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こんな『チアダン』見たくなかった…珠玉の傑作を自ら破綻させた脚本家の無理解

文=吉川織部/ドラマウォッチャー
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 土屋太鳳主演の連続テレビドラマ『チアダン』(TBS系)の最終回が14日に放送される。この作品は、広瀬すずが主演を務めた同名映画で描かれたチアダンス部「JETS」の打倒を目指す、福井西高校のチアダンス部「ROCKETS」を描く青春ドラマ。土屋やE-girlsの石井杏奈らによる吹き替えなしのダンスシーンが見どころのひとつとなっている。最終回の放送を前に、9月7日に放送された第9話を振り返っておこう。ちなみに、第9話の平均視聴率は、第8話から0.2ポイント上がって6.8%だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 全国大会への切符を手にしたROCKETSは、部長の藤谷わかば(土屋)を中心に練習に励んでいた。だが、大会まで39日を切ったある日、わかばにケガが見つかる。膝の靭帯損傷により、全治1カ月はかかるというのだ。大事な時期にケガをしてしまったことにいら立ちを隠せないわかばに、ROCKETSのコーチを務める藤谷あおい(新木優子)は「踊れなくてもできることはたくさんある」とアドバイスを送る。

 翌日、部室を訪れたわかばは部員たちに「全国大会には出ない」と宣言する。大会までに完治したとしても、練習の遅れを取り戻せないだろうとの判断だ。だが、20人全員で勝たなければ意味がないと考える桐生汐里(石井杏奈)は激しく反発。「もうROCKETSに来なくていい」とわかばに言い放つ。予想外の反応に、わかばは呆然としながら部室を出ていった――という展開だった。

 最終回の放送を前にネガティブなことを発信するのもどうかと思うが、はっきり言ってこのドラマはほとんど破綻しかけている。視聴者の間では、部員の一人が「辞める」もしくは「大会に出ない」と言い出し、最終的に解決するというパターンが7話から3週続いたことを揶揄する声も多いが、それは単なるネタ切れである。褒められることでもないが、これ自体は「破綻」とは言えない。

 筆者がこのドラマを「破綻しかけている」と考える理由は、「ドラマとしてのテーマを見失っているから」の一点に集約される。第4話あたりから強調されるようになった「チアスピリット」は、いつの間にやら脚本家の頭の中から忘れ去られてしまったようだ。このため、部員たちも「どんな時も笑顔で周囲の人を応援する」というチアスピリットの精神を完全に失ってしまっている。

 これが顕著に表れたのは、「大会に出ない」と宣言したわかばへの汐里の反応だ。あろうことか、わかばの背中にシューズをぶつけ、わかばがせっかく書き上げたフォーメーション案を破り捨てるという暴挙に出た。自分たちが据えた部長に向かって「もう来るな」「ウザい」と言い放つ汐里や他の部員たちもひどすぎる。

 最終的に、こうしたわかばへの暴言や突き放した態度は、「ケガを一刻も早く治して大会に出場しよう」と思ってもらうための荒療治だったことが明かされた。だが、それで話が成立していると脚本家が考えたのなら、それは大間違いだ。女子高校生たちを描く普通の学園ドラマなら、それでいいかもしれない。しかし、これはチアダンス部のドラマである。いくらわかばを奮起させるためとはいえ、こぞって仲間に暴言を吐いたり、暴力めいた行為をしたりする部員たちがチアスピリットを大切にしているとはとても言えないはずだ。

 なかでもドラマ全体を否定していると感じたのは、汐里がわかばにぶつけた「きれいごとばかり言うな」「いつもいい子ぶるな」という台詞だ。ROCKETSを温かく見守ってきた顧問の漆戸太郎(オダギリジョー)が言ったのなら話は別だ。自分の感情に素直になるようにと優しく諭す、いい場面になったはずだ。だが、同じチアダンス部の部員である汐里がわかばに同じ台詞を言ってしまうと、まるで意味が違ってくる。なぜなら、「どんな時にも笑顔を絶やさず、敵味方の区別なくすべての人を応援する」というチアスピリットは、はっきり言ってきれいごとであり、いい子ぶった考え方であるからだ。それでもあえてそれを貫くところに、意味があるのではないだろうか。

 それなのに今回、脚本家は汐里にチアスピリットを否定するような発言をさせてしまった。チアスピリットならではのきれいごとを貫いて敵対する相手を改心させ、和解に導いた第5話のファンタジー路線のほうがよっぽど筋が通っていて納得できた。

 そうこう言っても、いよいよ最終回である。TBSのサイトによれば、放送一週間前を切ってもまだエキストラを動員してのロケがあったようだ。ギリギリなスケジュールの中、女優たちは全力を尽くして撮影に臨んだはず。せめて最後は感動のフィナーレを見せて欲しい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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