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オーバードーズで死に至るのはまれ?身体疾患があると少量でも重度な中毒作用も

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
オーバードーズで死に至るほどの薬を飲むのは困難
患者が持つ処方薬の在庫管理が課題(「Getty Images」より)

 滋賀県守山市で19歳の女子高校生が死亡し、38歳の男と21歳の女者が未成年者誘拐の疑いで逮捕された事件で、3人は薬の大量摂取「オーバードーズ」をする仲間として集まっていたという、ショッキングな報道があった。女子高校生は薬物中毒で死亡したと報道されているが、実は薬物で死亡に至ることは簡単ではない。精神科医の髙木希奈医師に話を聞いた。

「報道によると、睡眠薬や抗不安薬の合法薬物を約100錠内服した可能性があると伝えられていますが、その種類までは言及されていないため原因薬剤については不明であり、薬物との関連性については、さらなる検証が必要だと思います」(高木医師)

 女子高校生を死に至らしめた直接の薬物は不明だが、オーバードーズによりさまざまな中毒症状が起きるという。

「一般的に、睡眠薬や抗不安薬の薬物中毒(ここでは急性中毒を指す)は、過量服薬等により過眠、不安焦燥、注意や記憶の障害、脱抑制、興奮、錯乱、昏迷等の精神症状が一過性に生じる状態のことです。通常、精神症状以外にも、呂律不良、ふらつき、運動障害、嘔吐、眼振、筋弛緩、血圧低下、呼吸抑制等の身体症状が出現します」

 向精神薬によるさまざまな中毒症状はあるものの、オーバードーズによって死に至ることは少ない。

「一昔前まで睡眠薬としてよく処方されていた、バルビツール系、ブロモバレリル尿素、バルビツール系と抗精神病薬との合剤などは、作用量と致死量の幅が狭く安全性が低いこと、乱用や依存の問題もあり、今ではもうほとんど処方されることはなくなり、製造中止になった薬もあります。最近では、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系、その他のカテゴリーの睡眠薬や抗不安薬が多く処方されており、これらの薬は常用量と致死量の幅が広いため比較的安全な薬物であり、中毒で死亡することはまれです。また、ベンゾジアゼピン系のなかでも依存性が高い薬剤については、最近は処方されることも少なくなってきています」(同)

 それぞれの薬に致死量はあるが、実際に致死量を服用することは非常に難しいという。

「致死量は薬剤によっても違いますが、数百錠~数千錠単位、あるいはそれよりももっと多い量になるため、この量を服用することは困難だと思います。しかし、なかには肝機能障害などある種の身体疾患を合併している場合は、少量の物質でも使用量に相応しない重度な中毒作用を生じることがあります」(同)

 女子高校生がオーバードーズによって死に至ったのには、なんらかの複雑な要因が重なった可能性があると思われるが、真相は不明のまま「薬物中毒による死亡」と結論づけられてしまうのかもしれない。

 睡眠薬などの向精神薬は、医師の診察と処方がなければ手に入れることはできない。睡眠薬など一部の向精神薬の処方日数は「30日」と規制されている。しかし、患者が処方された睡眠薬を服用せずにストックしている危険性もある。医療機関では、向精神薬の飲み残しがないかをチェックするよう努めているが、まだ十分なシステムが構築されていない。患者がオーバードーズのために薬を手元に持たないように、より徹底した管理が課題だ。

 亡くなった女子高校生のご冥福をお祈りしたい。

(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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