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高橋篤史「経済禁忌録」

IR汚職で逮捕の秋元司議員、その危険過ぎる金脈と人脈…東レに口利き、返済ねじ込み

文=高橋篤史/ジャーナリスト
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秋元司司衆議院議員(写真:日刊現代/アフロ)

 統合型リゾート(IR)参入をめぐり、秋元司衆議院議員(自民党を離党)が12月25日、収賄容疑で東京地検特捜部により逮捕された。IR担当の内閣府副大臣を務めていた当時、中国企業から賄賂を受け取っていたとされる。秋元議員といえば、かつて秘書として仕えていた小林興起元衆議院議員ともども仕手株の周辺でたびたび名前が取り沙汰されてきた政界関係者として知られる。

 古い法人登記簿をさかのぼり、その役員欄に秋元議員の名前が現れるのは16年前のことだ。就任先はゴルフ場を経営する「ワシントン」(その後、Wホールディングスに社名変更)という都内の会社。就任日は2003年10月16日である。

 鹿児島から上京した秋元議員は大東文化大学に通っていた1993年、学生秘書として小林氏の事務所に入った。通産キャリアだった小林氏は「地盤、看板、カバン」を持たないながら、3年前の衆院選に徒手空拳で自民党から立候補、見事に初当選を果たしていた。ただ、その年7月の衆院選では落選してしまっている。そんな小林氏が国政に復帰したのは1996年。大東文化大学を卒業していた秋元議員は公設秘書となった。

 ワシントンの取締役に就任した当時、小林氏は当選を重ね、中堅議員として知名度もあった。まだ隆盛を極めていた消費者金融業界と極めて近い国会議員としても知られていた。そんななか、秋元議員は独り立ちを考えていたようだ。その年12月、同議員は秘書仲間の西田譲氏(後に千葉県議、衆議院議員)を代表者に政治団体「秋元司後援会」を設立、翌2004年7月の参院選に比例区から立候補して初当選を果たした。その後の2005年3月31日、秋元議員はワシントンの取締役を辞任した。

 秋元議員はワシントンの取締役に就任する前の年、「グランディム」という不動産会社が大阪市内で設立された際、出資者のひとりだった。同社は上場を目指していたという。小林氏と同様、徒手空拳の秋元議員はカネの臭いに人一倍敏感だったのかもしれない。ただし、その後、秋元議員はグランディムとの間で1000万円のやり取りをめぐりトラブルになっている。こう見てくると、ワシントンという会社はそんな「地盤、看板、カバン」を持たない秋元議員に取締役のポジションを用意することで支援者の役割を果たしていたのだろう。

A.Cホールディングスとの深い縁

 さて、そのワシントンだが、役員欄のどこを探しても名前を見つけることができないものの、オーナーとして君臨していたのは河野博晶氏という人物だった。同氏は仕手株の世界で有数の実力者として知られていた。

 河野氏の名前が最初に世間を騒がせたのは、バブル崩壊直後の1990年代前半である。「環太平洋のリゾート王」との異名をとった故高橋治則氏率いる「EIEグループ」が破綻間際、小さな金融機関を舞台に乱脈の限りを尽くした二信組事件の関係者だったのだ。大分県内で次々とゴルフ場を開発していた河野氏が経営する会社は不正融資先のひとつで、同氏も罪に問われることとなった。

 その後、「草月グループ」と名乗り株式市場の裏側に活路を求めた高橋氏と同様、河野氏も仕手株にカネの臭いを嗅ぎ付けたようだ。まず1998年頃に接近したのは三井埠頭だった。かつて投資ジャーナル事件の首魁で知られ仕手筋としてひそかに復活していた中江滋樹氏が操っていた同社は手形を乱発、その総数は260枚余り、総額160億円にも上っていた。自転車操業的な資金繰りを続けるなか、河野氏も接近。ただ、同社は中江氏の失踪後、倒産してしまう。河野氏のワシントンは定温倉庫を買い取ったり、乱発手形を引き受けたりしたようだが、最終的に利益を得たのか損失を被ったのか定かでない。

 河野氏が次に接近したのは宝飾品販売のエフアール(後にクロニクルと社名変更)だった。同社は私募転換社債(CB)発行による錬金術の「ハコ」に使われた初期の銘柄といえるが、1999年に発行した私募CBの引受先の背後に河野氏がいた。同氏と共同戦線を張っていたのは「関西の大物仕手筋」と謳われていた故西田晴夫氏だった。

 その後、河野氏は東証マザーズ上場第1号のリキッド・オーディオ・ジャパンに影響力を持ったり、さらに支配株主・光通信との対立劇の最中に起きたクレイフィッシュの創業者保有株の流出騒動に一枚噛むなどしている。そして2005年7月に増資を引き受けたのを機に南野建設(後にA.Cホールディングスに社名変更、現アジアゲートホールディングス)を事実上傘下に入れることとなる。

 このA.Cホールディングスこそは、秋元議員はじめ小林氏の関係者と何かと縁が深い仕手銘柄だ。下方修正条項付き転換社債(MSCB)など新手の錬金術が幅を利かせていた当時、A.Cホールディングスも新株を乱発していた口だが、2005年10月の増資は、とあることで注目された。約41億円もの新株を引き受けた「ロイヤル投資事業組合」なるファンドで業務執行組合員を務めていたのは、前述した秋元議員の秘書仲間の西田氏だったからだ。

 さらに驚くのはその後。2007年12月、A.Cホールディングスが新社長に迎えたのは小林氏の実弟・壮貴氏だったのである。同時に監査役に就任した秋元武明氏は秋元議員の実父だ。小林氏は2年前の郵政選挙で時の小泉純一郎内閣に反旗を翻し落選しており、かたや2カ月前の2007年10月にはオープンインタフェースの取締役に就任していた。2011年に破産することとなる同社もまたよく知られた問題上場企業。保守系論壇の砦だった「日本文化チャンネル桜」との不可解な関係も風評を招く一因だった。

草月グループとの接点

 この頃の秋元司後援会の政治資金収支報告書を見ると、河野氏との蜜月ぶりがよくわかる。2006年分には河野氏関連企業としてA.Cホールディングスが63万円、ワシントンリゾートが76万円、富士箱根カントリークラブが39万円のパーティー券購入者として名を連ねている。2007年分ではやはりA.Cホールディングスが計200万円を購入。さらに2009年分でもワシントンが50万円の購入者として記載されている。

 2006年に30万円のパーティー券を購入していたシルバー精工も、傘下企業とはいえないながら、河野氏とは因縁深い問題上場企業だ。同社がその頃行った大規模増資の引受先のバックにいたのが河野氏だったからである。ただ、その後、河野氏は騙されたとして同社経営陣と対立、提訴する事態にまで発展した。その後、手形乱発に手を染めたシルバー精工は2011年に倒産している。

 2007年前後から証券取引等監視委員会は、大阪府警と組み不公正ファイナンスに長じた仕手筋の一掃キャンペーンを行った。最初に摘発されたのは前出の西田氏。相場操縦を行っていたのは南野建設株だった(その後、西田氏は公判中に死亡)。次なるターゲットは故高橋氏が率いた「草月グループ」で、その死後にグループを引き継いだ横濱豊行氏らが摘発された。そしてその延長線上の捜査が進んだ2009年暮れ、河野氏もついに年貢を納めることとなった。

東レ口利き疑惑

 その後の秋元議員だが、やはり仕手株との接点は垣間見られる。同議員が代表を務める「自由民主党東京都第十五選挙区支部」の2017年分の収支報告書にはソルガム・ジャパン・ホールディングスの名前が見られる。寄付額は36万円。同社は大盛工業株をめぐる風説の流布事件で首謀者だった大場武生氏が関係していたことで知られる銘柄だ。バイオ燃料事業を謳い新株を乱発していた同社もその後、粉飾決算が事件化している。

 直近、秋元議員との関係が囁かれている新興仕手グループがある。一部で報じられたが、債権回収をめぐり秋元議員が東レに口利きとも思われる電話を入れる騒ぎがあった。裁判記録などによると、そもそもは東レの水処理システム事業部に勤める担当部長級社員が自らの営業成績を取り繕うため架空循環取引を2017年頃から繰り返していたとみられる事案が発端だ。件の社員は静岡県内の会社などを騙して架空契約を結び循環取引を続けていたようだが、その過程で2018年11月、都内の金融会社から1000万円を借りていた。取引契約には東レの買い戻し保証があるため絶対に借金を返せると強弁していたようだ。が、東レにとっては与り知らない話。そこで金融会社はあの手この手で取り立て工作を画策したのだろう。そんななか、秋元議員が東レに返済をねじ込んだらしい。

 この金融会社は東証上場の外国企業、新華ホールディングス(現ビート・ホールディングス)の大株主にかつて登場したことがある。また、代表取締役の人的関係を辿ると、2017年に摘発されたストリーム株の相場操縦事件で公判中の被告との接点も確認できる。一連の人脈の中心にいるのはアングラ世界の著名人の息子とされる人物だ。ストリーム事件もそうだが、在日中国人ネットワークに独自のパイプを持っているらしく、パチスロ大手ユニバーサルエンターテインメントの創業者追放劇もそこに連なるエピソードのひとつだ。

 じつに奥が深い世界だが、秋元議員はその怖さをどの程度、自覚していたのか。今回の事件でキーマンを演じていたのは、SNSで自らの交友関係を嬉々として見せびらかしていたような小物ブローカー。そのことが秋元議員の脇の甘さを如実に物語っている。

(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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