日本はとっくに“製造業の国”“輸出主導型経済”ではない…認識の欠如が経済停滞の原因
消費者のマインドを考慮しなければ経済政策は機能しない
では、経済構造が消費主導型にシフトした今、どうすれば消費拡大で経済を成長させることができるのだろうか。個人消費というのはニワトリとタマゴの関係であり、経済学的には何が消費拡大の原動力になるのか明確に示されているわけではないが、消費者のマインドが大きく影響していることだけは間違いない。
現在、個人消費が極端に低迷しているのは、消費者が将来に対して大きな不安感を持っているからである。高齢化が進み、年金財政が悪化しているのは紛れもない事実であり、これを誤魔化して美辞麗句を並べたところで、不安の解消にはならない。年金減額が避けられない以上、消費者の将来不安を取り除くためには、今後、長期にわたって就労できるという安心感が必要となる。
だが、この安心感を終身雇用や解雇の禁止というかたちで担保しては意味がないだろう。
消費社会というのは、多くの個人が多種多様なアイデアを出し合い、生み出された商品やサービスを消費者がポジティブに評価してこそ、うまく回っていく。日本社会は基本的にネガティブであり、新しいことに対する抵抗感が根強く、これが新しい産業の創出や消費の拡大を阻害している。わかりやすい言い回しをすれば日本社会は基本的に「しかめっ面」なので、これでは豊かな消費社会を実現できないのだ。
残念なことに、政府が企業に雇用を強制すると、社会の流動性が低下し、こうしたネガティブで閉鎖的なカルチャーが拡大することがあっても、縮小することはない。むしろ、転職を推奨し、新しいスキルを身につけるための教育プログラムにこそ多額の支出を行うべきである。
仮に解雇されたり、役職定年や再雇用で望まない仕事を斡旋された場合でも、教育プログラムを受けて新しいスキルを身につけることができ、その間に、十分な失業保険が給付されるのであれば、あまり深刻になる必要はない。
転職が活発になれば、組織に新しいアイデアが入ってくるので、新規事業が立ち上がる頻度は確実に高まる。遠回りなようだが、こうした地道な取り組みを行わない限り、日本経済に未来はない。
(文=加谷珪一/経済評論家)