
国の大学入試改革が揺れている。2020年度から「大学入学共通テスト」が開始されるが、導入予定だった国語と数学の記述式問題について、12月に萩生田光一文部科学大臣が見送りを発表した。すでに英語民間試験の活用も延期されることが決定しており、受験生や大学は振り回されている。
教育をめぐり行政が迷走するなか、「公立大学には政治的な介入がついて回る」と指摘するのが、『「地方国立大学」の時代 2020年に何が起こるのか』(中央公論新社)の著者で教育ジャーナリストの木村誠氏だ。大学に関する新たな動きや注目を集める専門職大学などについて、木村氏に聞いた。
下関市長による市立大学の“私物化疑惑”が浮上
――大学教育をめぐって政治が混乱していますね。
木村誠氏(以下、木村) そもそも、いつの時代にも公立大には地方自治体の首長による介入の問題がついて回ります。また、有名公立大が自治体の人気取りの道具になるケースもあります。
最近、問題になっているのは山口県の下関市立大学です。1962年に設置された同大は経済学部のみの単科大学なのですが、前田晋太郎下関市長肝煎りの「専攻科」の新設が決まり、その教員人事が正式な学内での審議を経ずにトップダウンで決められたのではないか、という疑いが浮上しています。
新設するのは、発達障害のある子どもらの教育支援のために専門的知識を持つ人材を育てる「特別支援教育特別専攻科」です。1学年の定員10名で2021年4月に開設予定。狙いは良いのですが、この新設計画は教員らにはいきなりメールで通知され、教員採用についても一方的な説明のみだったそうです。そのため、大多数の教員が計画の白紙撤回を求める署名を行っており、あまりに拙速な対応に市議会でも前田市長を追及する質問が続いています。
下関市といえば安倍晋三首相のお膝元ですが、前田市長は安倍首相の元秘書であり、安倍首相の支援を受けて市長に就任した経緯があります。市内では、「下関市立大学を私物化している」と指弾する声も上がっています。
――こうした事例は、ほかにもあるのでしょうか。
木村 当時の石原慎太郎東京都知事の「世界に冠たる新しい大学を」という大風呂敷のもとで、05年に都立4大学(東京都立大学、東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学、東京都立短期大学)が統合して生まれた首都大学東京は、20年4月に「東京都立大学」という校名が復活します。これも、日本の大学全体の研究力低下が指摘されるなか、さしたる根拠もなくビジョンを打ち上げ、政治主導で大学改革を行った事例です。
また、横浜市立大学は伝統のある文理学部や商学部を再編して文理学部を国際文化学部と理学部に分離しましたが、05年4月に商学部、国際文化学部、理学部の3学部を統合し、国際総合科学部を設置しました。これは、当時の中田宏横浜市長のリーダーシップのもとで行われ、財務負担を減らす狙いがありました。AO入試の大幅導入など注目すべき点もありましたが、大学の有力教授が次々と辞めるという事態も生まれました。19年春には国際教養学部と理学部に再々編されています。さらに、20年には同大の大学院にデータサイエンス研究科が新設される予定で注目を浴びています。
一方、当時の橋下徹大阪府知事の大阪都構想のもとで生まれた大阪市立大学と大阪府立大学の統合問題は、その後も府知事と大阪市長に維新系の人物が就いているからか、頓挫することなく進んでいます。両大学の交流も進み、統合について大学関係者からは「両大学トップは面従腹背なのか真剣なのか読み切れない」という声もあります。