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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

菅首相、法的根拠なく携帯料金値下げ要求の愚…KDDI社長「国に決める権利はない」と批判

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
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菅義偉首相(「Getty Images」より)

 菅義偉首相は官房長官時代から「携帯電話料金は4割引き下げる余地がある」と発言するなど、携帯電話料金の引き下げに強い関心を示しており、内閣総理大臣に就任後は政権の公約にも掲げている。具体的には、4割値下げに相当する「大容量プランで月5000円以下」を目指しているとのこと。

 平成29年に実施された「電気通信サービスに係る内外価格差調査」(総務省)では、東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウルと、6つの都市における携帯電話などの利用料金について比較調査が行われている。スマートフォンの利用に関して、各都市におけるもっともユーザーシェアの高い事業者(メインブランド)の料金プランの比較では、東京の支払額は2GB、5GB及び20GBプランのいずれにおいても高水準であり、とりわけ20GBのプランは8642円ともっとも高額となっている。東京と同じく高額なニューヨークを除くと、4割値下げによる5000円以下という価格は他の都市と同程度になる。

 こうした首相の意向を踏まえ、総務省より「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」が10月に公表された。まず、このアクション・プランの基本的考え方として、「携帯電話は生活必需品となり、国際的に遜色がない水準で国民・利用者にとってわかりやすく納得のできる料金・サービスの実現が必要」と謳われている。

 また、具体的な取り組みとして、第1の柱「わかりやすく、納得感のある料金・サービスの実現(→利用者の理解を助ける)」、第2の柱「事業者間の公正な競争の促進(→多様で魅力的なサービスを生み出す)」、第3の柱「事業者間の乗換えの円滑化(→乗換えを手軽にする)」という3点が指摘されている。

携帯電話通信事業者の対応

 こうした政府の方針に対して、携帯電話通信事業者は実に素早く対応している。10月28日、KDDIとソフトバンクは新料金プランを発表した。まず、KDDIはサブブランドのUQ mobileにおいて、20GBのデータ通信が月額3980円で利用できる「スマホプランV」を投入した。一方のソフトバンクはサブブランドのワイモバイルで、データ通信量20GBを月額4480円で利用できる「シンプル20」の投入を発表した。UQ mobileより高価格となっているが、1回当たり10分間の定額通話がついている。

 さらに、12月3日にNTTドコモが発表した新ブランド「アハモ」では、5Gにも対応したデータ通信20GBと5分以内の通話セットが月額2980円と、驚きの低価格となっている。この価格は、新規参入した楽天モバイルと同額である。確かに楽天モバイルには通信量無制限という強みはあるものの、通信インフラ整備の劣勢などを考慮すると、アハモは大きな脅威となるだろう。

 こうした携帯電話通信事業者の対応に一定の評価はあるものの、これらの値下げはあくまでサブブランドにおいてであり、多くの人が利用しているメインブランドにおいて改善策が講じられていないことに対する批判も聞こえてくる。こうした声を受け、武田良太総務相は「メインブランドではまったく新プランが発表されていないのが問題だ」と発言している。

 一方、政府が携帯電話通信事業者に求めている主力ブランドの値下げに関して、KDDIの社長は「国に携帯料金を決める権利はない」と批判的なコメントをしている。

ビジネスに対する政府の関与の是非

 こうした政府による携帯電話通信事業者への値下げ要求、大きく捉えれば政府のビジネスへの関与について、みなさんはどのように思われるだろうか。

 まず、大前提として、通信料は公定価格ではなく、当然のことながら価格の決定権は企業が保有している。つまり、自由に好きな価格を設定してよいわけである。よって、KDDI社長の「国に携帯料金を決める権利はない」というコメントは、もっともである。順調な販売が維持できている状況で価格を下げれば利益低下につながり、株主から損害賠償請求訴訟を起こされるかもしれない。

 しかし、電波は有限な国民の財産であるため、プレイヤーは限定され、緩やかな競争のもと、大手3社がいずれも20%を超える高い利益率を保持していることは確かに問題である。しかも、携帯電話は多くの国民にとって生活に欠かせないものとなっており、高価格であるということは極めて深刻な事態である。

 よって、競争を加速させ、価格を低下させることは重要ではあるものの、政府がなんら法的根拠なく、ただ単に「お願い」ベースで企業に迫っていくという事態は異常である。本来なら、当然のことではあるが、適正な競争を加速させる法律を迅速に制定すべきであろう。たとえば、MNP(携帯電話番号ポータビリティー)なども、日本は欧米より大きく遅れての導入となっている。

 企業が自らの利益のために新規顧客の獲得および既存顧客の維持に向けて、さまざまな取り組みを行うことは正しい戦略であり、そのために多くの労力を費やしている。それに対して、政府が「お願い」ベースでケチをつけるとは、実に恥ずべき行為ではないだろうか。

 コロナ対策においても、法整備をすることなく「お願い」ベース、「空気を読め」的対応で事を済ませようとする政府の姿勢は強く批判されるべきであり、是正を求めたい。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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