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豊洲市場の寿司屋に、外国人観光客が殺到…世界一美味いマグロを“並ばずに”楽しむ方法

文=明石昇二郎/ルポライター
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マグロ仲卸「やま幸」社長の山口幸隆さん(撮影=武藤誠 )

豊洲移転後も人気の「魚河岸の握り寿司」

 千葉県勝浦産の天然本マグロ大トロの蛇腹(じゃばら)は、口の中に放り込んだ途端、噛まなくても口の中の体温だけで旨味がとろけ出した。これぞ一級品の本マグロでなければ味わえない醍醐味だ。大トロの部位には「蛇腹」と「霜降」(しもふり)の2種類があって、質のいい蛇腹は白い筋の部分も優しくとろける。税抜きで1カン800円なり。

 東京・豊洲市場内に店を構える大和寿司(だいわずし)は創業57年。大半の客の目当ては、この店自慢の「マグロ握り」だ。実はこの店、築地市場時代に天然本マグロの最高級ブランド「大間(おおま)のマグロ」(青森・津軽海峡産)のブームを巻き起こした“震源地”でもある。米国発の世界最大級の口コミローカル情報サイト「Yelp(イェルプ)」の「東京の寿司屋ランキング」で、栄えある第1位に輝いたことでも知られる。海外からの観光客が目がけてこの店を訪れるのは、この“米国版食べログ”のせいだ。豊洲界隈で外国人観光客らが覚えた「Omakase sushi」「Otoro」「Uni」という言葉は、今やそのまま世界共通語として通用するようになった。

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大和寿司(撮影=筆者)

「Yelp」への書き込みを見ると、日本滞在中に3日連続で大和寿司の行列に並んだ猛者や、1日で豊洲場内の人気寿司屋を数軒梯子(はしご)した猛者もいた。豊洲市場内屈指の「行列のできる寿司店」は、最高品質の「fatty tuna」(大トロ)を求める外国人観光客や日本の美食家たちで日々、賑わっている。お昼時なら入店までに1時間は行列に並ぶ覚悟が必要だ。

豊洲のマグロ握りが美味しい「秘密」

「マグロの優劣の見分けは本当に難しい。ベテランになろうが博打(ばくち)をしているみたいだ」と語るのは、豊洲市場のマグロ仲卸業者。築地市場時代から「目利き」(めきき)と呼ばれる彼らは、マグロがいいものであればあるほど、惜しみなく高値をつける。

 豊洲市場の目利きたちは、常に上質なマグロを求めている。だから豊洲市場には、世界各地の好漁場から上質なマグロがこぞって集まってくる。

「つまり、世界で一番美味いマグロは豊洲市場にある、ということだね」(前出のマグロ仲卸業者)

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大和寿司の大トロ(撮影=武藤誠)

 これが、豊洲を代表する魚が「マグロ」であるゆえんである。なかでも最高級とされるのは、凍結させていない生の本マグロ。その生本マグロの競りは朝5時半開始だ。100kgを超す大物の本マグロは、開始からものの10分ほどで次々と競り落とされていく。

 帝国ホテルや銀座の高級寿司店「久兵衛」などに最上級の天然本マグロを納める仲卸「やま幸(ゆき)」を取材した。年明け最初の「初競り」で最高値の本マグロを競り落とす常連である。同社社長の山口幸隆さんがこの日、競り落としたのは、112kgもある千葉県勝浦産の本マグロ。旋網(まきあみ)漁で獲った最高級品だ。最も脂がのった部位「腹上」(はらかみ)のブロックなら、仕入れ値で10万円はする。「高価なマグロが撮りたいの? それとも美味いマグロ?」と、山口社長に聞かれ、「もちろん『美味いマグロ』です」と答える。「じゃあ、これだ」というわけで、この日、大和寿司に届けられるマグロが決まった。

 暖簾に向かって右側が父・入野信一さんが握る店。左側が長男の若旦那・成広さんが握る“親子寿司屋”である。席はそれぞれ12席ずつ。午前5時30分の開店と同時に客が暖簾をくぐり、7時ともなれば店の前に行列ができ始める。

 市場内専用の三輪自動車「ターレー」に載せられ、やま幸を出発した腹上ブロックは、競り落とされてから2時間後には大和寿司に到着。同店の社長兼“仕入担当部長”で次男の光広さんが、到着したばかりの腹上ブロックから手際よく柵取り(さくどり)をしていく。「ウチで握る本マグロの大トロは、脂がのった『腹上』のみです」と、光広さんは言い切る。この日は勝浦産本マグロとともに、千葉県銚子産本マグロの「カマトロ」も登場。こちらは延縄(はえなわ)漁で獲った110kgの本マグロである。カマトロの脂は上品な霜降。1本からほんの数カン分しか取れない希少部位だ。

「縄(延縄漁)で獲ったマグロは身が締まっていて“ゴリッ”としているのに対して、網(旋網漁)で獲ったマグロは甘くて柔らか。お客さんによって好みはあるけど、ウチでは網がお勧めかな」(光広さん)

 ひと月のうちの数日はブランドマグロの「大間のマグロ」もお目見えする。ありつけるかどうかはあなたの運次第。どうしても食べたければ、足繁く通うほかない。築地から豊洲に市場が移転してから、はや1年。「世界一美味いマグロ」の味は今も健在だった。

豊洲市場で「絶品寿司」を楽しむ方法

 全国各地の有名漁場からブランド魚がこぞって集結する世界最大級の「海産物基地」である豊洲市場。ここに店を構える握り寿司の各店舗なら、マグロに限らず天然モノの白身ネタも充実している。

 築地時代の魚河岸は交通の便もよく、朝5時半から始まる生本マグロの競りを見学することも容易にできた。しかし市場が豊洲へと移転したことで、アクセスが大変悪くなってしまった。豊洲市場には一般向けの駐車場もまだ整備されておらず、現在は衛生上の理由から、一般客が市場で魚を買うこともできない。つまり、一般客を遠ざけてしまっているのだ。

 その結果、築地時代は場内のどの寿司店も行列に並ばないと食べられなかったのが、今では行列に並ぶことなく、悠々とカウンターで握りを楽しめるお店もある。かえって“穴場”状態なのである。

 例えば、ある寿司屋の暖簾をくぐり、その日の「おまかせ寿司」(10カン+巻物1本+玉子に味噌汁付き。概ね4000円+税前後)を注文してみると、出てきたのは舌の上でとろける大間の本マグロ大トロ2カンに、北海道産ヒラメ、三陸産カツオの焼きしも、三陸産ホタテ、房州産アジ、北海道産バフンウニ、千葉・大原のヒラマサ、和歌山産の車エビ、常磐産穴子が、1カンずつ握って出てくる。さらにこのお店では、特に気に入ったネタを2カン、お代わりさせてくれた。カウンターに座り、板前さんに煮切り醤油を塗ってもらってから味わう握り寿司は、「築地の魚河岸」時代からの技を受け継ぐ格別の美味だ。

 現在、一般客として豊洲市場に行くには、ゆりかもめの「市場前駅」で下車するのが最も便利。JR新橋駅からは「豊洲市場」行きのバスが朝5時台から出ている。どの寿司屋もお昼時は混雑するので、狙い目の時間帯は昼前の午前中だ。

 旬の海産物の買い物もしたいという人には、築地の場外市場内にあるマーケット「築地魚河岸」がお勧め。豊洲市場で魚介を扱う仲卸業者の名店が揃って出店しているので、豊洲市場で業者が仕入れているのと同様の良品が買える。築地場外市場付近からは豊洲市場行きのバスも出ているので、場外市場付近の公共駐車場に車を停め、豊洲へはバスで向かって、帰りに築地でお買い物、という方法もある。

 早朝に公共交通機関を乗り継いで豊洲に行くのは苦手、という人には、来年からはバスツアーで行く、という手段もある。お値段は握り寿司代込みで1万2000円前後から。朝7時くらいに首都圏の主要駅を出発し、朝9時頃から行列に並ぶことなく“店舗貸し切り”状態で握り寿司を味わえる。これなら、駐車場確保の心配もなく、心置きなく絶品寿司を楽しめる。ネットで「豊洲市場の老舗寿司屋をツアーで貸切」と検索すればヒットするので、確かめてみてほしい。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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