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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

ロイヤルホスト、コロナ禍で大打撃からの復活…双日との資本業務提携で何が変わるのか

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

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世田谷通りに面した「ロイヤルホスト 馬事公苑店」(筆者撮影)

 4月の平日午後、東京・世田谷区内の「ロイヤルホスト 馬事公苑店」に行くと、店内では空席を待つお客さんが3~4組並んでいた。

 やがて座席に案内されて周囲を見渡すと、家族客や友人・知人と思われるグループ客で満席だ。入学式の後なのかスーツ姿の母親と一緒の子どももいれば、1人客もいる。

 ロイヤルホストは、飲食や接客の質で日本のファミリーレストランをリードしてきた存在だ。開業は1971年で、1号店は福岡県北九州市。現在は国内に約220店舗を展開する。

 同ブランドが牽引する外食事業は、持株会社のロイヤルホールディングス(ロイヤルHD、本社:福岡県福岡市)の業績を長年支えてきたが、新型コロナウイルスにより業績は一変。感染拡大防止による店舗の休業や営業時間短縮、座席間の間引きを余儀なくされた。

 2020年のロイヤルホスト既存店売上高は、対前年比103.8%(1月)→同103.9%(2月)と好調だったが、コロナ禍で3月から下降し、4月には同42.1%と急降下した。ただし同月が底で、半年後の10月には同95.3%に回復した。

 現在も外出自粛の影響を受けるが、2021年3月の既存店売上高は同103.2%と戻り基調にある。それを受けての4月のにぎわいだった。

コロナ禍でも「外で食事を楽しみたい」

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馬事公苑店(写真左)の横には並木道があり、奥に馬事公苑がある

 ロイヤルHDの業績は後述するが、今年はロイヤルホスト開業から50年となる。そこで本稿では、ブランドのこだわりと、同店に求める消費者意識を中心に考察したい。

 今回はこの人に話を聞いた。外食業界の動向に詳しく、ロイヤルHDの初代広報室長を務めた城島孝寿氏(3月末の取材時は同社コーポレートコミュニケーション部顧問。4月から外食企業の広報支援業務を担当)だ。

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1994年から16年にわたり、ロイヤルHDの広報責任者を務めた城島孝寿氏

「コロナ禍で消費者の意識は大きく変わりました。外食に関しては、店内で食事ができなくてもデリバリーやテイクアウトが充実するようになり、それらを利用されています。しかし、外出自粛が続き、『外で食事を楽しみたい』と思う人も多いようです」(城島氏)

 冒頭で紹介した馬事公苑店のにぎわいは、それを裏づけている。同店は首都圏における4号店で、1978年開業。東京でのロイヤルホストの知名度を高めた店として知られる。

「店は世田谷通りに面しており、並木の奥には東京五輪の馬術競技会場に予定されている馬事公苑があります。実は馬事公苑店がうまくいかなかったら、東京での店舗展開は非常に厳しい状況になったと思います。当時、創業者の故江頭匡一も近くのマンションで暮らしながら、運営の陣頭指揮に尽力した店でした」(同)

 福岡では知られた店も、40年前の東京では無名のブランドだったが、世田谷での成功で全国区となったのだ。なぜ、長年にわたりお客さんが支持しているのだろうか。

「時代によって多少の浮き沈みはありましたが、ロイヤルらしさを感じていただくお客さまのご支持を受けたと考えています」(同)

「大衆」に満足を与える「高級専門店」を目指した

 競合とは一線を画す「ロイヤルらしさ」について、城島氏はこう続ける。

「江頭創業者が目指したもので、(1)すべてにきちんとしていること、(2)本物を知っていること、(3)本物を現場で実現すべく努力することです。たとえば、(1)は飲食の味だけでなく従業員の身だしなみや接客、(2)と(3)には世界各国の料理を紹介する期間限定フェアがあります」

 取材時は「オマール海老&ステーキ フェア」(3月上旬~7月上旬予定)も開催されていた。オマール海老は、カナダ東海岸やプリンス・エドワード島から届いた高級食材だ。

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「オマール海老のグリルと紅ずわい蟹のクリームコロッケ&アンガスサーロインステーキ(100g)」は単品で2380円+税(店内飲食は2618円。一部の店では異なる)。
(写真提供:ロイヤルホールディングス)

 各国の料理を紹介した最初は1974年の「ハワイアンフェア」で、「夏のカレーフェア」は1983年から続く。同社の従業員にとっても、それぞれの思い出が残る。

 ロイヤルHDの吉田弘美氏(経営企画部コーポレートコミュニケーション担当部長)は「ロイホとカレー」について、こう説明する。

「『暑い国発祥のカレーで夏を元気に過ごしてほしい』という思いで夏季にカレーフェアを実施。過去に提供したカレーの数は160種類以上になります。個人的には、学生時代に宮城県仙台市の店舗でアルバイトをしましたが、当時販売された『グリーンカレー』が、ココナッツミルクの強い香りで衝撃的でした」(同)

 江頭氏と身近に接してきた城島氏は、こう続ける。

「創業者は、『大衆に満足を与える高級料理店を志向する』を掲げ、手の届く価格で質の高い料理を提供するために料理人の育成にも力を入れたのです。また、『サービスが良くて、料理がおいしくて、本当にくつろげる空間を提供する』という3本柱も大切にしました」

 上記の3本柱は、飲食業界で求められる「QSCA (Quality=品質、Service=サービス、Cleanliness=衛生、Atmosphere=雰囲気)」にあたる。

「低価格は、ロイホに求めていない」

 かつて「ファミリーレストラン御三家」と呼ばれたブランドがあった。「デニーズ」「すかいらーく」「ロイヤルホスト」だ。これらは、まだ競合も限られた時代の同業界を牽引した。

 それが「サイゼリヤ」に代表される低価格の店が拡大し、すかいらーくブランドの大半も低価格中心の「ガスト」に業態転換するなど、産業構図が変わった。そして現在のように総合型から専門型まで業態も多様化し、低価格帯から高価格帯まで店が林立した。

 消費者意識はどうか。たとえば、新生銀行が発表した「2020年サラリーマンのお小遣い調査」では、1回の昼食代に使う額は「男性会社員の平均が585円、女性会社員が同581円」。ワンコインランチを裏づける数字だ。一方、「ロイヤルホストは割高」という声も聞く。

「そうした声があるのは承知しており、過去には低価格メニューで一部の商品を提供し、お客さまの反応を聞いたこともあります。その時にハッとしたのが、『ロイホにそれを求めていない』という声でした。お客さまの本音も受けて、食材へのこだわりやプロの調理人がひと手間かけるなどの原点を深めていき、低価格とは一線を画したのです」(吉田氏)

 ファミリーレストランがファミレスと呼ばれ、身近な存在となった半面、敷居は下がった。

 たとえば「ファミレス的な利用」といわれる「コメダ珈琲店」の郊外型店の入口はフラットで作業服姿でも入りやすい。一方、ロイホは階段を上がる店も多く、一定の敷居の高さがある。

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階段を上がる店も多い「ロイヤルホスト」の入口

ブランドは「銘柄」と訳されるが、筆者には「のれん」がしっくりくる。のれんをくぐるお客がブランドに期待するのは何か。「自宅では出せない味と雰囲気」だろう。「競合より割高でも、ロイホのステーキやカレーが好き」という会社員男女の声も聞いてきた。

「ロイヤルデリ」は、カフェのコーヒー豆の役割

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本格的フランス料理の店として知られる「レストラン花の木」の店内(2019年撮影)

「ロイヤルホストの原点は、1953年に福岡市で開業したフランス料理店『ロイヤル中洲本店』で、現在は『レストラン花の木』の名で運営されています。その飲食文化が、70年の大阪万国博覧会会場で運営したロイヤルキャフェテリアやステーキハウスなどを経て、ロイヤルホストに進化していきました」

 城島氏はこう説明し、「創業事業の機内食で培った技術も横展開されています」と話す。

「ロイヤル中洲本店」は、大リーグ、ニューヨークヤンキースの大打者・ジョー・ディマジオ選手と女優のマリリン・モンロー夫妻(当時)が来店した名店だ。

 また、業界に先駆けて1962年から始めたセントラルキッチンシステム(集中調理方式)で培った冷凍食品の技術は、「世界各国の料理を楽しめるフローズンミール」を掲げて、2019年12月から本格展開する冷食ブランド「ロイヤルデリ」にも結実した。

 ロイヤルデリはロイヤルHDが注力する成長事業で、2020年第一四半期に比べて同年第四四半期の売り上げは6.6倍に拡大した。ECのほか、ロイホ各店でも大型冷凍庫で販売されている。関心は高く、馬事公苑店視察時も来店客が入れ替わりで冷凍庫の品物を見ていた。

 その光景を見て「カフェにおけるコーヒー豆」をイメージした。筆者が取材する人気カフェでも、店のコーヒーの味に気に入ったお客が、200gの豆や1杯取りのドリップパック(個別包装)を買っていく。ロイヤルデリも持ち帰りの定番に育てるのが理想だ。

双日との提携で何が変わるか

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ロイヤルホスト店内に設置された「ロイヤルデリ」商品

 バランスのとれた経営で知られたロイヤルHDの2020年12月期の売り上げは、非常に厳しかった。主力の外食事業やホテル事業(代表ブランドはリッチモンドホテル)、機内食事業などがコロナ禍の移動自粛・制限で軒並み影響を受け、全体の連結売上高は843億400万円(対前年比60%)。外食事業は同462億5400万円(同73.9%)と、大幅に落ち込んだ。

 業績悪化を受けてロイヤルHD経営陣が動き、2021年2月に総合商社の双日と資本業務提携を行った。第三者割当増資や新株予約権の発行で、双日がロイヤルHD株式の約20%を握った。

 両社は「共同プロジェクト統括室」を新設し、今後の活動の実務面を詰めていくが、双日との提携でロイヤルホストの何が変わるのか。関係者は「物流や購買の改革という横軸で連携が進み、既存データの共有や事業間の連携も深めていきたい」と話す。コロナ以前から店舗運営の効率化には積極的で、物流など来店客から見えない部分での効率が進みそうだ。

 最後に、ロイヤルホストの今後を予想したい。まず「上質感」は大切にするだろう。一時は381店(1999年末)あった店舗数も徐々に絞り、一定規模の店舗数で運営するはずだ。ちなみに2020年からのコロナ禍でも、客単価は対前年比110%前後で推移してきた。

 収容人数に影響する座席の間引きを考えると、客単価をさらに高めたい。カギを握るひとつが、ロイヤルデリだ。ロイホ店内に設置された同商品はショールーム展示品にも思える。ECでも販売するが、持ち帰りできるロイヤルデリの購入が増えれば、客単価を押し上げる。

「ファミリーレストラン」という業態は日本特有のようだが、家族や友人・知人と楽しめる外食店は世界共通だ。筆者は巣ごもり消費も取材してきたが「コロナが落ち着いたら、外でゆっくり食事をしたい」という願望は強い。その時に選ばれる店=ロイヤルホストとなるか、だろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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