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新1万円札の渋沢栄一が作ったナンバーズバンク…十九銀行と六十三銀行の合併で八十二銀行

文=菊地浩之
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新1万円札の渋沢栄一が作ったナンバーズバンク…十九銀行と六十三銀行の合併で八十二銀行の画像2現在の八十二銀行の公式サイト

八十二銀行は82番目ではない

 変わったところでは、十九銀行と六十三銀行が合併してできた八十二銀行(長野県)がある。1931年に合併を決めた両行の頭取が、合併後の行名が決まらず、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に相談すると、三菱銀行常務(のちの頭取)の加藤武男が、「造作ないことだ。ナンバー2つを加えて、八十二にしたらどうか」と助言したという。

 元祖・第八十二銀行(鳥取県)は1897年に第三銀行(東京)に吸収合併された後、安田銀行(富士銀行を経て、現・みずほ銀行)になっていたので、安田銀行に諒解を求め、正式決定したという。なんて義理堅い。

 では、なぜ三菱銀行に相談したかといえば、加藤の前任頭取・瀬下(せじも)清が長野県出身だったことから、金融危機の際に瀬下を介して三菱銀行に経営支援を頼ったという関係だったからだ。というわけで、八十二銀行は現在も三菱UFJ銀行と親密な関係にある。金融危機の時、加藤(栃木県出身)が頭取だったら、別の関係が生まれていたかもしれない。

 ちなみに、三菱銀行も第百十九国立銀行(大分県)を母体とする。第百十九国立銀行は臼杵藩士が出資しあって設立した銀行である。明治維新後、廃藩置県によって藩がなくなると、明治政府が藩に代わって武士に俸給を与えていた。明治政府はその額を徐々に減封していったが、1876年に秩禄(ちつろく)処分を実施。ありていにいえば、退職金を支払って、武士に対する俸給を廃止してしまったのだ。そこで、地方の武士たちはそのカネを元手に、互いに出資しあって国立銀行を設立したが、「武士の商法」でうまくいかないものもあった。第百十九国立銀行もその一例である。

 ちょうど、三菱財閥の筆頭幹部・荘田(しょうだ)平五郎が旧臼杵藩士だったから、ツテを頼って荘田に経営救済を求め、三菱側がこれを快諾。1895年に三菱合資会社銀行部に編入された。独立した銀行が財閥本社の事業部に組み込まれるという前代未聞の事態に、金融当局は渋りに渋ったようだが、三菱財閥はこれを押し切った。まぁ、当時の日本銀行総裁は元三菱幹部の川田小一郎(その後任は岩崎弥之助。弥太郎の弟)なくらいだから、三菱側の勝利は目に見えていたのだが。

第三銀行は3番目ではない

 また、現在の第三銀行(三重県)は第三相互銀行を母体としたものであり、第三国立銀行の系譜を引いていない。元祖・第八十二銀行が第三銀行に吸収合併され、安田銀行になっていたと先述したが、こちらの第三銀行こそ、第三国立銀行の後身だ。この第三国立銀行をつくった安田善次郎は、金融財閥の安田財閥の創設者である。

 中学校の歴史の授業で、「鎌倉幕府の問注所(もんちゅうじょ)執事・三善(みよし)康信」という人物について習った覚えはないだろうか。安田家はその三善氏の子孫と称し、善次郎は「三」という数字をことのほか好んでいたという。そのため、善次郎は公的な銀行業務は第三国立銀行、私的なことには安田銀行と使い分けていたのだが、善次郎の死後はそんな使い分けも無意味なものになり、合併させられてしまったらしい。

 ちなみに、現在の第三銀行は、2021年をメドに三重銀行を吸収合併して「三十三銀行」を名乗って、県内最大手の百五銀行に対抗するらしい。33vs.105は、どちらが勝つのか興味は尽きないが、合併して百三十八銀行になる可能性も否めない。
(文=菊地浩之)

新1万円札の渋沢栄一が作ったナンバーズバンク…十九銀行と六十三銀行の合併で八十二銀行の画像3
●菊地浩之(きくち・ひろゆき)
1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『徳川家臣団の謎』(角川選書、2016年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)など多数。

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