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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

そろそろリモートワークに成功する会社(職場)の“前提条件”が見えてきた

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
そろそろリモートワークに成功する会社(職場)の“前提条件”が見えてきたの画像1
「gettyimages」より

 コロナ禍でリモートワークが長引くなかで、どのような条件が揃えばリモートワークを成功裏に進めることができるのか、どうやら共通の認識ができてきたように思う。それは以下のようなものである。

・各人の役割や成果が明確に定められている

・進め方については当人に委ねられている

・社員は自律的に仕事をする

・マネジャーは適宜必要なサポートを行う

 キーワードは“自律”であるが、このような状態の実現には前提がある。いわゆる「ジョブ型」の働き方への移行だ。こうした背景があり、「ジョブ型」の人事ということがここ最近、改めて叫ばれるようになった。人事・組織コンサルタントという仕事をしている私のところへも、6月頃から徐々にこの手の相談が増えてきた。多くの企業で理念や行動指針のなかで「自律」を強く標榜しているにもかかわらず、いっこうに進んでこなかったのも、この点に原因がある。仕事の仕方や評価のあり方が、社員の「自律」と矛盾した状態にあるためだ。

 そのことが、リモートワークとなって改めて露見してきたのである。欧米企業のように「ジョブ型」であれば、仕事を切り分けてリモートで仕事を進めやすいが、「メンバーシップ型」の場合、そうはいかない。リモートワークは欧米を中心に広がってきたわけだが、欧米諸国の場合、働き方も「ジョブ型」であり、仕事を個人に切り分けて、成果で評価することも無理なく行うことができる。

 日本はまだ「メンバーシップ型」の働き方が一般的で、突然リモートワークに移行したため、極端なミスマッチを起こしている状態にある。リモートワークに移行するならば、出社して同じ職場というハコの中で一緒に働くことを前提として柔軟に役割を調整する「メンバーシップ型」の働き方ではなく、個々に仕事を切り分ける「ジョブ型」へ移行するのが妥当なのだ。

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」

「メンバーシップ型」とは、⽇本で主流の雇⽤形態だが、「⼈に対して仕事を割り当てる」という考えに基づくものだ。就業経験がない新卒者を社員として雇い、教育研修やローテーションによって長い時間をかけてゼネラリストとして育成していくものである。一般的に、他社で通用するような、あるいは労働市場で高く売れるような専門性は身に付きづらいが、社内においては無難に安定的に仕事を進められるようになる。その企業内だけで通用する、いわゆる「企業特殊技能」は身に付くが、「一般的技能」、いわゆる「ポータブルスキル」は身に付きづらい。日本において転職が少ない要因の根幹がこの点にある。

「ジョブ型」雇⽤とは、「仕事に対して⼈を割り当てる」雇⽤形態であり、欧米企業で主流の雇⽤形態である。通常、「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」に期待される成果や役割などが定められており、社員の年齢や勤続年数には関係なく、その⼈⾃⾝の専門知識やスキル、成果が重要視される。

メンバーシップ型」雇用が「就社」のイメージであるのに対し、「ジョブ型」雇⽤は「就職」のイメージだ。企業内での人材開発のあり方の違いに端的に表われている。「メンバーシップ型」の日本企業では、職務経験のない未熟な者を集めるので、社内の教育制度が充実している必要があり、新入社員から新任管理職までの間に多くの教育予算を割く。一方、「ジョブ型」の欧米企業では、メンバー個々人の役割や優先順位を明確に示し、成果をしっかり評価できるマネジャーを育てるために、マネジャー教育に多くの予算を割くのだ。

それぞれメリットとデメリットはある

「メンバーシップ型」では、社員は共同体の一員なので、仕事ができなくても、会社業績が悪化しても、基本的にクビになることはない。一方で、社員は雇用の保障と引き替えに、会社命令による部署や勤務地の変更を受け入れる。また、共同体の中では同調圧力が強く働くので、周囲の目を気にして長時間労働をしたり、権利であるはずの休暇もとらなかったりということが起こる。こうした点が、「メンバーシップ型」雇用はブラック化しやすいということにつながっている。同様の理由によって、リモートワーク中でも、しっかり献身的に働いているかを監視してしまうということにもつながる。

 極論するならば、欧米企業では、成果が出なければ当人の責任であり、クビにすればいいので、プロセスは放置しておいて結果だけを見ればいいのである。社員の側も、自ずと労働時間ではなく成果に集中するようになり、自らのプロ意識を高めていくことになる。

 具体的には「目標管理」がツールとなるわけだが、日本企業のマネジャーの多くは目標管理を適正に運用できるほどのスキルが身に付いていないのが現状だ。米国などでは、不当な評価の結果クビにされたとなれば、裁判で訴えられることもあるわけなので、マネジャーの側も必死でそのスキルを高める。会社としても、リスクヘッジの観点から、そうしたスキルを持った者しかマネジャーにできない。日本企業では、クビにすることもなく、せいぜい目立たない程度の収入差がつくくらいなので、なあなあな目標設定や評価でなんとかなってきた。会社も個人もお互いに緩いのだ。

「メンバーシップ型」はなかなか変わらない

 この日本における「メンバーシップ型」組織だが、その歴史は長い。「中世以降、ムラ社会が成立し、環境に最適化するために相互監視的な集団主義が浸透していったから生まれた考えだ」と社会心理学者の山岸俊男氏は指摘する。そのムラ社会は昭和から平成にかけて、会社という組織の中でも脈々と受け継がれてきた。結果、日本では社会でも会社でも、同調圧力が強くなった。会社は働く場であるとともに、コミュニティーでもあった。それが平成も終わりに近づき、転職や副業に加え、リモートワークと、ムラ社会を解体するような動きが出てきたのだ。

 価値観の問題が関係しているので、制度を変えたとしても一朝一夕に移行できるわけではない。日本企業のなかでは、「あなたがいてよかった」と存在を肯定されたい人のほうが、「あなたの能力はすばらしい」と能力を肯定されたい人よりまだまだ多いのである。こうした事情から、財界を中心に「同一労働同一賃金」の文脈で進められてきた「ジョブ型」の雇用慣行への移行だが、なかなか思わしい進捗はこれまでなかった。それが奇しくも、コロナ禍という強力が外圧により、待ったなしの状態になっているのである。

(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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