前回、トヨタ自動車「アルファード」の売れ行きが好調なことについて、「クラウン」や「エスティマ」からの代替えが増えているという事情について述べた。現在のアルファードの“激売れ”ともいえる状況は、2020年5月から始まったトヨタの全店併売化による成功事例のひとつといえる。今回は、近年、販売台数を落としているクラウンの事情について、さらに見ていきたい。
2005年に、レクサスブランドが日本でも販売をスタートさせた。スタート当初、レクサス車は東名阪(東京、名古屋、大阪)およびその周辺や福岡、仙台、札幌などの主要都市ではなく、その他の地方都市でよく売れているとされた。その当時は、東名阪および各周辺や福岡、仙台、札幌エリアでは輸入車に乗ること自体たいして抵抗のいることでもなかったが、それ以外の地方都市ではかなり勇気のいることであった(何かと注目されてしまう)。もちろん、主要都市に比べてサービスネットワークが充実していないということも、輸入車に乗るのに抵抗を覚える人がいたようだ。
そのような環境下でレクサスが国内販売をスタートさせると、「トヨタブランド以上、輸入車未満」、つまり「これはトヨタがつくっているのですよ」ということが、表現はあまり良くないが、わかりやすくいえば“免罪符”となっていたことでよく売れたとも聞いた。つまり、輸入車ほど目立たずに、そして周囲の理解も得ながら、さらにドイツ系高級車のようなプレミアムモデルに乗ることができたのが、地方部でスタート時にレクサス車がよく売れた背景のようである。
しかし、現状では輸入車ブランドの多くも販売ネットワークの拡大を進めており、「なんでここに?」と地元の人も驚くような広範な地域に店舗を構えたりしている。さらに、あまり喜ばしいことではないが、全国的に所得格差が露骨なほど広がりを見せ、富裕層はより豊かとなり、昔ほど輸入車に乗るための“遠慮”がいらなくなった。そのような傾向もある中、現行クラウンはドイツ系高級ブランド車に近寄ったキャラクターとなっていることもあり、販売苦戦になっているとも聞く。
最近は、ネットなどで「クラウンが高級SUVになる」といったトピックが上がっている。1955年に日本初の純国産乗用車としてデビューし、セダンスタイルを引き継いできたクラウンだが、100年に一度の変革期にある今の自動車産業の中で、クラウンも新たなステップを目指すときが来たのは間違いないようである。
古いトヨタ車ユーザーを狙うトヨタの戦略
アルファードに限ったことではないが、トヨタ車の中でヒット車が出ても、必ずしも他メーカーのライバル車を“食って”いるわけではない。たとえば、現行「カローラセダン」は3ナンバーサイズとなったが、その狙いはいまだに「マークII」3兄弟や「ブレビス」「プログレ」といった古いトヨタのセダンに乗っているユーザーなどからの乗り替えの受け皿も狙ったものとされている。
歴代モデルや、過去にラインナップされていたが今は生産終了となっているトヨタ車のユーザーは意外なほど多いのである。大ヒットした3代目「プリウス」を現有するユーザーも多く、たびたび新型車の販売促進ターゲットとされることがある。
現行「RAV4」がデビューしたときも、「ヴァンガード」や「クルーガー」などのユーザーを代替えターゲットとしてアプローチしたとも聞いている。「C-HR」では、「セリカ」などの古いスポーツクーペユーザーもターゲットとしてリストアップしたようだ。
つまり、すでに国内販売で圧倒的なシェアを誇るトヨタは、他メーカーのライバル車を念頭に新型車の販売促進を行うよりは、すでに生産終了になった自社モデルを中心に、多くのトヨタ車ユーザーにアタックした方が効率は良いと考えているように見える。
トヨタ車からトヨタ車への代替えをメインに販促活動を展開しながら、他メーカー車などからの新規ユーザーも取り込んでいるところがトヨタの強みであり、アルファードの好調な販売は、まさにそれを体現しているといっていいだろう。
(文=小林敦志/フリー編集記者)