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『5Gでビジネスはどう変わるのか』出版記念インタビュー

5G普及で社会は激変?現実とデジタル世界が常につながり、データが取得されていく

取材・文=河鐘基【ROBOTEER,Inc.】
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クロサカ・タツヤ氏

 日本でも本格的な商用化・社会実装が迫ってきている「5G」(第5世代移動通信システム)。各国では、5Gに対応した新たなスマートフォン端末の発売や、さまざまなユースケースが報告され始めている。5G時代にビジネスは、どのように変化していくのか。最新書『5Gでビジネスはどう変わるのか』(日経BP)の著者であり、月刊誌「サイゾー」(小社刊)で連載中の通信コンサルタント、クロサカタツヤ氏に話を聞いた。

――『5Gでビジネスはどう変わるのか』(以下、本書)には、5Gが普及していく際の具体的なタイムスケジュールや、関連ビジネスを展開する上での示唆などが豊富に書かれていて、とても興味深いですね。本インタビューでは、ビジネスをしかける視点から見た時、5Gという新しいテクノロジーに対してどのように対応していくべきか、ご意見を伺えればと思っています。

 まず、5Gがどのような社会を実現していくか、その景色やイメージのようなものから読者の皆さんと共有していきたいと考えています。

クロサカタツヤ氏(以下、クロサカ) そうですね。まず5Gが社会実装されるにつれ、「フルコネクテッド」な環境がユーザーや社会を包んでいくと思います。フルコネクテッドという言葉は、書籍を書く際に新たに考えた言葉なのですが、イメージとしてはリアルとデジタルスペースが常につながって、ひとつの世界になった状態を指します。

 これまで、人がデジタルスペースにつながるためには、PCやスマートフォンなど“窓=ゲートウェイ”が必要でした。ただし、電源をOFFにしてしまえば、両世界を遮断することができました。ある意味、ユーザーが選択した際にだけ、デジタルスペースとつながることができたのです。しかし、5Gが普及し、あらゆるものがインターネットにつながる環境が整うと、その選択は消滅していくはずです。

 言い換えれば、人がただそこにいるだけで、無数のカメラやセンサーなど機器を通じてデータが取得され、連携していく。そして、サイバースペースには自分の“分身”が再現されるのです。いわゆる「デジタルツイン」と呼ばれるものですが、その分身がユーザーのメリットやリスクなど「エクスペリエンス」をシミュレーションし、リアル空間のユーザーに再現・還元する世界が実現していくのではないかというのが、私の考えるシナリオのひとつです。

――なるほど。これまでユーザーは自ら意識的、時に無意識的に自分の分身をつくるために個人情報などデータをネット上にアップロードしてきましたが、これからはあらゆる機器や端末から自分のデータが自動的に吸い上げられ、より正確な分身が生成される。そして、企業がその分身相手に「満足」や「価値」を提供する方法をシミュレーションして、実際のユーザーに再現していく……そんなイメージでしょうか。

クロサカ はい。そして、そのようなフルコネクテッドな環境から立ち現れるのは、「予測前提社会」です。すべてのモノゴトを事前に予測することで、リスクを最小化し、メリットを最大化することができるようになる社会が実現していくはずです。

――新たな通信規格である5Gが「予測前提社会」の実現を促すとしたら、その過程でさまざまな新しいビジネスが生まれそうですね。想像してみると、通信業界だけではなく、あらゆる産業に大きな変革をもたらすような気がします。クロサカさんから見た時、5G時代にビジネスで成功を得るためには、どのようなことを念頭に置いていればよいと思われますか。

クロサカ 私が強く思うことのひとつは、まず何よりも「ユーザーファースト」のビジネスモデルであること。各分野別の想定できる新たなビジネスモデルについては、本書で詳しく言及しましたが、共通して言えるのは、企業やサービスを提供する側本位のビジネスモデルは成功することが難しくなるという点です。

 たとえば、動画サービス。5Gの技術的にはユーザーが好きな時に、好きなタイトルを、好きな画質で選んで楽しめる環境が整います。しかし、動画コンテンツを提供する側が、囲い込みやサブスクリプションなど定期的に利益を確保する方向に事業を展開し続けたらどうでしょうか。そのうちユーザーは、より良い環境を求めてサービスを離脱してしまうでしょう。つまり、ユーザーの自由度や選択肢が増える分、ユーザーを置き去りにしたサービスは求心力を持ちにくくなるというわけです。

 いずれ4Gが陳腐化していくことは確実で、時間の問題です。2022年から23年頃には確実に5Gが普及した世界が訪れます。その時、ビジネスやサービスの提供の仕方は極めて重要です。そこで運用方法を間違えると、5G自体のポテンシャルがいかに高くて、企業が崇高な動機を持っていたとしても、炎上して終わってしまう可能性があります。

 私自身は、企業はこの数年間を準備の時間として、しっかり使うべきだと考えています。技術的な理解は言わずもがな、「どうやったらユーザーに受け入れてもらえるか」を真剣に考えるべきです。そういった思考ありきでこそ、5Gを使いこなせると思っています。仮にその思考がなければ、5Gに振り回された結果、事業者はサービスの提供に失敗して事業機会を失うことになりかねません。

利便性とプライバシー侵害の境界

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――本書では、プライバシーの取り扱いといいますか、個人情報などデータに対する哲学を個人だけでなく企業側も深めるべきであるという趣旨の発言が散見されます。倫理や人権的な側面もあるのでしょうが、個人的にはビジネス面でも強く意識してしかるべきという印象を受けました。

クロサカ フルコネクテッドな環境で収集されたデータは、基本的にAI技術などによって予測に使用されていくでしょう。そして、AIが学習を重ねることで、ユーザーの利便性や満足、また新たな価値を生み出すために利用されていくはずです。しかし、そのような利便性が高い環境は、「なんだか気持ち悪い」という感情と必ず表裏一体になります。

 昨年、アルバニアでデータ保護プライバシー・コミッショナー会議というものが開催されたのですが、その席で、技術がプライバシーを侵す懸念が高まるなか、「5Gのデータビジネスは危ないのではないか」と考える人たちの意見も示されました。私自身も、プライバシーなどデータの取り扱いが5G時代の極めて重要なテーマになってくると考えています。

 企業は利益を得るために、4G以前の世界よりさらに徹底的にあらゆる手段を使ってユーザーのデータを確保しようとするでしょう。なぜかというと、データと予測が企業の競争力になるからです。ただ、利便性とプライバシー侵害の境界は常に微妙なところで、さじ加減を間違えると非難の対象になる可能性がとても高いです。そのため、5G時代のビジネスは、これまでのウェブサービス以上に強くプライバシーに対するポリシーや責任を明確化することが求められます。裏を返せば、そういう環境に適応した企業のサービスを、ユーザー側が好んで選び取っていくはずです。

 また、個人がプライバシーの問題を感じていたとしても、社会の課題解決など公益が目的となっている場合には協力をあおげるかもしれません。つまり、企業にしろ、自治体にしろ、社会全体の利益を考えられるかどうかが、ビジネス・サービスを成功させるポイントになってくるのではないかと。さらに言えば、5Gという新しい技術の台頭によって、企業や個人、また社会全体が考えてもみなかった新しい問題や課題が新たに浮き彫りになることは確実です。そのような環境のなかで、課題に真摯に向き合い、ユーザーから支持を取り付けることができるサービスが生き残っていくのではないでしょうか。

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――フルコネクテッド、予測前提社会、そしてプライバシーという、本書を通底する話題について簡略にお聞きすることができて、理解が深まったような気がします。5G時代における個別産業分野のテーマ設定においても、このキーワードは欠かすことができない視点だと感じました。
(取材・文=河鐘基【ROBOTEER,Inc.】)

(プロフィール)
クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。2007年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。

『5Gでビジネスはどう変わるのか』(1870円(税込)/日経BP)

河鐘基

河鐘基

1983年北海道生まれ。株式会社ロボティア代表取締役。テクノロジー専門ウェブメディア「ロボティア」を運営。著書に 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」(扶桑社新書)、「ドローンの衝撃」(扶桑社新書)、「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」(光文社)。訳書に「ロッテ 際限なき成長の秘密」(実業之日本社)、「韓国人の癇癪 日本人の微笑み」(小学館)など。

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