テスラ、盟友だったパナソニック“切り”…自社でEV向け電池生産開始、パナと競合関係に

パナソニック本社(「Wikipedia」より)

 パナソニックは6月24日、大阪市中央区の大阪城ホールで定時株主総会を開き、楠見雄規氏(56)が代表取締役社長最高経営責任者(CEO)に就任した。2022年4月、持ち株会社体制へ移行し、社名をパナソニックホールディングスに変更する。

 総会翌日の25日、パナソニックは保有する電気自動車(EV)大手テスラの全株式を約4000億円で売却したことを明らかにした。同日、有価証券報告書で公表した。それによると、20年3月末時点で808億9700万円だった保有額が21年3月末でゼロとなった。

 パナソニックはテスラ株を10年、1株当たり21.15ドル、約24億円を投じ140万株を取得した。その後、テスラの株価は21年1月に一時900ドルをつけ、足元でも680ドル前後と、高値圏で推移している。株式分割を考慮すると出資時の100倍以上の価値が生じたことになる。

 手元資金わずか24億円が10年あまりで4000億円に大化けしたわけだ。「テスラに株式売却は通知している」とし、「パートナーシップに影響を与えるものではなく、引き続き良好な関係を継続している」としたが、額面通り受け取る向きは皆無だろう。テスラ株の売却は津賀一宏氏から楠見氏へと体制が転換する象徴的な出来事だったと位置付けられている。

テスラに出資して電池工場を共同で立ち上げ

 株主総会で津賀氏(64)は社長を退き、代表権のない取締役会長に就いた。社長交代は9年ぶりのことだ。12年6月、社長に就任した津賀氏の初仕事は14年3月期からの中期経営計画の策定だった。

 津賀構造改革の方向性が、この中計で見えてきた。核となる事業を家電などの消費者向けのBtoCから企業向けのBtoBに大転換をはかるというものだ。個人向けより値崩れしにくい法人向けビジネスに経営の舵を切ったのである。新しい中計は津賀時代の幕開きを意味した。テレビに代わって、今後のパナソニックの柱となる事業として自動車と住宅を挙げた。

 創業100周年の19年3月期に「連結売上高10兆円」を目指す大方針をぶち上げた。自動車と住宅を成長分野の2本柱に据え、車載電池に巨額投資した。パナソニックが米電気自動車(EV)テスラモーターズと提携したのは07年。テスラにEV用電池の供給を09年に始めた。出資した10年時点ではテスラはまだ1000台ほどの販売実績しかないベンチャー企業だった。米ネバタ州で共同で運営する電池工場「ギガファクトリー1」をテスラと共同で建設することで14年に合意。技術者300~400人を現地に派遣した。

 17年からは米国で車載電池を共同で生産し、テスラの量産車向けに供給。工場が完成する20年までの総投資額は6000億円。このうちパナソニックの投資額は1900億円になる。大手自動車メーカーに直接部品を供給する有力企業は世界に10社程度しかない。自動車部品メーカーはトップが独ボッシュで第2位はトヨタ自動車系のデンソー。6位が同じトヨタ系のアイシン精機である。

 津賀社長は「自動車部品で世界トップ10に入る」と言い切った。テスラ向けの車載電池への投資は、その一環である。

 21年3月期連結決算(国際会計基準)は津賀改革の通信簿となった。オートモーティブ(自動車関連)の売上高は前期比9%減の1兆3394億円。営業利益は20年3月期の466億円の赤字から109億円の黒字に転換した。収益の柱としてきた車載電池事業の売上高は4238億円。テスラ向け電池事業は、この期に初めて黒字になった。

テスラは車載電池を自前で生産する

 テスラの急成長とともにテスラとパナソニックの関係も変化した。テスラの中国工場は19年に稼働したが、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や韓国のLG化学が電池を供給している。パナソニックは参画を見送り、独占供給体制は崩れた。

 テスラは22年にEV140万台分に相当する車載電池を自社生産する計画を示している。これは従来のパナソニックからの購入量の約3倍の規模だ。テスラは電池の内製化を進め、EVの生産コストの約3割を占める電池の大幅なコスト・ダウンを狙っている。

 イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「サプライヤーを引き続き利用する」と強調する。テスラは低コストの新型電池の開発を進めており、パナソニックは21年中にもテスラが目指す新型電池の試作ラインを導入する計画だった。今回、パナソニックは保有するテスラ株全株を売却した。売却で得た資金は米ソフトウエア大手、ブルーヨンダーの買収原資に充てる。4月に7700億円の巨費を投入、ブルーヨンダーを完全子会社とすることを決めた。

 ブルーヨンダーが得意とする製造現場や物流網の効率化は、今後成長が見込める分野だ。だが、買収額が巨額で、財務体質の悪化が懸念されていた。テスラ株の売却で得た資金でブルーヨンダーの買収資金を賄う決断をしたことの意味は大きい。

 パナソニックはテスラへの依存度を下げ、将来に向けた事業投資に踏み切った。次はテスラがパナソニックを切る番だ。テスラは中国のCATL、韓国のLG化学から電池の供給を受けている。パナソニックだけに頼らず、より安いメーカーから買うことになるとみられている。

 パナソニックは、開発中のEV向け新型電池について量産化に成功すればテスラ以外の自動車メーカーにも供給する意向を示している。テスラが独自生産する新型電池とパナソニックの新型電池が、価格面でも性能面でも競合し、ライバル関係になる。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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