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)など著書多数。フリーライターとして執筆を続けるかたわら介護事業に進出し、デイサービス事業所の代表を務めた経験をもとにした『崩壊する介護現場』(ベスト新書)が話題となる。近著に『ルポ 中年童貞』(幻冬舎新書)、『女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル』(朝日新書)、『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』(ミリオン出版)など。

Twitter:@atu_nakamura

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