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田中圭太郎「現場からの視点」

東京五輪期間、東京メトロ「歩行困難」…パラリンピック期間、障害者の移動が困難かつ危険

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
東京五輪期間、東京メトロ「歩行困難」…パラリンピック期間、障害者の移動が困難かつ危険の画像1
東京メトロ丸ノ内線(「Wikipedia」より/Cfktj1596)

 東京2020オリンピック・パラリンピックまであと1年あまり。7月3日は建設中の新国立競技場が公開されたほか、東京都心にある駅ではエレベーターの新設工事などが進められている。受け入れの準備はこれからさらに活発になるだろう。

 大会には海外から大勢の関係者や観客が訪れる。交通機関で気になることをあえて挙げるとすれば、バリアフリーへの対応だ。車いすユーザーや、高齢者、大きなスーツケースを持つ人、ベビーカーのユーザーは、普段の通勤時間帯などの満員電車さえも乗ることを躊躇している。

 特にパラリンピックは過去の大会から予測すると、4000人以上の選手が訪れ、そのうち車いすユーザーは1800人以上になる可能性がある。さらに国内外から障害のある人が大勢東京を訪れるだろう。見過ごされていることはないのか、交通機関のバリアフリーの現状をみていきたい。

オリンピック期間中の混雑は「歩行が困難」「極度の制約」

 東京メトロは6月28日、オリンピック期間中の競技会場最寄駅の混雑予想を発表した。混雑予想は東京メトロのホームページで見ることができる。競技会場周辺にある8つの駅について、朝のラッシュ時に混雑が予想される場所を構内図で示しているほか、大会期間中に混雑が予想される出口などを、時間帯別に「混雑している」「とても混雑している」に分類した。

 そのうち7つの駅で、「とても混雑している」時間帯があることを明らかにしている。東京メトロによると、「とても混雑している」とは、「歩行が困難な状態から、極度の制約を受ける状態」だという。つまり、ほとんど身動きがとれない状態だ。

「とても混雑している」時間帯が特に多いと予想されているのが、有楽町線の辰巳駅。競泳などが行われる東京アクアティクスセンターと、水球の会場の東京辰巳国際水泳場の最寄駅になっている。大会期間中のうち15日間、朝、昼、夕方の時間帯に大変な混雑が予想されているのだ。

 混雑状況を公表するのは、通勤などで日常使っている人は、混雑が予想される時間を確認して、できれば利用を避けてほしい、という趣旨だろう。東京メトロはいち早く対応を始めたといえる。

 しかし、オリンピックの観戦に訪れる人のなかには、障害のある人もいる。身動きがとれないような混雑で、視覚などに障害のある人や、車いすユーザーは安全が保たれるのだろうか、と疑問を持つ。そしてパラリンピックでは、より多くの障害のある人が会場を訪れる。東京メトロでは、オリンピックの後に開催されるパラリンピックの期間中の混雑状況も、見通しが立ち次第公表する予定だ。ただ、公表できる時期は現時点ではわからないという。

150%の混雑率で車いすユーザーは乗車できる?

 障害のある人への対応が懸念される理由は、東京2020オリンピック・パラリンピックでは、観客の輸送を主に公共交通機関で行うことになっているからだ。最寄駅からはそれぞれ徒歩などで移動することになる。

 この原則の上で、東京都は大会期間中の交通需要抑制を検討している。交通マネジメントに関する提言は、まず昨年1月に中間まとめが公表された。鉄道に関しては輸送力を確保するとともに、観客には早めの入場を呼びかけ、一般の利用者には分散を呼びかけるとした。

 しかし、その目標は混雑率150%を目指すこと。達成が困難な時間帯や路線は180%を目安に抑制するとある。障害のない人の輸送であれば、この目標でいいのかもしれない。しかし、150%の混雑率の列車に、障害がある人が乗車するのは難しいだろう。

 障害のある人だけではない。海外から訪れ大きなスーツケースを持ったまま移動する人もいるだろうし、高齢者やベビーカーユーザーもいる。こうした人たちがあまりの混雑に躊躇する姿は、普段の通勤ラッシュでもよくみる。

 提言は、5月29日に最終のまとめが公表された。公共交通輸送マネジメントでは、150%以上の混雑が予想される区間を示して、鉄道の増発を行うなどの対策を示した。しかし、この最終まとめでも、障害のある人の輸送についてはほとんど触れられていない。「将来の都市交通に関するレガシー」のひとつとして、「公共交通ネットワークにおけるバリアフリー化、駅改良などの推進」が盛り込まれるにとどまった。

新国立競技場の車いす席は約500〜750席

 東京オリンピック・パラリンピックの開・閉会式、それに陸上競技が行われる新国立競技場は、バリアフリーをはじめ、誰もが快適に利用できるユニバーサルデザインの施設として整備が進められている。

 日本スポーツ振興センターの「新国立競技場整備事業」の資料を確認すると、車いすの席はオリンピックの場合、約6万席のうちの500席。パラリンピックの場合は約5万8000席のうち、747席が計画されている。どれだけの車いすユーザーが東京を訪れるのかはわかっていないが、少なくとも用意された席は満席になる可能性がある。

 では、新国立競技場までのアクセスはどうなっているのだろうか。東京都内の鉄道は基本的にエレベーターが整備されている。新国立競技場に近いJR千駄ケ谷駅や、都営地下鉄大江戸線の国立競技場駅では、現在エレベーターの増設工事も行われているところだ。

 しかし、車いすで一度に乗れる人の数は限られ、多くの人が一度に移動するにはかなりの時間がかかる。予定されているエレベーターの数で、障害のある人がスムーズに移動できるかは疑問だ。

 エレベーターに関しては、モラルの問題もある。大きな荷物を持った外国人観光客や、高齢者、ベビーカーのユーザーもエレベーターを利用する。しかし、利用者が多いときに、こうした人々や障害のある人を追い越して、我先にとエレベーターに乗り込む人がいる。本当に必要な人がいつまでも乗れないのだ。満員電車の優先席や車いすのスペースについても同様だろう。本来必要な人以外は使わない、という啓発も必要ではないだろうか。

難しい国内の遠距離移動

 交通に関する問題は、東京都内だけではない。海外から訪れた障害のある人のなかには、東京だけでなく日本国内各地の観光地を旅行したい、と思う人もいるだろう。

 しかし、車いすユーザーにとっては、国内の遠距離移動も困難が多い。例えば新幹線。便数はそれなりにあるものの、車いすで利用できる座席は1つの便に2席か3席しかない。しかも予約はJR東海を除きオンラインでできず、電話で予約できるのは基本的に2日前まで。当日の場合窓口に行く必要があるが、駅員が対応できる便を調整するため、数時間も待たされるという。

 もうひとつ例を挙げると、高速バスや空港からのアクセスバスは、車いすで乗ることができるスロープやリフト付きのバスが少ない。国土交通省の調査によると、高速バスを含む乗り合いバスのうち、スロープやリフトがついているバスは2017年度末時点で5.9%しかない。

 飛行機で移動する場合は、車いすでもほぼ問題なく乗れる。それだけに、空港と各都市や観光地を結ぶバスのバリアフリー化が進まなければ意味がないだろう。地方では、車いすのままで乗れる空港アクセスバスがないことも珍しくない。

 東京都と東京観光財団は、リフト付き観光バス導入支援事業を16年から始めた。都内に営業所があるバス事業者に、1台当たり1000万円を上限とする補助金を給付する。東京都によると、これまでに50台以上の申請があったという。その中には、空港アクセスバスに活用されるものも含まれている。

 リフトやスロープがついたバスは高額で、荷物を載せる場所や、客席も少なくなるなど、事業者にとって導入のハードルは高い。路線の何割に導入するなどの目標を定めた上で、東京都の支援事業のように、国や自治体が補助しなければ導入は進まないのではないだろうか。

ユニバーサルデザイン推進の議論を

 パラリンピックを視野に入れた交通対策は、これからさらに検討が進むと思われる。しかし、行政を取材していると、オリンピックを成功させるのがまず第一で、オリンピックの対策をしていればパラリンピックは十分フォローできると考えているのでは、と感じることもある。

 果たして、オリンピックの対策をすれば、パラリンピックの対策も十分だといえるのだろうか。パラリンピックのチケットの販売は、各会場が満席になる230万枚を見込んでいる。当然、車いすユーザーや、視覚や聴覚などに障害のある人が、オリンピックの時以上に会場を訪れると考えるほうが自然だろう。

 このままでは移動する際に危険が伴い、行きたくても行けない、と思う人も出てくるかもしれない。多くの人が観戦できるようにするためにも、パラリンピック独自の交通対策や、公共交通機関以外の移動手段の導入も、検討する必要があるのではないだろうか。

 もっといえば、オリンピックやパラリンピックの期間だけでなく、社会全体で誰でも利用できるユニバーサルデザインを推進するのであれば、政策の力が必要だ。

 公共交通のバリアフリーが進んでいるイギリス、スウェーデン、アメリカ、カナダは、法律によってバリアフリーを義務付けている。法整備をしても努力義務が多い日本の政策では、障害がある人にとって本当に必要な対策が見過ごされる可能性がある。オリンピックとパラリンピックをきっかけに、議論が進むことを望みたい。

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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