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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

ラグビーW杯、同じ英国のイングランドとスコットランドとウェールズが別チームな複雑な事情

文=篠崎靖男/指揮者
【完了・26日掲載希望】ラグビーW杯、同じ英国のイングランドとスコットランドとウェールズが別チームな複雑な事情の画像1
「Getty Images」より

 現在開催中のラグビーワールドカップでは、イングランド、ニュージーランド、南アフリカに並びウェールズが準決勝に勝ち進んでいます。そんなウェールズを訪れて初めてウェールズ語を聞いた際、「あの母子の話している言葉がわからない」と衝撃を受けました。

 ゲルマン語系の英語を話すイギリス人にとって、ケルト語系のウェールズ語はまったく理解できません。とはいえ、ウェールズ人全体でウェールズ語を話せるのは20%程度にすぎず、以前は「いつか消滅する言語」とも言われていたのですが、最近になって復活させる運動が起こり、現在、ウェールズの学校では必修科目となっています。

 イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで構成されています。しかも、これらの国々は、州や県ではなく特殊な国として存在しているのです。

 スコットランドにおいても、昔は英語ではなくウェールズと同じケルト語系の一種であるゲール語が使用されていました。今も、公用語は英語とスコットランド・ゲール語となっています。BBC(英国国営放送)のスコットランド放送局には、ゲール語専門チャンネルもあります。ちなみに、1931年までイギリスの一部だったアイルランドの公用語は、同じくケルト語系のアイルランド語と英語です。実際には、英語を話すアイルランド人が大多数にもかかわらず、公用語の順序がアイルランド語から始まるのは、彼らのプライドです。

 なぜこのような状況になったかと言うと、ケルト人の島だったグレートブリテン島に、英語を話すゲルマン系のイギリス人が入り込み、現地の言葉や文化を禁止し、英語を強制した歴史があるからです。スコットランドの名物であるバグパイプやキルトなども禁止する徹底ぶりでした。そこには、ナショナリズム運動の高まりを押さえ込む目的があったと考えられますが、むしろ彼らのイギリスに対する反感を高めたともいえます。

 そんな事情もあり、イギリスは「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」と、国名ではなく島の名前を正式名称とし、4つの国々がある程度の自治権を持ちながらひとつの連合国となり、微妙なバランスで存在しているのです。

 各国のこだわりは強く、たとえばスコットランドでは、イギリスのポンド紙幣も使用できますが独自の紙幣も発行しており、そちらのほうが流通しているくらいです。

 以前、僕がイギリス南部のボーンマス交響楽団を指揮した際、担当の事務局員に「チャールズ皇太子は、いつ王になるの?」と質問したところ、「僕はスコットランド人だから興味がないんだよ」という答えを聞き、そこまで徹底しているのかと感心しました。

スコットランドの独立問題再燃の可能性も

 イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの国々は、それぞれに独自の国歌を持つほど独立性を強く持っており、スポーツの世界でもそれが表れています。ワールドカップをはじめとした国際大会は、基本的に1国1チームの出場とされていますが、英国発祥のサッカーやラグビーでは、頑として一緒に戦おうとしないのです(オリンピックは除く)。

 そのため、例外的に個別にナショナルチームで出場しています。そして、普段は自国以外では歌う機会があまりない自分たちの国歌を、選手も、応援している国民も一緒になって大声で歌い上げるのです。ラグビーワールドカップを見ているだけで、英国の複雑なバランスが見えてきます。

 今、話題になっている英国のEU離脱問題においても、この特殊なバランスはいつ爆発するかわからない爆弾となっています。現在、イギリス下院ではEU離脱をめぐって議会が紛糾していますが、EU離脱に関しては、もともとイングランド以外の国々は反対しています。たとえば、EUに残留したいスコットランドでは、2014年にスコットランド国民による投票で否決された独立問題が再燃する可能性もあります。

 そんななか、ウェールズの動きも関心を集めていますが、20世紀後半に独立闘争を繰り広げた北アイルランドなどは、経済的にメリットがあるEUに残留するために、ワールドカップでは、同じチームとして参加しているEU加盟国のアイルランド本国に戻ることも考えられなくはありません。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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