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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

新築ビル、空室率14%の異常な高さ…都心テナント解約続出&大量供給で市場悪化

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
都心ビルのテナント解約続出
東京駅八重洲口(「Getty Images」より)

 東京都心部のオフィスマーケットの悪化が止まらない。毎月発表される三鬼商事の調査によれば、2021年10月における都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の1フロア100坪以上のオフィスビルの空室率は6.47%。貸手借手の有利不利が決まる分水嶺とされる5%を上回る水準に悪化している。すでにコロナ禍の影響が出始めていた前年4月の空室率が1.56%であったが、実に1年半ほどの間に4.91%もの上昇は、これまでに例を見ない上昇幅である。

 コロナ禍で多くの企業で通常勤務が制約を受け、オフィスの利用率が下がり始めた当初、空室率の悪化は、一部のIT、情報通信系の中小企業が業績悪化などを理由にオフィスの縮小・解約を行っているにすぎず、マーケットには一切関係ないというのが、多くの業界関係者の共通した見方だった。なかには大手ビル業者の首脳による、コロナ禍はむしろチャンスであり、社員同士のソーシャルディスタンスを確保しなければならないから企業の増床ニーズが強まり、マーケットは活況を呈するとの頓珍漢なコメントまでがメディアには掲載されていた。

 こうしたコメントがあったにもかかわらず、コロナ禍が騒がれ始めて1年半が経過した現在、オフィスの縮小・解約はむしろ加速しているのが現実だ。コロナ禍は一過性の感染症であることについては、多くの人々が共通して認識していることだ。一過性であるならば、企業はあわててオフィスを縮小・解約する必要はないはずだ。オフィスマーケットには一切影響がないとされた当初の論拠はここにある。

大型テナントの解約ラッシュ

 ところが、最近では都内各所で大型テナントの面積縮小や解約が相次いでいる。ヤフーを傘下におくZホールディングスは、今般賃借しているオフィスの約4割に相当する3万平方メートル(約9000坪)を解約すると発表、世間を驚かせた。具体的には千代田区の赤坂見附駅付近にある紀尾井タワーの7フロア、赤坂Kタワーの5フロアだ。ヤフーはIT、情報通信系のフロントランナーだが、多くの社員がテレワークを今後も継続するなか、オフィスのあり方を根本的に見直すとしたものだ。

 ヤフーが解約したフロアに、この9月にスタートするデジタル庁が入居するとのことだ。オフィスが必要ないと考えたデジタル最先端企業が手放したオフィスに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を国を挙げて推進するデジタル庁が入居するというのも、なんだか皮肉めいたものだ。

 またディー・エヌ・エー(DeNA)は渋谷ヒカリエに本社ビルを構えていたが、6フロア約4000坪相当を解約、同じ渋谷にある渋谷スクランブルスクエアのWeWork内に移転。それまで2800席あった座席を4分の1の700席に縮小。コワーキング施設内に入居することでオフィス賃料という固定費を変動費に変え、大幅なコスト削減を図るものだ。

 縮小・解約の動きはIT、情報通信系だけではない。四大監査法人の一角であるデロイトトーマツは、千代田区丸の内にある三菱地所の基幹ビルのひとつ、二重橋ビルの2フロアの解約を発表した。このビルは1フロアが900坪超であるから、1800坪を超える大型解約である。

 だが、こうした動きはまだ「始まりの終わり」であるかもしれない。現在、多くの大規模ビルに入居するテナントの多くが、期間3年から6年程度の建物定期賃貸借契約を結んでいる。この契約は期限を迎えない限り、条件を変更することが基本的にはできない仕組みになっている。つまり、今すぐにオフィス面積を縮小、解約したくても、契約期限が到来しなければ具体的な行動に移せない状況にある。

 コロナ禍が始まったのが1年半前である。この期間中に期限を迎えた大型テナントは、オフィス面積の縮小・解約に舵を切れたが、その他の多くのテナントが、膨大な解約予備軍になっている可能性もあるのだ。

 もちろん現状は期限を迎えるまでは、契約を継続しなければならない立場にあるので、具体的にビルオーナーと交渉しているテナントの数は少ない。こうした表面的な現象だけを根拠に「うちには影響はない」と嘯(うそぶ)いているビル事業関係者は多いが、内心ではこれから起こるかもしれない環境変化に心休まらない日々を過ごしていることであろう。

大規模オフィスが続々竣工

 影響は今後オープンする新築ビルのテナント募集にも出始めた。21年10月の空室率は6.47%だが、これを竣工6カ月以内の新築ビルについてみれば、空室率は14.03%におよぶ。前年同月は2.13%だから、その変貌ぶりは瞠目に値する。浜松町に再開発される世界貿易センタービルも今のところ2割程度の空室があるという。また東京駅八重洲口にオープンした常盤橋タワーも満室オープンとはならなかったようだ。

 一過性であるはずのコロナ禍が、思っていた以上に収束に手間取ってしまったことは業界としては大誤算だ。コロナ禍による緊急事態宣言の発令が、昨年の4月から6月の3カ月だけで終わり、SARSや新型インフルエンザなどの騒動と同じく収束していたならば、おそらくテレワークは臨時避難的働き方と位置付けられ、オフィスは活況を取り戻していたはずだ。だが、世の中が変わるときというのはこうしたものだ。

「え、そんなはずはない。なに、今に元に戻るさ。オフィスに人が来なくなるなんてありえない。だって今までだって、みんな来てたじゃないか」

 政府の後手後手のコロナ対策と、どこか似ているような気もする。23年には都内は大規模オフィスが続々竣工を迎える。来年から再来年にかけて契約期限を迎える大型テナントの面積縮小・解約がだらだらと続くなか、迎える23年の大量供給問題。

「これまでも2003年問題とか13年問題はあったけど、みんな乗り越えたさ。だから平気」などと楽観していると、世の中はある日大きく変わった姿として業界関係者の目の前に現れるかもしれない。変化を見通すことが今、重要なのである。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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