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宇多川久美子「薬剤師が教える薬のリスク」

日焼け止め、その強力な毒性…皮膚がんの恐れ、精子減少や脳への悪影響が動物実験で判明

文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士
日焼け止め、その強力な毒性…皮膚がんの恐れ、精子減少や脳への悪影響が動物実験で判明の画像1「Thinkstock」より

 本連載前回記事では、日焼け止めについての基本的な解説をしました。今回は、日焼け止めの弊害について考えてみたいと思います。

 前回もウォータープルーフタイプの日焼け止めは、帰宅したらできるだけ早く洗い流すことが大切と述べましたが、日焼け止めの効果が高く、落ちにくいということは、日焼け止め成分が肌に密着しているわけで、日焼け止めを塗っている肌は、皮膚呼吸が正しく行われていません。また、途中で何度も塗り直せば、皮膚はさらに呼吸できない状態が続きます。そのことで皮膚の代謝がうまくいかず、肌トラブルの原因になる可能性があります。

 日本で発売されている日焼け止め、売れ筋10商品のうち9商品に使用されている紫外線吸収成分「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」に、環境ホルモン作用があることがわかってきました。この成分は、女性ホルモンだけでなく、男性ホルモンや甲状腺ホルモンもかく乱することが示唆されています。

 2011年のラットを使った実験では、妊娠中と授乳期での母親への暴露によって、母親と生まれたオスの子どもで、甲状腺ホルモンレベルの減少が確認されています。オスの子どもの男性ホルモンの量が少なく、前立腺と精巣サイズが小さくなり精子数の減少も確認され、脳の発達への影響も指摘されています。また、この成分は皮膚から浸透し体内へ吸収されることもわかっており、授乳中の母親を対象にしたスイスでの調査では、母乳の78%から検出されたとのことです。

 甲状腺ホルモンのバランスの乱れは、倦怠感や疲労感、皮膚や髪のハリ・艶を失う、冷え性、便秘なども引き起こす可能性があります。

 紫外線吸収成分のパラアミノ安息香酸は皮膚がんを引き起こす可能性が指摘されています。

 また、紫外線吸収剤より人体への影響が小さいといわれている紫外線散乱剤ですが、その主成分である酸化チタンや酸化亜鉛も、WHO(世界保健機関)がその発がん性を指摘しています。また、東京理科大学のマウス実験では、子どもの脳や精巣に粒子が入り込み、細胞死や生殖機能低下を引き起こすことがわかっています。

ビタミンDの欠乏を招く

 大阪樟蔭女子大などの研究チームの調査で「20代の女性が週3回以上日焼け止めを使った場合、血中のビタミンD濃度が常に欠乏状態になっていた」ということが明らかになりました。

 ビタミンDは紫外線を浴びることによって体内でつくられ、骨の形成や免疫機能にかかわっています。不足すると、骨粗しょう症などの発症リスクが高くなります。厚生労働省によると、骨や健康を保つビタミンDの血中濃度の基準は1ミリリットルあたり20ナノグラム(ナノは10億分の1)以上で、それを下回る場合は欠乏状態とされています。

 このことは、紫外線を防ぐオゾン層の破壊が問題となり、皮膚がんやシミ予防のための紫外線対策が普及したこととも関連が深く、1980年代の女性と比較した結果、血中のビタミンD濃度は、通年でかなり低下していたこともわかりました。

 紫外線による皮膚がん発症のリスクもありますが、紫外線を浴びることは最も重要なビタミンD源となります。ビタミンDは、10種類以上のがん、多発性硬化症、骨粗鬆症、その他多くの重大な病気のリスク低減に関係していることがわかっています。

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、成人について1日のビタミンDの摂取目安量として、最低5.5マイクログラム、上限50マイクログラムを推奨しています。

 日本では、かつてはビタミンDが豊富な魚介類の摂取や積極的な日光浴により、ビタミンDは十分供給されていたと考えられます。それが最近では、乳幼児・妊婦・若年女性・寝たきり高齢者等を中心にビタミンD不足が指摘されています。

 紫外線吸収剤も紫外線散乱剤も、どんどん微粒子化され、肌の奥まで浸透してしまいます。また、肌の露出が増えれば増えるほど日焼け止めを広範囲に塗ることになるので、全身から経皮吸収され体内に蓄積します。日焼け止めを食べようとは思わないでしょうが、食べたのと同じように吸収されてしまうのです。その毒性は計り知れません。

 そのほかにも、夏の炎天下で使用することも多いことから、雑菌の繁殖や、変質、日焼け止めを落とすために界面活性剤を大量に含んだ強力なクレンジングの使用による肌へのダメージなども考えられます。

健康な肌を保つために

 私たちの皮膚は常に生まれ変わっています。通常の日焼けであれば、正常なターンオーバーが促され、健康な肌の状態を保つことができるはずです。

 そこで大切なのは、食生活と睡眠です。野菜中心のバランスの取れた食生活と、十分な睡眠で代謝を促してください。

 私たち黄色人種は、白人と比べて皮膚がんに罹るリスクはかなり低いです。白人のデータを鵜呑みにして日焼け止めを必要以上に塗ることは、上記の弊害も含め、皮膚だけでなく内臓にも、慢性的なダメージを与えてしまいます。

 日焼け止めを必須アイテムと考えるのではなく、塗るメリットとデメリット、塗らないメリットとデメリットを、よく考えてみてください。

 ちなみに、筆者は以前、SPFの高い日焼け止めを毎日せっせと塗っていましたが、今は市販の日焼け止めは一切使わなくなりました。しかし、無防備というわけではありません。日焼け止めは使わずにできるだけ紫外線を防ぐ対策をしています。

 日中出かけるときは、帽子と日傘は必須ですし、できるだけUVカット加工の長袖の服を羽織るようにしています。目からも紫外線を入れないように、サングラスも使っています。帽子はもはや私のコレクションになっていて、その日のファッションによって楽しく使い分けています。夏の日差しの強い時でも、普段の紫外線対策はこれで十分だと思います。

 私の体感では、紫外線防止効果の高い日焼け止めを使っていたころより、肌は今のほうがかさつきもなくしっとりしていると思います。

 そして紫外線の強い季節は果物・野菜を多めに摂り、肌のターンオーバーを促すビタミン・ミネラルを補給しています。ビタミンDもしっかり摂れるように、鮭などの魚やきのこ類もしっかり食べるようにしています。

 一昔前は「小麦色の肌が健康的」といわれていましたが、今は美白ブームです。オゾン層の破壊が問題になって以降、紫外線や日焼けのデメリットばかりがクローズアップされているように思います。

 しかし、白い肌を維持していても、「ビタミンD不足で骨粗しょう症になり寝たきり……」といった事態になってしまっては意味がありませんから、日焼け止めはよく考えて使いましょう。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

薬剤師として20年間医療の現場に身を置く中で、薬漬けの治療法に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は、自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に、薬に頼らない健康法を多くの人々に伝えている。『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)、『薬が病気をつくる』(あさ出版)、『日本人はなぜ、「薬」を飲み過ぎるのか?』(ベストセラーズ)、『薬剤師は抗がん剤を使わない』(廣済堂出版)など著書多数。最新刊は3月23日出版の『それでも「コレステロール薬」を飲みますか?』(河出書房新社)。

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