ビジネスジャーナル > ITニュース > フェイクニュースに法規制の動き
NEW
高橋暁子「ITなんかに負けない」

フェイクニュースに法規制の動き、デマ情報拡散で無期懲役も…被害者の自殺事件発生

文=高橋暁子/ITジャーナリスト
フェイクニュースに法規制の動き、デマ情報拡散で無期懲役も…被害者の自殺事件発生の画像1
「Getty Images」より

 皆さんは、SNSなどで見かけたニュースに騙されたり、騙された挙げ句に拡散してしまったりしたことはないだろうか。ニュースの真贋を見極めることはできているだろうか。

 世界におけるフェイクニュースの実態と対策、日本の現状までを見ていきたい。

世界中で規制されるフェイクニュース

 フェイクニュースといえば、米国の例が有名だ。2016年12月の米大統領選では、ヒラリー・クリントン候補を標的としたフェイクニュースがFacebookを中心として出回り、選挙の結果に影響を与えたといわれている。そのなかには、「クリントン氏が過激派組織のイスラム国(IS)に武器を売った」というもの、「ローマ法王がドナルド・トランプ氏支持を表明。声明がバチカン(ローマ法王庁)から発表された」というものなどがあった。

 これらのフェイクニュースの多くは、広告収入目的に意図的につくられたものだった。あるマケドニア共和国の若者は、フェイクニュースサイトによって約700万円の収入を得た。トランプ氏に有利な記事だったのは、あくまでそのほうがページビュー(PV)が集まり、収益につながるという判断だったためだという。

 日本でも、16年に起きたディー・エヌ・エー(DeNA)が運営していたキュレーションサイト「WELQ」問題は記憶に新しい。ニセ医療情報のほか、著作権法違反の記事も散見される同サイトが、検索すると上位表示される状態となっており、社会問題となった。医療情報を扱いながら監修者もつけず、SEO最適化と検索結果における上位表示を重視したために起きた事態だった。

 この結果、多くのキュレーションサイトが閉鎖となり、さらにGoogleが検索アルゴリズムを変更し、医療・健康に関して信頼できる有益なサイトが上位表示されるようになっている。

 17年6月には、東名高速であおり運転を受けて停車したワゴン車がトラックに追突され、夫婦が死亡する事故が起きた。建設作業員の男が、ワゴン車の進路を塞いで停止させ追突事故を引き起こしたとして逮捕された。この時、容疑者の男と無関係な建築会社が、男の勤務先であり同社社長は男の父であるというデマが拡散し、建築会社には嫌がらせの電話が相次いだのだ。

 まったくのフェイクニュースだったが、拡散にはSNSだけでなく、アフィリエイト収入目的でいい加減な情報を掲載する、いわゆる「トレンドブログ」も一役買っていた。もちろん、無責任なツイートなどをまとめた「まとめブログ」も同様だ。

 お金儲けのため、あるいは悪ふざけで、誤解や思い込みでフェイクニュースは生まれ、拡散されてしまう。その結果、インターネット空間にはさまざまなフェイクニュースがあふれかえる状態となってしまっているのだ。

デマによる自死で法規制開始

 とうとう法規制するようになった国もある。たとえば台湾だ。きっかけは、昨年9月に関西地方を襲った台風21号によって関西国際空港で訪日客が足止めを食った事件だ。この時、「中国総領事館が空港にバスを手配し、中国人観光客を優先的に助けた」というデマが中国のSNS内で広まったのだ。

 実際はバスを手配したのは関空だったが、これを信じた台湾の市民・メディア・政治家から、台湾の領事館に当たる大阪経済文化弁事処に非難が殺到。その結果、昨年9月に代表を務めていた外交官が自死してしまったが、その翌日、噂はフェイクニュースだったとわかったのだ。

 これを受けて、5月には「災害防止救助法」の改正案が可決。地震や台風などの災害時にニセ情報やデマを意図的に拡散し、損害を与えたり犠牲者が出るなどの事態を引き起こした場合、最高で無期懲役が科せられるようになったのだ。

 フェイクニュースの法規制は、台湾だけではない。たとえばフランスでは、18年12月に選挙期間中のフェイクニュース対策として「情報操作との戦いに関する法律」が成立した。19年3月にはロシアで「フェイクニュース禁止法」が可決されたほか、19年10月にはシンガポールでも「フェイクニュース防止法」が施行されている。

 日本でも今年から、「プラットフォームサービスに関する研究会」でフェイクニュースに関する議論がスタートしている。

見破る自信がない大人たち

 フェイクニュース対策は、まだまだ過渡期にある。情報の真偽を確かめる「ファクトチェック」と呼ばれる取り組みも進みつつある。しかし、まだまだフェイクニュースや、それによる被害者が報道され続けているのが現状だ。

 MMD研究所とテスティーの「2019年7月フェイクニュースに関する年代別意識調査」によると、フェイクニュースを見たことがある人のうち騙されたことがある人は29.6%と約3割だった。騙された経験があるのは20代が37.7%と最多だったが、30代40代も30%を超えていた。

 一方、騙された経験がある人のうち「RTやイイネなどをして拡散してしまったことがある」「SNSで拡散はしなかったが、友人や家族に話してしまったことがある」など合わせて44.2%が拡散してしまったことがわかっている。

 さらに、今後フェイクニュースを見破れる自信があるか聞いたところ、自信があるという回答(「自信がある」「やや自信がある」)は30.1%であり、中高生の47.0%よりも低かった。年代別に見ると、年齢が下がるほど自信がある傾向があり、10代が43.8%で最多だった。

 もちろん自信があるから騙されないというわけではないし、10代の自信は根拠のないものという可能性もある。しかし、大人世代もフェイクニュースに騙されており、拡散してしまっていることは事実なのだ。10代はSNSでデマを拡散しやすいと言われているが、大人世代も他人事ではないのだ。

 SNSだけでなく、検索結果にもまだまだフェイクニュースはあふれている。必ず、元となっている情報源を確認すること。複数の信頼できる情報源の情報を照らし合わせること。信頼できると確認できない場合は、無責任に拡散しないこと。今我々にできるのは、被害を広げないことなのだ。

(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)

高橋暁子/ITジャーナリスト・成蹊大学客員教授

高橋暁子/ITジャーナリスト・成蹊大学客員教授

書籍、雑誌、Webメディアなどの記 事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。 SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などが専門。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎) など著作多数。NHK『あさイチ』『クローズアップ現代+』などメディア出演多数。令和 三年度教育出版中学国語教科書にコラム掲載中。


高橋暁子公式サイト

フェイクニュースに法規制の動き、デマ情報拡散で無期懲役も…被害者の自殺事件発生のページです。ビジネスジャーナルは、IT、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!