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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

今冬の厳冬、日本経済に多大な恩恵…過去のラニーニャ現象発生時、景気回復局面に一致

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

幅広い寒波効果

 以上により、ラニーニャ現象により今年の冬も厳冬となりつつあるため、各業界に恩恵が及ぶ可能性がある。

 事実、過去のデータによれば、厳冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、ガス等のエネルギー関連のほか、医薬品やマスク等のインフルエンザ関連も過去の厳冬では業績が大きく左右されている。そのほか、車等の防寒や凍結対策関連といった業界も厳冬の年には業績が好調になることが多い。さらに、鍋等冬に好まれる食料品を提供する業界や外食、コンビニ等の売り上げも増加しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連等への好影響も目立つ。

過去の寒波により恩恵を受けた業界
薬、防寒・凍結対策、鍋、冬物販売、冬物衣料、暖房、レジャー、マスク、ガス、医薬品、卸小売、食料品、繊維製品、etc
(出所)各種アナリストレポートを基に作成

10-12月期の気温▲1℃低下で家計消費+3,200 億円程度増加

 そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて10-12月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪平均の気温の前年差の関係を見た。すると、10-12月期は気温が低下した時に実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温の関係だけを見れば、厳冬は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

今冬の厳冬、日本経済に多大な恩恵…過去のラニーニャ現象発生時、景気回復局面に一致の画像4

 そこで、1995年以降のデータを用いて10-12月期の東京・大阪平均気温前年差と家計消費支出の関係を見ると、10-12月期の気温が▲1℃低下すると、同時期の家計消費支出が+0.54%程度押し上げられる関係がある。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が▲1℃低下すると、同時期の家計消費支出を約+3,235 億円程度押し上げることになる。

 従って、この関係を用いて今年10-12月期の気温が94 年および2010 年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が前年比でそれぞれ▲0.6℃、▲0.7℃低下することにより、今年10-12月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて+2,098 億円(+0.3%)、+2,430 億円(+0.4%)程度押し上げられることになる。このように、厳冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

今冬の厳冬、日本経済に多大な恩恵…過去のラニーニャ現象発生時、景気回復局面に一致の画像5

 なお、05年の時のように年明け以降の厳冬は、豪雪に伴う交通機関の乱れや農作物の生育などへの悪影響を通じて経済活動に悪影響を与える可能性があることには注意が必要だろう。

 また、異常気象は世界的な現象であることから、海外にも影響が及ぶことにより、穀物価格高騰を通じた悪影響も考えられる。世界的なラニーニャ現象により穀物価格が高騰すれば、08 年当時のように我が国の食料品の値上げラッシュをもたらし、家計の購買力低下を通じて経済に悪影響をもたらしかねないことにも注意が必要だろう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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