
高齢者やその家族がもっとも不安に思っているのは、その高齢者が“認知症になったらどうしよう”ということではないでしょうか。
ひと昔前は、認知症になった人の話題や事件はあまり多くありませんでしたが、最近は認知症の人が起こす事件が増えています。85歳を過ぎると約半数の人が、90歳になると約60%の人が、認知症になるといわれています。平均寿命が82~83歳の頃は、ほとんどの人は認知症になる前に亡くなっていたので問題は生じませんでした。それが近年、寿命が伸び、平均寿命が90歳近くになったため、認知症を発症する人が増え、事件を起こすことが多くなりました。
認知症になると、脳の神経細胞の変化や脱落により、体験したことを丸ごと忘れたり、判断力が低下し、忘れたことの自覚が無くなり日常生活に支障をきたすようになります。単に老化による物忘れとは異なる症状です。忘れることが多いため、同じものを買い込んだり、薬を飲み忘れたり、水を出しっ放しにしたり、ガスをつけっ放しにしたりと、放っておけない状況になります。
認知症がほかの病気と異なる点として、ほかの病気では診断されてからだんだん症状が重くなり、手がかかるようになりますが、認知症の場合は認知症と診断される前後が一番元気に動き回るので、もっとも目が離せず、手がかかり、お金もかかることになります。だんだん手やお金がかかるようになる場合は準備をする時間がありますが、突然、手やお金がかかるようになると準備をする時間がないことになります。
認知症になると、突然介護が必要になるので、見守る人も突然必要になります。働いている人は仕事を辞めるか、他人を雇う必要がでてきます。仕事を辞める人にとっては、収入が突然無くなることを意味します。また、他人を雇う場合は費用がかかるので、そのための資金が必要になります。
介護保険があるといっても、介護保険でカバーできるのはごくわずかな時間だけです。週5日間、1日8時間程度です。介護保険は、介護をしている家族に“休む時間を与える”程度のサービスを提供するだけです。月曜日から金曜日の夜間は家族が面倒を見なければなりませんし、土日もほとんど家族が世話をしなければなりません。すべての見守りを介護保険でまかなうと莫大な費用がかかるため、平均的な収入の世帯にとっては、すべてを介護保険に頼ることはできません。