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舘内端「クルマの危機と未来」

EV電池が足りない…世界的な争奪戦が熾烈化 大手EVメーカー5社の“囲い込み”競争

文=舘内端/自動車評論家
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「Getty Images」より

足りないEV用電池

 EV(電気自動車)シフトが鮮明になるにつれ、電池をめぐる競争がいっそう激しくなった。電池のメーカーや材料の違いはともかく、生産を予定している台数に間に合う量の電池をなんとしても確保したいというのが、EV戦争に名乗りを上げている自動車メーカーの本音だろう。

 というのも、2030年に向かってEVの生産台数の大幅な増加が予測されているからだ。英国の調査会社LMCオートモーティブによると、EVの世界販売台数は30年に2334万台と、20年の10倍になると予測されている。

 ちなみに20年の中国の自動車販売台数は世界一で、およそ2543万台、世界の総販売台数は9179万台(2019年)である。つまり、30年には中国の販売台数に近いEVが世界で生産され、販売されると予測されているわけだ。

 しかも、20年時点の電池の生産規模は400万台分しかない。EVメーカー自身が生産するにしても、電池メーカーからサプライ(供給)を受けるにしても、現在の生産能力では30年に向けてまったくの電池不足なのである。

メイン電池メーカー

 現在、世界の自動車メーカーにEV用電池を生産量・性能・価格の面で安定的に供給できる電池メーカーは、中国のCATLBYD、韓国のLG化学、SKイノベーション、日本のパナソニックといったところだろう。とくにCATLとBYDには最近、電池供給の契約が目白押しだという。というのも、後述するが2社の生産するリチウムイオン電池の価格が安く、性能が安定しているからだ。

 今後のEVの生産台数の増大から、上記の世界的な電池メーカーの囲い込みが起きている。いまから自動車メーカーが独自の電池を開発し、生産していたのでは、とても今後のEV大量生産に間に合わないからだ。そこで上記の代表的な電池メーカーと合弁して新たに専用の電池工場を建設するケースが目白押しだ。

 自動車メーカーは、昨今の半導体の供給不足に危機感を感じて、電池を安定的に確保したい。しかも電池はEVの基幹部品であり、サイズ、電気容量、冷却性能に合わせてモーターもインバーターも設計されているから、半導体のように簡単に他社のパーツで代替できないからである。

韓国を囲い込む米国

 自動車メーカーと電池メーカーの契約は錯綜している。当然ながら複数の電池メーカーと契約する自動車メーカーもある。一方、電池メーカー1社と専属的に契約する場合もあり、しかも自国に工場を建設させるケースが増えてきた。

 最近の電池メーカーの囲い込みの例では、米国のゼネラルモーターズ(GM)とフォードが典型である。GMは韓国のLG化学と19年に提携し、オハイオ州とテネシー州に合弁の電池工場を建設。生産規模は70ギガワット時である。70キロワット時の電池を積み航続距離が500キロメートル近いSUV型EVの100万台分である。

 一方、フォードは今年、6000億円を投じて韓国のSKイノベーションと、合弁の電池工場を米国に建設すると発表した。生産能力は60ギガワット時である。フォードの販売主力車は20年に78万台も販売されたピックアップのFシリーズだが、FシリーズのEVであれば、その電池をほぼ賄える量の電池を生産できることになる。

 米国の3大自動車メーカーのひとつクライスラーは、フィアット、プジョー/シトロエン系のステランティスの一角に吸収され、韓国の3つめの電池メーカーのサムスンSDIから電池の供給を受ける。

影を落とす米中の対立

 GM、フォードの米国ビッグ2が韓国の電池メーカーと組むのには理由がある。米中の貿易戦争である。バイデン米大統領としてはEVの覇権は中国に渡せない。EVが米国といわず、世界の経済にとって極めて重要なポジションにあるからだ。バイデン大統領は米国経済の主要4品目に、半導体、医薬品、レアアース、そしてEV電池をあげている。これらを中国に依存せずに発展させたい。米国のEVに中国製電池は使わせないのである。

ポルシェは合弁の電池メーカーと

 欧州では上記の大量生産電池メーカーとは異なる独自の電池メーカーと合弁で、電池を生産しようとする動きもある。たとえばポルシェは長年のリチウムイオン電池の研究実績のあるカスタムセルズ社と合弁で設立したセルフォースグループで電池の生産を行う。セルフォースグループにはポルシェはもちろん、ドイツ本国もバーデン=ヴュテンベルク州も資金を投入する。こうなると国と自治体を挙げてのEV戦争の始まりである。

ボルボはスタートアップと

 スウェーデンでは、ボルボが地元の電池メーカーであるノースボルトと組み、22年に操業を開始し、ボルボと系列のポールスターに電池を供給する。年間50ギガワット時の生産能力を持つ工場を新設し、26年に生産を開始する。また、24年からは既存のノースボルトの工場から年間15ギガワット時の電池を調達する。合わせると65ギガワット時であり、およそEV100万台分となる。

 ボルボは総販売量の半分を近々にEVにシフトし、30年までには販売台数のすべてをEVにするという。そのためには安定した供給が可能な電池の確保が絶対的に必要であり、独自の工場の建設が必要だということだろう。

電池の価格は高い

 GM、フォードの米国ビッグ2も、ポルシェやボルボも、使うのはコバルト・マンガン・ニッケルを陽極に使う三元系と呼ばれるリチウムイオン電池である。小型、軽量で充放電も早くすみ、大きな出力を取り出せる。ただし、コバルトが多いと熱的安定性が悪化しやすく、熱暴走しやすい。冷却が必要だ。そのうえ、材料の価格が高い。電池の価格はEVの価格の30~50%にも及ぶので、三元系の電池ではEVはなかなか安くならない。

思わぬ伏兵がいた

 これに対してバイデン大統領が警戒する中国のCATLBYDが生産するのは、リン酸鉄リチウムイオン電池である。重くて、大きく、低温で性能が低く、EVで使うには都合が悪いと敬遠されていたのだが、性能も向上し、もともと価格が安いこともあってテスラなど採用する自動車メーカーが現れてきた。世界の自動車メーカーが驚いたテスラモデル3の価格破壊は、中国製のリン酸鉄リチウムイオン電池によるものだった。

 EV用電池は、ますます混迷を深めそうだ。

(文=舘内端/自動車評論家)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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