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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、21本の河川で洪水、最悪の被害…長江・黄河も警戒高まる、深刻なコメ不足の懸念

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「Getty Images」より

 共産党結党100周年記念日(7月1日)が近づく中国で、東部と南部の地域を中心に21本の河川で洪水が発生している。5月から南部地域では持続的な降雨の影響で、浙江省や江西省、福建省、湖北省、四川省、貴州省、雲南省、広西チワン族自治区、チベット自治区の9省79カ所の河川地域に洪水警報が発令されていたが、そのタイミングは例年よりも1カ月近く早かった。

 5月下旬の時点で湖北省武漢市の測量所では156年ぶりに最高水位を記録し、江西省ではすでに被害が発生していた。八陽湖の水位が急上昇したことから、江西省では56万人が避難、40万ヘクタールの農地が浸水した。この地域は毎年洪水被害が発生しているが、今年は例年より20日ほど早いという。

 中国気象庁は5月下旬、「通常、北緯20度前後に位置する亜熱帯高気圧が著しく北上し、北側に冷たい空気が勢いよく南下したことにより、長江以南の地域に多くの雨が降っている」とその原因を説明した上で、「長江流域では今後も大雨が頻繁に続く予定であり、洪水が起きる可能性が高い」と警告を発した。

 中国水利省も「今年の6月から8月にかけて(長江流域に加えて)北部の黄河、海河などでも大規模な洪水が発生する可能性がある」との見解を示し、「今年は最悪の洪水被害が出るのではないか」との懸念を示していた。

 中国では長江の大雨のほかに、東北部の黒竜江省で5月下旬に大雪が降るという珍事も起きているが、異常気象の原因は偏西風の蛇行である。偏西風とは北極と中緯度の境界を流れるジェット気流のことである。近年偏西風の蛇行が毎年のように起きており、世界各地で多大な被害をもたらしている。

 中国の長江流域が例年よりも早く洪水期に入ったようだが、去年の初夏も中国南部は大洪水に見舞われた。長江流域では6月から断続的に大雨が降り、7月の降水量は1961年以来最多となった。重慶市は80年に1度の集中豪雨に見舞われ、三峡ダムは建設以来の最高水位を記録し、連日のように国内外のメディアは「ダムの崩壊が近づいている」と報じていた。

「コメの絶対的自給」に赤信号

 中国の主要穀物(コメ、小麦、大豆、トウモロコシ)の生産地の重心は北方地域にあるが、コメに限っていえば、生産の中心は南方地域にある。水稲の作付け面積は南方地域が全国の8割、長江流域だけで6割を占める。中国ではコメの3毛作が一般的であるが、昨年は3回の生産サイクルのすべてで豪雨による被害を受けた。

 中国政府が今年1月に発表した報告書によれば、昨年南部地域は1998年以来最も深刻な増水に遭遇し、農作物の被災面積は約1996万ヘクタールに達したという。その被害規模は中国の全耕地面積(約1億3486万ヘクタール、2017年時点)の約15%に相当する甚大なものだった。「長江流域がこれだけの自然災害を被ればコメ不足に陥るのは必至である」と判断する向きが少なくなかったが、予想に反して中国政府は「全国レベルで引き続きコメの供給は順調だった」と総括している。

 中国政府が講じたコメ対策は、(1)増産、(2)食品ロスの削減、(3)備蓄米の放出、(4)海外からの緊急輸入などである。

 まず増産だが、中国政府は四川省や湖北省などの農家に補助金を支払って果樹からコメへの作物転換を促した。しかし農民が政府の増産の呼びかけに応じたかどうかについては疑問符がついている。近年、農民の間で農業に対する意欲が減退しているからである。この傾向は特に若い世代に顕著であり、膨大な面積の耕作放棄地が各地に広がっている。土壌汚染の深刻化により、基準値以上のカドミウムを含むコメが全国に大量に出回っているという問題もある。このような状況から「農民に土地所有権を与え、都市住民と同じ権利・福祉を付与しない限り、解決できない難題である」との認識が強まっている。

 次に食品ロスの削減だが、長江地域の洪水被害が生じた昨年8月から習近平指導部は食品ロスのキャンペーンを実施した。効果のほどは定かではないが、中国で1年に出る残飯の量は3000万~5000万人分の1年間の食料に相当するという。

 さらに備蓄米の放出だが、中国政府は昨年8月、360万トンの備蓄米を市場に放出した。安全保障上の理由で中国の国家の穀物備蓄量は公表されていない。

 最後に、海外からの緊急輸入だが、昨年12月、中国は世界最大のコメ輸出国であるインドから10万トンのコメを輸入する契約に調印した。中国はタイやパキスタンなどからコメを輸入しているが、コメの自給率は95%を維持しているとされている。

 中国は2005年に主要穀物の世界最大の輸入国となったが、国民のメシ(主食用穀物)であるコメについては「絶対的に自給する」と政府は宣言している。主食用穀物の絶対的自給を確保できなければ、他の食料の輸入が脅かされた場合、国内での飢餓などの混乱を回避できないと考えているからである。

「毛沢東時代に使用した食料配給切符が一部地域で復活するのではないか」と危惧されていたが、昨年の大水害はなんとか乗り切った。しかし、今年も同様の被害が出るのであれば、中国政府が公約する「コメの絶対的自給」に赤信号が灯る可能性がある。中国はこれまで外国からの円滑な食糧調達を期待できたが、米中対立の激化など国際環境が変動するなか、未曾有の危機を乗り切ることができるのだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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