国政選挙の「投票呼びかけ動画」や国会解説動画などを配信する“インターネット公共メディア”「Choose Life Project」(CLP)に関し、暗雲が立ち込めている。
ジャーナリストの津田大介氏は5日、自身のTwitterアカウント上に『Choose Life Projectのあり方に対する抗議』と題する抗議文を掲載した。エッセイストの小島慶子氏、東京新聞記者の望月衣塑子氏、前新聞労連委員長の南彰氏、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏の連名で、CLPが「番組制作費名目」で立憲民主党から1000万円以上の資金提供を受けていた事実を指摘し、資金の流れの全容解明とCLP制作の番組出演者、視聴者への謝罪を求めた。
「公党との関係を秘匿」する「重大な背信行為」
同抗議文では、津田氏らがCLPの番組に司会やゲストとして出演していたことを触れた上で、「この度私たちの調査により、2020年春から約半年間にわたり大手広告代理店や制作会社をはさむ形でCLPに立憲民主党から『番組制作費』として1000万円以上の資金提供があったことが確認されました」と指摘する。
そのうえで「報道機関でありながら、特定政党から番組制作に関する資金提供を受けていたことは、報道倫理に反するものです。公正な報道を揺るがす行為であり、またその事実を出演者およびクラウドファンディングの協力者、マンスリーサポーターなどに一切知らせていなかったことは、重大な背信行為です」と糾弾した。
さらに「一般に番組制作能力を有する会社が、公党から下請けとして制作費をもらって番組制作を行うことはあります。成果物を公党の名前で発信することには問題ありません」としながら、CLPが“公共のメディア”を標榜してきた点を特に問題視した。
また、20年7月には『自由で公正な社会のために新しいメディアをつくりたい』というタイトルでクラウドファンディングを開始し、3147万8500円を集めたこと、21年12月31日現在1824人のマンスリーサポーターが登録している点を強調。「具体的な金額は明かされていませんが、マンスリーサポーター制度を通じて毎月数百万円がCLPのもとに入っている」などと指摘し、「『公共メディア』を標榜しつつも、実際には公党からの資金で番組制作を行っていた期間が存在すること」「その期間、公党との関係を秘匿し、一般視聴者から資金を募っていたこと」の2点について厳重に抗議し、CLPに対し全容を解明と謝罪を求めた。
CLPは6日中に経緯説明の方針
抗議を受けて、CLPは同日、Twitter公式アカウントに「出演いただいた皆様、また取材に応じて下さった皆様、そして視聴者の皆様には、不信感等を与えてしまう形となり大変申し訳なく思っております」などと投稿。6日中には経緯を説明するとの見解を示した。
本日、Choose Life Projectが受け取りました抗議文について、ご連絡申し上げます。 pic.twitter.com/asAoOXH0Ii
— Choose Life Project (@ChooselifePj) January 4, 2022
なおCLP公式サイトでは、以下のように団体の活動趣旨を説明している。
「コロナ禍で、今、ますます問われているのは、“自分さえ良ければ良い”という考えではない、『公共』の概念だと強く感じています」
自民党、Dappi問題と似た構図なのか?
一連の騒動を国会情勢に詳しい元新聞社政治部記者は次のように見る。
「一時フォロワー数17万人を数えたTwitter上の政治匿名アカウント『Dappi』の件がどうにも頭をよぎりますね。
虚偽の投稿と誹謗中傷を受けたとして、立憲民主党の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員が、発信者情報開示訴訟を行い、Dappiアカウントの運営者が、神奈川県のWEB関連会社『ワンズクエスト』(現在は別企業と統合)であることを明らかにしました。加えて、同社が自民党東京都支部連合会から政治活動費として78万円の支出を受けていたことが、都選挙管理委員会が公表した政治資金収支報告書の記載で判明し、自民党による組織的な工作活動ではないかとの疑惑が浮上しました。
Dappiは報道各社のニュースや国会中継などを切り張りしたり、加工したりした上で、“真偽に懸念のある情報発信”を行い、主に野党や一部ジャーナリスト、有識者を痛烈に批判していました。当然、同アカウントには自民党との関係は明記されていませんでした。
今回の一件はこのDappiの事案と構図が似ている点が、ネット上で指摘され始めています。真偽はどうあれ、最大与党が正体不明のTwitterアカウントを政治活動に使ったのだとしたら大問題ですし、“報道機関”を自称していたCLPが最大野党から金を受けとっていたことの説明責任もまた重いと思います。
最近の大小さまざまなメディアによる政治論争を見ていて問題だと思うのは、メディア関係者の多くが、与党担当は与党に、野党担当は野党に、それぞれどっぷり浸かってしまう取材姿勢を取っていることです。普段どれほど取材相手と親しく接していても、いざ事があればバッサリ記事で切り捨てることができるような、割り切りと分別を持つ業界人がめっきり少なくなりました。
信頼関係を築くことは大事ですが、あまり特定の陣営や主義主張などに浸かり過ぎるとこういうお金の話が出てくるものなのです。メディア関係者は敵味方を超えた信頼関係を築きつつも、与野党どちらにも与せず、どの陣営からも“面倒くさい奴”に見られるぐらいが、『公正中立』に一番近い報道姿勢だと個人的には思います」
(文=編集部)