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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

ラグビーW杯、同じ英国のイングランドとスコットランドとウェールズが別チームな複雑な事情

文=篠崎靖男/指揮者

スコットランド、アイルランド、日本の意外な共通点

 さて、今回のラグビーワールドカップで日本チームが、強豪のスコットランドアイルランドの代表チームに歴史的勝利をしたことは今も大きな話題となっていますが、音楽でもこの3国は深いかかわりがあるのです。たとえば、『蛍の光』『アニーローリー』『ロンドンデリー』といった歌を小中学校で歌ったことがあるという方も多いと思いますが、実は、これらはスコットランドやアイルランドの民謡なのです。日本の『赤とんぼ』『夕焼け小焼け』ともよく似ていて歌いやすいという特徴があり、日本人に愛されてきた名曲です。

 偶然にも、それぞれの国々の音階が5音で構成されていることが、親しみを感じる理由のひとつですが、いずれにしても日本の子供たちは、スコットランド、アイルランド、日本の歌を学校で歌っているのです。

 偶然といえば、この3つの国々は現在、有名なウイスキーの産地となっています。日本でも愛されているウイスキーは、もともとはスコットランドやアイルランドのローカルなお酒でした。フランスのワイン、日本の日本酒、メキシコのテキーラと同じです。

 しかし、1707年に大きく事態が変化する事件がありました。それは、エールビール愛飲国のイングランドがスコットランドを合併し、税金を搾取しようとウイスキーに重税をかけたことです。多くの醸造所が廃業するなか、地下に潜って密造する人々も現れました。彼らがウイスキーをシェリー樽などに入れ隠しながら長期間貯蔵していたところ、結果として熟成されて味わいがマイルドになり、樽の風味や色が移り、現在のような薫り高い琥珀色のウイスキーができあがったのです。このような思わぬ大進歩があり、世界に広まっていきました。

 その後、朝の連続テレビ小説『マッサン』(NHK)で有名になりましたが、ニッカウヰスキー創始者の竹鶴政孝によって、日本でも1929年にサントリーにて国産第1号ウイスキー「白札」がつくられました。そして今では、ロンドン・ヒースロー国際空港の免税店のど真ん中に鎮座鎮座するほどまでに、日本産ウイスキーは本場スコッチウイスキーやアイリッシュウイスキーをしのぐほどの大人気となっています。

 日本代表のラグビーチームが、これまではまったく歯が立たなかったラグビーの本場であり強豪国でもあるスコットランドやアイルランドを、今回のワールドカップで撃破した快進撃を見ると、日本の国産ウイスキーの進歩を連想します。

 そしてこれはスポーツやお酒の世界だけではありません。もともとは日本のものではなかったクラシック音楽の世界でも同様です。日本のウイスキーメーカーであるサントリーが1986年に東京赤坂に開館したサントリーホールは、クラシック音楽の世界的殿堂となり、世界のオーケストラのあこがれのコンサートホールのひとつとなりました。また、日本のオーケストラも世界から高い評価を受けるようになっています。

(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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