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藤井聡太、全敗だった天敵・豊島将之に初勝利…86手目「8六歩」“絶妙の好手”を追う

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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藤井聡太二冠

 7戦目にして初勝利――。

 藤井聡太(18)が1月17日に名古屋市の名古屋国際会議場で行われた「朝日杯将棋オープン戦」本戦の準々決勝で、最も苦手としていた豊島将之二冠(30/竜王、叡王)に勝ち、2月11日に東京で渡辺明三冠(36/名人、王将、棋王)と対戦する準決勝(同日に決勝)にコマを進めた。

 藤井はプロ入り後、豊島には公式戦で6連敗し、1勝もしていなかった。現在、藤井と公式戦で3戦以上の対局をして勝ち越している棋士には、久保利明九段、大橋貴洸六段、佐々木大地五段がいるが、豊島は「最大の天敵」だった。

 2017年、18年と藤井が連覇した朝日杯は観客を入れての公開対局だ。「藤井が苦手の豊島に勝てるか」ということで、コロナ禍にもかかわらずファンが駆け付けた「7度目の対決」は、期待通りの熱戦となった。同杯は持ち時間が一人40分と短く、使い切れば一手を1分以内に指さなくてはならない「1分将棋」になる。

 豊島が先手番。序盤に角交換し、豊島がよく見かける「腰掛銀」で様子を見たのに対し、藤井は3筋と4筋(後手なので6筋と7筋)で積極的に銀を前進させる「早繰り銀」という、豊島も予期していなかった急戦に持ち込んだ。難しい将棋は、徐々に豊島が優勢になっていたようにも見えた。

 先に時間を消費してしまったのは藤井。その時点で豊島は9分残していた。この差は大きい。時計係の秒読み「……50秒、1、2、3、4、5、6、7、8」に藤井ファンはハラハラさせられる。10まで読み上げられたら敗北だ。実はプロの棋士でもたまにあり、ひふみんこと加藤一二三九段(引退)は現役時代、何度かこの「ポカ」をやっていたそうだ。

 ちなみに日本将棋連盟の規則では、秒読みに追われて慌てて指そうとして万が一、駒を落としてしまったら、指で盤面部分を押さえ、指す手を口頭ですぐに伝えれば時間内に指したとみなされる。

「相手がやったことも自分がやったこともありますが、やはり相手が認めてくれなくては駄目ですね」(今泉健司五段)

無意識に妙手を放つ

 この対局、藤井が「9」まで読まれて角で王手した場面もあった。慌てたわけではないだろうが、あまりよい手ではなかったとみられる。だがその後、藤井が86手目に放った「8六歩」の攻めが絶妙の好手となりその後、94手目で豊島が投了した。

 局後、藤井は「今まで6局やって勝てていなかったので、ホッとした気持ちはあります。しっかり集中して良い将棋をお見せできるようにしたいと思います」「強い相手と対局できるのはすごく楽しいことなので、過去の成績というのは忘れて一生懸命指そうと思っていました」などと語った。敗れた豊島は「序盤に失敗してしまって中盤あたりで難しくなったような気もしたんですけど、最後のほうに何かチャンスがあったのかもしれないですけど、ちょっとわからなかったです。8六歩がいい手でしたね」などと相手を称えた。棋士が対局後に、相手の一手を具体的に取り上げて褒めるのも珍しい。

「8六歩」について、大盤解説をしていた森内俊之九段(50/永世名人資格者)は「(藤井には)もう一枚歩があるから7八歩で『詰めよ』がつくれる。かっこいい手です」と感心していた。「詰めよ」とは、王手ではないが相手が守らなければ次の手から詰んでゆく一手のこと。「詰めろ」ともいう。

 しかし局後に藤井本人は「詰めろ、のかけ方がわからなかったので、あのあたり、まったくわかっていなかったです」と振り返った。藤井聡太は本音でもないことを言ってみせて相手を煙に巻いたり、攪乱させるような芸当ができる男ではないだろう。年齢ではなく彼の性格からそう感じる。であれば、「わかっていなかった」は本心だろうが、それならば究極の「秒読み」に追われながらも半ば無意識で相手が脱帽するような妙手が放てたわけである。やはり「不世出の天才」たるゆえんだろう。

この勝利の大きな意義

 藤井と豊島はともに愛知県出身。すでにプロ入りしていた豊島が、小学6年生だった藤井と対戦したことがある。豊島は「自分が6年生の時よりもずっと強い」と驚いていた。   

 2人の公式戦初戦は2017年の夏に行われた棋王の挑戦者決定トーナメントだった。すでにA級棋士だった豊島に、四段だった15歳の藤井は完敗し、A級という壁の高さを痛感していた。その後は力の差が縮まり、次第に接戦になってゆくが、藤井はなぜか豊島には勝てず、優勢に進めている将棋も逆転されたりした。

 とりわけ、昨年10月の王将戦の挑戦者決定リーグでは、圧倒的に優勢だった藤井が土壇場でミスから大逆転を許してしまい、「実力差なのか」としょげていた。トップクラスの棋士たちの実力は紙一重。ここで一人でも苦手な相手をつくると真のトップとして君臨してゆくことは難しくなる。その意味でも、この機に勝っておけたのは大きな意義がある。

 一方、名人戦につながる順位戦リーグでは藤井は現在、B級2組で一人だけ負けなしの8戦全勝。、師匠であり同級に在籍する杉本昌隆八段(52)を追い越してB級1組への昇級、つまり「一期抜け」の可能性が高まっている。順位戦の第9局は朝日杯の2日前である2月9日に東京の将棋会館で行われ対戦する窪田義行七段(48)に勝てば昇級決定だ。

 あれこれ書いていると忘れそうになるが、藤井はまだ高校3年生である。高校卒業までわずかの期間も、天才棋士まだまだ楽しませてくれそうだ。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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