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鷲尾香一「“鷲”の目で斬る」

東証、市場“大再編”に企業が戦々恐々…上場基準厳格化、基準不適合なら上場廃止に

文=鷲尾香一/ジャーナリスト
東証、市場“大再編”に企業が戦々恐々…上場基準厳格化、基準不適合なら上場廃止にの画像1
東京証券取引所のメインルーム(「Wikipedia」より/Kakidai)

 東京証券取引所(以下、東証)が2月21日、市場改革として現在の市場を再編し新たに創設する新市場の概要を発表した。これまでの第1部市場に代わる「プライム市場」の上場要件として、いくつかの新たな要件が明らかになった。これに伴い予想される動きについて紐解いていく。

 東証は新市場への移行日について2022 年4月1日と発表した。新たに創設されるプライム市場、スタンダード市場、グロース市場(共に仮称)の3市場の基本的な枠組みについては、2月25日付け本連載記事『今、大企業がこぞって“流通時価総額100億円”死守に躍起になっている理由』を参考にしていただきたい。

 新市場上場の新たな要件については、第1部市場に代わる「プライム市場」を紐解いていきたい。まず、基本的な要件は、2019年12月25日に金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ市場構造専門グループが発表した「令和時代における企業と投資家のための新たな市場に向けて」と題する報告書を踏襲するものとなったが、いくつかの新たに判明した要件もあるので、基本的な要件を述べる。

 まず、特徴的な変更点となったのが、現状の基準は、新規上場基準と上場維持基準が異なっているが、「新規上場基準と上場維持基準を共通化した」ことだ。プライム市場への上場は、流動性、ガバナンス、経営成績・財政状態から要件が定められた。

 流動性については、「多様な機関投資家が安心して投資対象とすることができる潤沢な流動性の基礎を備えた銘柄を選定する」ため、株主数を800人以上、流通株式数を2万単位以上、流通株式時価総額を100億円以上とした。この株主数、流通株式数、流通株式時価総額については、新規上場基準と上場維持基準は共通だ。一方、新規上場では売買代金を時価総額 250億円以上に、上場維持では1日平均売買代金を2000万円以上とした。

 ガバナンスについては「上場会社と機関投資家との間の建設的な対話の実効性を担保する基盤のある銘柄を選定する」こととし、流通株式比率を35%以上とした。また、経営成績・財政状態については、「安定的かつ優れた収益基盤・財政状態を有する銘柄を選定する」ことから、利益実績を最近2年間の利益合計が25億円以上、売上実績を売上高100億円以上かつ、時価総額1000億円以上のいずれかを充たすこととした。また、財政状態を純資産  50億円以上に定めた。

 ここでポイントとなるのが、「新規上場基準と上場維持基準を共通化した」こと。これにより、上場企業は上場後も上場時と同じ上場維持基準を維持しなければならなくなった。もし、基準に抵触した場合には、改善措置を図るための猶予期間が当分の間設けられるが、より厳しい基準となったことは間違いない。また、例えば、これまでの第1部市場では上場企業が債務超過に陥った場合には、第2部市場へ市場替えが行われたが、今回の市場再編では市場降格ではなく上場廃止になる。

「流通株式時価総額100億円以上」

 さて、現在の第1部市場上場企業が新たに創設されるプライム市場に継続して上場されるための“大きな壁”となりそうなのが、「流通株式時価総額を100億円以上」という要件だが、この流通株式をどのように規定するのかが焦点となっていた。これについては、現行の上場株式数から役員所有株式数、自己株式数、上場株式数の10%以上を所有する株主が所有する株式数、役員以外の特別利害関係者が所有する株式数(新規上場と一部指定時のみ)が控除されたものという考え方が踏襲された。

 ただし、新たに、「実態として流通性が乏しいと考えられる株主の保有する株式については、株主の保有比率にかかわらず流通株式から除外を検討する」ことが加えられた。この「実態として流通性が乏しいと考えられる株主の保有する株式」とは、「政策保有株など」が対象となる。政策保有株とは、企業同士の株式持ち合いなどのように、投資や売買目的などとは異なり「企業関係の構築・維持」を目的として保有する株式のことを指す。

 これによって、例えば現在の第1部市場上場企業で、流通株式時価総額が100億円に満たない企業がプライム市場に継続して上場するために、新株を発行したとしても、それが政策保有株であれば、流通株式とはカウントされないことになる。

 もちろん、新株を発行すること自体が株価の下落要因となるため、安易に新株を発行しても流通株式時価総額が増加するわけではないが、政策保有株であれば株式が売りに出されることはないため、新株を発行しても株価の下落に一定の歯止め効果があると思われていた。だが政策保有株が流通株式から除外されれば、その効果もなくなる。「流通株式時価総額100億円」近辺のボーダーライン上の企業にとっては、対応策の一つが使えなくなったことになる。

“駆け込み上場”の予想も

 さて、新市場への移行にあたって、大きなポイントとなりそうなのが、そのスケジュールだ。東証は、2021年6月末日を移行基準日として新市場の上場維持基準に適合しているか否かを、「2021年7月末に上場企業に通知する」としている。つまり、現在の第1部市場上場企業がプライム市場に継続して上場できるか否かの“合格発表”が行われるわけだ。

 もし、上場維持基準に適合していない場合には、新市場の上場維持基準の適合に向けた計画書を作成し、実行していくことになるが、この計画書は「公衆縦覧の対象」となるため、投資家の厳しい評価を受けることになる。“当分の間”は現行基準が適用されるものの、当分の間がどの程度の期間を指すのかは、明確にされていない。

 もう一つの注目すべきスケジュールは、今年7月にプライム市場創設を前に先行して、現在の第1部市場への新規上場や市場変更などの基準が改正されることだ。つまり、7月の改正前までは現行の基準で第1部市場へ上場できるため、“駆け込み上場”が予想される。

 さらに、赤字企業の上場審査基準の明確化も行われる。現在の第1部市場への上場では、上場後一定の期間において安定的な利益が計上できる合理的な見込みが必要とされており、赤字上場は難しい。しかし、この変更で上場後に赤字であっても安定的な収益基盤が確保されれば、上場が認められるようになり、バイオ企業など先行投資が大きく、赤字先行となりやすい業種の上場が活発化する可能性がある。

 まだ新市場の詳細は明らかにされてないものの、その骨格が東証から示されたことで、現在の第1部市場によるプライム市場への移行に向けた対応や、現在の第1部市場への駆け込み上場、または赤字企業の上場といった株式市場の“地殻変動”が起きる可能性は非常に高いだろう。

(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

鷲尾香一/ジャーナリスト

鷲尾香一/ジャーナリスト

本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

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