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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

焼肉きんぐ、コロナ禍でも増収の理由…潜在的不満解消で成長、15年で278店に

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
焼肉きんぐ、コロナ禍でも増収の理由
駐車場を備えた店も多い「焼肉きんぐ」の店舗(筆者撮影)

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 日差しが春めいてきた3月の平日、東京都内でメディア発表会があった。

 国内で278店(直営168店/FC=フランチャイズチェーン店110店、2022年3月9日現在)を運営する「焼肉きんぐ」(運営は株式会社物語コーポレーション、本社:愛知県豊橋市)の発表会で、3月16日にスタートした「春の限定メニュー」の試食会も兼ねていた。

 ご存じのとおり、コロナ禍で外食産業は大打撃を受けた。職場への通勤が減って在宅勤務が浸透した結果、同僚と連れ立ってのランチ外出や、仕事仲間や取引先との夜の会食が激減。緊急事態宣言中の営業時間の短縮、酒類の提供制限も追い打ちをかけたからだ。

 そんななかでも「焼肉店」は好調の業態といわれる。「料理を網で焼くので、もともと店内の換気に力を入れていた」「郊外型や住宅街に近い店も多く、通勤減の影響も受けにくかった」など、いくつかの理由が挙げられるが、店や業態によって事情は異なる。今回紹介する「焼肉きんぐ」は現在、勝ち組のひとつなのだ。

 なぜコロナ禍でも人気なのか。店の横顔を紹介しつつ、消費者心理も考えたい。

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同僚と連れ立っての「ランチ外出」も気軽にできなくなった(写真はイメージ)

郊外店が多く、手頃な「食べ放題」価格も支持

 同社が展開する業態には「焼肉」「ラーメン」「お好み焼き」「寿司・しゃぶしゃぶ」などがあるが、焼肉は「焼肉きんぐ」「牛たん大好き 焼肉はっぴぃ」などのブランドで店を運営する。実は発表会当日は一般営業もしており、満席。お客が座席を空くのを待つ状態だった。

「このご時世でも支持していただける理由は、いくつかあると考えています。まずは手頃な価格です。小さなお子さん連れのファミリーでしたら、家族4人(大人2人、小学生2人)で1万円以内ですみます。店の立地は、駐車場完備の郊外型店が多いのも特徴です」

 同社で焼肉事業を統括する山口学さん(執行役員 焼肉事業部 事業部長)は、こう説明する。

 同店は基本的に食べ放題専門店だ。3つの食べ放題コース「58品コース=税込2948円」「きんぐコース=同3278円」「プレミアムコース=同4378円」があり、小学生は半額。一番人気の「きんぐコース」を大人2人+小学生2人で注文すれば「9834円」となる。

 これだけなら競合も多いが、「テーブルオーダーバイキング形式」と呼ぶ、全商品を座席まで運ぶシステムを採用している。食事、飲み物、網交換などはタッチパネルで頼める。

 また、「注文から提供までお待たせしない」のも特徴だ。

「制限時間100分の時間制限がある食べ放題は、お客さまも飲食の提供まで時間がかかるとストレスを感じます。そうさせない工夫が、適切な人員配置と配膳ロボット『みーと』(ソフトバンクロボティクス社製)の活用で、迅速に提供できるようになりました」(同)

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東京都内の名所「駒沢オリンピック公園」の入り口(筆者撮影)。「焼肉きんぐ 駒沢公園店」は、同公園に行った後で立ち寄るお客が多いという。

焼き具合をチェックする役目の「焼肉ポリス」

 これ以外にユニークなのが、「焼肉ポリス」の存在だ。店内を見回り、焼き方を指導する。

「せっかくの肉も、たとえば会話に夢中になって焦がしたりすることもあります。そこで焼肉ポリスが“おせっかい”をすることで、お客さまに肉を美味しい状態で食べていただき、食事時間を楽しんでいただきたいのです。『この食材はどの程度焼けば美味しいか?』などのご質問にもお答えしています」(同)

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焼き加減を監視する「焼肉ポリス」は、お客に好評だ(写真提供:物語コーポレーション)

 春の限定メニューは、テーマに「焼肉は自由だ! キャンプ編」を掲げた。

 たとえば、人気の調味料を用いた「【ほりにしスパイス】で食べる豚肩ロースステーキ」(税込み759円。きんぐコース、プレミアムコースは料金内で食べ放題)なども提供。わらじサイズの肩ロースなので、試食会での焼き加減も「焼肉ポリス」に教えてもらった。

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「【ほりにしスパイス】で食べる豚肩ロースステーキ」(写真提供:物語コーポレーション)

 また、看板メニュー「四大名物」もリニューアルされ、「和風オニオンソースで食べる 上ハラミステーキ」(同968円)なども仲間入りした。

 前述の「ほりにしスパイス」は2019年の発売以来、売り上げは1年で10万本を突破し、キャンプ愛好家の間でも重宝される万能調味料。春の期間限定品は、キャンプ気分を味わえ、“キャンプ場で食べるバーベキューも意識した商品”という位置づけのようだ。

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当日の試食会で提供されたメニュー(筆者撮影)

「利用客の不満」を取り除いた

「焼肉きんぐ」というブランド名で店舗運営を始めたのは2007年3月。石川県に1号店がオープンした。それ以来、15年で278店まで拡大したことになる。

 焼肉事業部歴10年、近年の同店拡大を現場で支えてきた山口さんは、こんな経緯も明かす。

「2016年頃から、店舗の改装や新規店舗オープンに合わせて、テーブル席を適正にする“減卓”を行いました。それまでは来店客で店内が混雑すると、注文から提供までお待たせしてしまうこともあったからです。同年に実施した焼肉ポリスも認知されていきました」

 座席数を減らし間隔を広めにした配置が、結果的にコロナ禍でも支持を集めた。

 一連の話を聞いて感じたのは、昔から言われる「不満あるところにビジネスあり」の実践だ。それが同ブランドの成長要因だと考え、図表にまとめてみた。

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 これ以外に、コロナ禍の感染防止で「店内換気」が気になる人も多い。「焼き肉きんぐ」は「4分19秒(※)で客席全体の空気が入れ替わる」を掲げる。これも不満解消型だ(※「焼肉きんぐ」標準店舗例:客席193.7平米、天井高2.9m、卓数26卓、ロースター全台稼働時の能力値により算出)。

 図表で記した「お客の(潜在的な)不満」とは、実際にお客がストレートに言うかどうかではなく、その潜在意識をくみ取るという意味だ。外食店のお客は基本的に「サイレントマジョリティー(静かな多数派)」。「不満があれば黙って帰り、二度と来店しない」のだ。

一見客には「興味」、常連客には「新鮮さ」を訴える

「食べ放題」を掲げる同店だが、単品メニューも揃え、最近多い「お一人様」にも対応する。一方で、小学生=半額以外に、幼児=無料、シニア(60歳以上)=500円引きも掲げる。郊外ロードサイド店に立ち寄る機会が多い、ファミリー客の誘引にも積極的なのだ。

 今回のような「限定メニュー」の狙いは何かについても考えてみた。

 筆者は、一見客には「興味」、常連客には「新鮮さ」だと思う。前者の場合は、たまたま知った店、前から気になっていた店に「行ってみようか」と思わせる興味。後者は、行ったことのある店が「新たにこんなことを始めたのか」という新鮮さ、という意味だ。

 日本には「四季」や「二十四節気」があり、季節によって消費者の心理は変わる。外食店が一番採用しやすいのは、四季ごとに新たなメニューで訴求すること。多くの店が「春の限定メニュー」を掲げるのは、消費者心理にもかなっているのだ。

 なお、その店が一定の格式があるか、気軽に来店できるかによって限定メニューの幅広さは変わる。後者は少し変化球を入れたほうが話題を呼びやすい。同店の春の限定メニューでは、「海老とイカのアヒージョ」(539円)、「チーズかけ放題石焼煮込みハンバーグ」(759円)、「鍋で食べるチキンラーメン」(429円)がそれに当たる。

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焼肉店では変化球メニューといえる「海老とイカのアヒージョ」「チーズかけ放題石焼煮込みハンバーグ」(写真提供:物語コーポレーション)

今後の課題は「原材料の高騰」と「人材確保」

 成長が続く「焼肉きんぐ」だが、今後の課題は何か。

「原材料の高騰と人材の確保です。当店は輸入牛肉と国産牛肉を提供していますが、なかでも輸入牛肉の価格は年々高騰しています。今後もお客さまの満足に応えるためには、一定品質の肉の調達は欠かせません。また店舗拡大や安定運営を支えるには、優秀なアルバイトやパートの確保や定着は不可欠です」(山口さん)

「この業態で拡大できる適正規模は約400店」という声も聞く。食材調達のスケールメリットや汎用性(同一部位を違う商品に応用できる)が機能するために一定の規模があるほうが有利だが、必要以上に店舗数の多さを競い合う時代でもなくなった。

「ゆっくり外で食事したい」人は多い

 本連載のこれまでの記事でも紹介したが、取材では「コロナが落ち着いたら、ゆっくり外で食事をしたい」という声をよく聞く。一方で、消費者は状況を見据えて利用しているようだ。

 現在はオミクロン株の拡大で自重ムードだが、新規感染者が減り緊急事態宣言が解除され感染者が減った昨年10月から今年1月中旬までは、多くの外食店がにぎわった。

 最初にコロナ禍が始まった2020年度(1~12月)の外食産業の市場規模は「18兆2005億円」(対前年比69.3%。日本フードサービス協会調べ)と、約3割も市場が縮んだ。飲食店のほか、宿泊施設、社員食堂、病院給食が主体の数字なので「移動に伴う飲食」がどれほど大きかったかが想像できる。

 一方で、コロナ禍が長引き「憂さ晴らしの外食」を楽しむ人も増えた。昨年11月以降の状況はそれを裏づける。飲食店の成否は、「減った外食機会に選ばれるか」もあるだろう。

 焼肉店は、憂さ晴らしの外食にも選ばれやすいが、進化や深化を怠ると成長も止まる。平日の昼間に続々とお客が訪れる「焼肉きんぐ」の好調さを見ながら、そんなことも考えた。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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