4月25日に投開票された北海道・長野・広島の国政3選挙で、自民党はまさかの全敗。今秋までに必ず行われる衆議院の解散総選挙を控え、菅義偉政権には痛打となった。
特に広島。基礎票だけを見れば、自民党と公明党を合わせた票は野党の倍。選挙買収事件で有罪となった河井案里氏の当選無効に伴う再選挙とはいえ、自民党は当初、勝てる選挙だと高を括っていた。しかし、「政治とカネ」問題への有権者の嫌悪感は想像以上だった。
責任論をめぐって党内はガタガタした。本来、選挙の総責任者は幹事長である。ところが、二階俊博幹事長は早々に逃げた。投開票当日の夜、都内で森山裕国会対策委員長らと会って今後の対応を協議はしたものの、予定していた自民党本部に入るのをやめて、議員宿舎に戻ってしまったのだ。記者団が待ち構える党本部に幹事長が姿を現さないのは、国政選挙では異例のことだ。
「二階さんの頭の中では、広島の選挙は菅首相の子分(案里氏の夫の克行元法相)が引き起こした不祥事による選挙であり、岸田文雄・前政調会長の地元だから岸田派の選挙、という認識で、本音のところで『俺は関係ない』という感覚だった。二階さんにとっては自民党より二階派のほうが大事なんでしょう」(自民党関係者)
最近も「二階派ファースト」がよくわかる出来事があった。今年7月に予定されている兵庫県知事選の自民党推薦候補が、二階派の事情で決まったのだ。兵庫県知事選をめぐっては、現職の井戸敬三知事が昨年12月に不出馬を表明。後継として前副知事・金沢和夫氏(64)が出馬表明し、自民党兵庫県議の多くが金沢氏を支援している。
一方で、総務省出身で大阪府の前財政課長・斎藤元彦氏(43)も出馬を表明し、先に日本維新の会が斎藤氏を推薦した。これに一部の自民党兵庫県議が同調。県議会は分裂状態となり、斎藤氏を推す県議10人程度が県議会の自民党会派を除名される事態となっている。
自民党に対しては、金沢氏と斎藤氏がともに推薦を求めたが、県議を中心とした県連の選挙対策委員会が投票を行い、当然のごとく金沢氏を推薦することを決めていた。ところが、兵庫県選出の国会議員が県議らの決定に異を唱え、斎藤氏の推薦を主張。結局、党本部は金沢氏ではなく斎藤氏の推薦を決定し、4月22日、自民党本部で菅総裁が斎藤氏に推薦証を手渡した。
「あり得ない決定です。県連は推薦を金沢氏に決め、斎藤氏を推す県議は自民会派を除名されているのですよ。それなのに、県議会の主流が党本部に梯子を外され、会派を追い出された非主流が党本部からは正当性を認められるという逆転現象になってしまったのです」(地元の地方議員)
国会議員の私利私欲
背景には、近づく衆院選で自らの選挙区に維新候補を立てないでほしいと願う国会議員の私利私欲がある。維新が推薦する斎藤氏を推せば、維新に配慮してもらえるのではないかという期待だ。主導したのは県連会長の谷公一衆院議員と山口壮衆院議員だという。2人とも二階派。党本部の異例の決定は、二階氏が県議会を無視して、派閥の子分の要望を優先した結果だ。
「幹事長は党の幹事長であって、二階派の幹事長じゃない。こんなことが続けば党の組織はおかしくなってしまう。二階さんがこのまま幹事長でいいのかどうか。3選挙全敗の責任を取るべきじゃないか、という声も党内には燻っている。菅首相はどうするのか」(前出の自民党関係者)
幹事長がやりたい放題。いよいよ政権末期の様相を呈してきた。
(文=編集部)