PayPayは日本人の“財布を握った”のか?激増したユーザーを逃さない巧妙な戦略
ダウンロードしたものの、数回使っただけで休眠状態だったり、アンインストールしてしまったりしたアプリがある人も多いはずだ。テレビCMなどでは「数百万ダウンロード突破!」と威勢のいい言葉を聞くが、実際にどんなアプリがどの性年代にどのくらい使われ続けているのか。
本連載では、ダウンロード数だけでは見えない「アプリの利用率」をモニターの利用動向から調べるサービス「App Ape」を提供しているフラーに、四半期ごとに人気アプリの実態について聞いている。
今回も、同社のコンサルティング本部長の岡田雄伸氏、「App Ape Lab」編集長の日影耕造氏に、2018年第4四半期(10~12月)を中心にアプリの動向を聞いた。
PayPayユーザー激増の裏に巧妙な戦略
――毎回こちらの連載では四半期を象徴するアプリを岡田さんに紹介していただいていますが、18年10~12月を象徴するアプリはなんでしょうか?
岡田雄伸氏(以下、岡田) 猛烈にユーザー数を増やした、QRコードを使ったスマホ決済サービスアプリ「PayPay」ですね。PayPayはソフトバンクとヤフーの合弁会社PayPayによるサービスで、技術面ではインドの決済サービス事業者Paytmと連携しています。
――政府発表の「未来投資戦略 2017」では、27 年までに現金以外のキャッシュレス決済比率を16年時点の20%から倍の40%程度まで上げるという目標が掲げられています。日本は「現金主義」の人も多く、他国と比べキャッシュレス決済の割合が低いともいわれていますね。
岡田 PayPayのサービス提供開始は18年10月5日です。そこから、ユーザーがどう増えたのかを見てみましょう。こちらが、App Apeによる所持ユーザーの推移になります。実数は出せないのですが、11月最終週から12月1週目までのわずか2週でユーザー数が激増しました。これほど短期間でユーザー数がここまで増えたアプリは、なかなかないですね。
――ユーザー激増の背景には何があったのでしょうか?
岡田 11月22日に発表した大型キャンペーンの影響があります。「100億円あげちゃうキャンペーン」というもので、「支払額の20%がPayPayボーナスとして還元される」と「40回に1回の確率で支払額の全額がPayPayボーナスで還元される」という2つの特典で構成され、PayPay側のユーザーへの還元金額が100億円になるまで行われるというものです。タレントの宮川大輔さんが出演するコマーシャルもよく見ましたよね。
――コンビニでの買い物ならともかく、家電量販店で数万円の買い物でこの還元率は大きいですね。当初、キャンペーン期間は18年12月4日から19年3月31日でしたが、開始から10日目の18年12月13日に還元金額が100億円に達したとして、大幅に前倒しされて終了しました。ただ、グラフを見るとキャンペーン終了後もPayPayのユーザーは減っていませんね。
岡田 還元されるポイントは、毎月月末までの合計が翌月10日前後に付与されるとあります。当然、ユーザーはそれまでアプリを消すわけにはいかないですから、付与のタイミングがうまいですね。
また、PayPayは2月12日から100億円還元キャンペーンの第2弾を始めています。第1弾よりも還元率などのインパクトは下がっていますが、PayPayの負担が100億円になるまで続ける点は変わりません。
PayPayのメインユーザーは40代男性?
――PayPayでは二重決済や覚えのない請求が来るなどのトラブルも一部であったようですが、大盤振る舞いで出足は好調といえそうですね。
岡田 なお、PayPayの利用者の性年代はこのようになっています。
――40代男性の割合が一番高いんですね。決済アプリなので経済力に乏しい10代が弱いのはわかるのですが、男女とも20代、30代よりも40代の割合がもっとも高いのは意外ですね。
岡田 キャンペーン第1弾の際は、ビックカメラに大行列ができたそうです。PayPayユーザーの性年代を見ると、家電量販店で見かける客層と重なりますよね。文字通り「お財布を握った」と言いますか。
日影耕造氏 40代男性というリアルの購買層に対してPayPayの普及が進んだことは、PayPayを導入したい加盟店に対してもアピールになったと思います。
第1弾のキャンペーンで大量獲得した顧客に対し、今後はアプリであることを生かしてプッシュ通知でキャンペーンの告知ができますからね。「PayPayは一発屋」という論調の報道もありますが、こうしてApp Apeの状況を見る限り、現時点ではうまくいっていると思います。第1弾のキャンペーンに乗り遅れたユーザーに向けて、すかさず第2弾のキャンペーンを繰り出すなど、リテンション(顧客維持)のための取り組みも奏功していますね。
岡田 PayPayの競合として、「LINE Pay」も後追いでポイント20%還元のキャンペーンを行っています。今後もQR決済市場は過熱していくのではないでしょうか。メルカリも「メルペイ」を出し、日本より電子マネー利用が進む中国で普及している「アリペイ」、意外なところでは「ゆうちょPay」などもありますから。
そして、PayPayの100億円キャンペーンで割りを食ってしまった可能性があるのが、アマゾンが年2回行う目玉バーゲンのひとつ「サイバーマンデー」です。
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世界の流通を席巻するアマゾンの思わぬ伏兵は「決済手段」のPayPayなのか? 後編では、引き続き岡田氏と日影氏にPayPayとアマゾンがぶつかり合った年末商戦についてうかがう。
(構成=石徹白未亜/ライター)
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