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アイスホッケー、12年ぶりプロチーム誕生…社会人選手が会社勤めの“二足のわらじ”

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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NHL選手だったマイク・ケネディ・ヘッドコーチ

 すっかりマイナースポーツになったアイスホッケー。女子はすでに来年の北京冬季五輪の出場権を勝ち得たが、1998年の長野五輪の後、予選落ち続きで五輪から遠ざかる男子は人気低迷に苦しむ。かつての日本リーグが成り立たず、日本アイスホッケー連盟は2003年からロシアと韓国などを交えて「アジアリーグ」を運営するが、新聞やテレビの報道は少ない。そんな中、昨年、クラブチームとして新規加入した「横浜GRITS」は「デュアルキャリア」をモットーに異色の「二足の草鞋軍団」として奮戦する。

 夕方に首都圏の緊急事態宣言が出された1月7日の朝、本拠地、横浜市神奈川区の「横浜銀行アイスアリーナ」で8時半から行われた練習を覗いた。選手らが氷に上がる直前、カナダ人のマイク・ケネディ・ヘッドコーチが小さなホワイトボードを手に円陣を組む選手たちに英語で説明している。誰かが訳すのかと思ったら通訳はいない。選手たちはそのままリンクに上がりシュートやフォーメーションなどの練習を無駄なくこなす。マイク氏は時折、選手を中央に集めて指示するがすべて英語。練習はダラダラと長くはしない。選手たちは9時45分にはリンクから上がり、着替えて職場へ直行する。

「選手みんな英語が堪能で驚きました」と話しかけると、マイク氏は「オール(全員)ではなくモースト(大半)ですね」と笑った。しかし、監督や選手がマイク氏、外国籍選手たちと冗談を言い合ったりする英語力には驚く。マイク氏を下手な英語で取材しようかと思ったが、チームの人に通訳してもらう。チームのレベルの高い英語力に「恥をかくぞ」と感じたのだ。

「NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)のダラススターズ、トロントメイプルリーフス、NYレンジャーズで153試合出場しました」というマイク氏は「2つの仕事を持ってホッケーをやるのはものすごくハードなはず。選手たちは本当によく頑張っている」などと話してくれた。筆者が「NHLでもかつての(ウェイン)グレツキーのような大スターが不在で、人気も下がったのでは?」と聞くと「そんなことはない。人気は高く、コナー・マクデービド(エドモントンオイラーズ)のようなスターがいる。欧州のレベルも上がるなか、強豪国で上達していないのはカナダですよ」と最後には母国を案じた。

「マイクコーチやロマン・アレクセエフ(ベラルーシ)、マット・ナトル(米国)も、開幕後しばらくは新型コロナの影響で来日できなかったのですが、やっと合流できました」と浅沼芳征監督は安堵する。チームの英語力については「海外で育ったり、プレーしていた選手が多いんです」

SNSで映像発信

 菊池秀治主将は34歳。「この歳ではきついですよ」と笑う。法政大学出身。東北フリーブレイズの選手だったが、のちに中国・黒竜江省が本拠地の「チャイナドラゴン」(現在は活動停止)でもプレーした国際派。外資系の保険会社に勤めながらのプロ選手生活だ。「いろいろ渡り歩きましたが、アイスホッケーができるのは幸せ。テレビや新聞ではあまり取り上げられませんがSNSなどの新メディアで映像発信しているので、YouTubeなどで見て、面白いなと思って見に来てもらえれば嬉しい」と話す。

 横浜GRITSの「GRIT」とは「ギイギイ音を立てる」が転じ「やり遂げる」という意味の英語。2020~21年シーズンからアジアリーグに参加。昨年6月2日の「横浜開港記念日」から参入したが、まだ勝てない。ジャパンカップは王子イーグルスに1-8、0-12と大敗。ホーム開幕戦は10月17日だったが、ひがし北海道クレインズに1-4で敗戦。

 アウェーでの東北フリーブレイズ戦2日目の11月1日は2点先制し、第2ピリオドに追いつかれたがチームの牽引者、池田涼希が勝ち越し点を挙げ、試合残り7分に濱島尚人が追加得点したが逆転負け。11月29日、H.C.栃木日光アイスバックス戦は2人の外国人選手のゴールなどで3-1とリードしながら第3ピリオドで同点にされ、延長戦で逆転された。目標はまず初勝利が、年明け後の試合は新型コロナ禍の影響で2月20日以降に延期されてしまった。

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菊地キャプテン(左)と浅沼監督

サラリーマン経験も活かす

 アジアリーグでは「生活は会社におんぶに抱っこでホッケーだけしていればいい」というかつての実業団チームの選手環境が崩れている。そんな中、横浜GRITSの選手は全員が大卒で、アルバイトではなくソフトバンクなど一流企業の社員として働いている。

 広報を担当するメディアリーダーの小川翔太氏は今春、中央大学を卒業してコンサルタント会社に就職する。「今後もチーム運営には関わりたいですが、全国展開の会社なので赴任地が遠いと……」と心配そうだ。

 東京圏でアジアリーグに所属するプロのアイスホッケーチームは、コクド、西武鉄道の流れを汲む「SEIBUプリンスラビッツ」(西東京市)が解散して以来12年ぶり。

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選手たちはダブルワーク

 チームの母体は、北海道出身で慶応大学アイスホッケー部出身の臼井亮人(あきひと)氏が「アイスホッケーに情熱を注ぐすべての選手が、安心してプレイできる環境を整え、アイスホッケーをメジャースポーツにしたい」と2019年5月に立ち上げた「GRITSスポーツイノベーターズ株式会社」(現在はチーム運営会社)。ゼリア新薬、オーダーメイドの鎌倉シャツ、ショッピングマートの横浜トレッサなどのスポンサーもついてくれた。実業団など従来のトップチームはアイスホッケーに特化していたが、「横浜GRITS」は「デュアルキャリア」を掲げ、「アイスホッケーだけでなく仕事もする!!」が理念だ。

 浅沼監督も慶応大学出身。母校でもアイスホッケー部監督を務めた。卒業後、電通に20年勤め、町田市で実家の酒店「蔵家」を継いだ。「選手にはイノベーターズから一定の給料は払われていますが、みんな別の仕事を持っています。コロナ禍での出航は想像以上に厳しかった」と話すが、「サラリーマン経験も活かし、単なるプロ集団ではなく、これからのスポーツ社会に活力を与えるチームを目指したい」と意欲的だ。

 横浜GRITSは横浜市の港北区商店街連合会と「ホームタウン活動」の協定を結び、JR新横浜駅のペデストリアンデッキに選手のポスターが張られた。チームは徐々に「浜っ子」に浸透している。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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