2020年度の輸入食品監視統計が発表された。コロナ禍で輸入食品に依拠している外食産業が深刻な影響を受け、輸入届出件数は前年比92.4%の235万件と大幅減少し、輸入重量も前年比93.3%の3106万トンとなった。
これだけ減少すれば検査割合は向上すると思いきや、検査率は8.5%と前年と同じ割合で、依然として91.5%は無検査で輸入されている。厚生労働省は、検査計画通り実施しているから問題ないとしているが、国民は輸入食品の9割以上が無検査だという実態をこれからも甘受していかねばならない。
では、8.5%の検査率のなかで違反件数の多い国はどこであろうか。第1位は中国の162件、第2位が米国の104件、第3位がベトナムの79件、第4位がタイの42件、第5位が韓国の38件、第6位がインドの30件となっている。この違反件数上位6カ国で、総違反件数の66%を占めている。特に中国の違反件数は総違反件数の23%を占めており、週刊誌で中国輸入食品問題がたびたび特集されるだけのことはある。
アフラトキシン汚染
このようななかで、これまでにないような特徴的な事態が生じていたことが明らかになった。それは、米国からの輸入食品で、自然界では最強とされる発がん物質であるカビ毒「アフラトキシン」による汚染が深刻化していたということである。2020年は米国では地球温暖化による異常気象で、広範囲にアフラトキシン汚染が広がった。
アフラトキシンは熱帯地域のカビ毒で、今のところ日本では発生していない。毎年、熱帯地域からの食品がアフラトキシン汚染で輸入停止となっているが、最近では05年の超大型ハリケーン・カトリーナによって米国南部やミシシッピー周辺が甚大な洪水被害に遭い、とうもろこしや小麦などが水浸しになり、農作物のアフラトキシン汚染が広範囲に広がった。
20年の米国からの輸入農産物のアフラトキシン汚染は次のようになっている。
トウモロコシ:12件
生鮮アーモンド:13件
乾燥イチジク:6件
落花生:19件
生鮮ピスタチオナッツ:4件
ピーナッツ:3件
さらに、アフラトキシン以外のカビ汚染が確認された米国からの輸入農産物は、小麦22件、大麦2件、大豆1件、うるち米3件におよんでいる。米国からの違反輸入食品のほとんどがアフラトキシン汚染かカビ汚染となっているのである。汚染度も最高199ppbという極めて高いものであった。
牛乳のアフラトキシンM1汚染も懸念
事態の深刻さは、これにとどまらない。日本には年間1163万トンもの飼料用トウモロコシが輸入されている。食品用トウモロコシがアフラトキシン汚染していれば、当然飼料用トウモロコシもアフラトキシン汚染されていることになる。主食用のトウモロコシは輸入時に10ppbを超えるアフラトキシン汚染が確認された場合は、廃棄ないし積み戻しとなり、日本に輸入されないことになっている。
しかし、飼料用トウモロコシは輸入時のアフラトキシン検査はなされていない。いくらアフラトキシンに汚染されていようと日本に輸入される。それだけではない。2016年から19年にかけて、アフラトキシンに高濃度汚染されて輸入がストップされていた食用向けトウモロコシ3万5000トンが、輸入事業者の申請により飼料用に転用され、輸入が認められるという事態も発生していた。
乳牛にアフラトキシンが飼料で体内に取り込まれたときは、乳牛の肝臓でアフラトキシンが代謝され、アフラトキシンM1に変化して、血流に乗って乳に含有されることになり、牛乳が汚染される。このアフラトキシンM1は、強い発がん物質アフラトキシンB1の10分の1の毒性を持っており、世界的に規制対象となっている。国際がん研究機関も「アフラトキシンM1はヒトに対しても発がん性を有する可能性がある」と評価している。今回の事態で、日本国内の牛乳のアフラトキシンM1汚染も心配になる。
これから地球温暖化による異常気象による農作物被害が深刻化することが想定されているが、それは作物生産が減少することによる飢餓の広がりや農作物価格の高騰だけでなく、アフラトキシン汚染による健康被害の広がりもあるといえる。