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日本最大の労働組合・連合、迷走の裏側…体制内改革目指すユニオンリーダーに直撃

取材・文=吉田典史/フリーライター
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連合の会長、会長代行、事務局長(連合HPより)

 日本最大のナショナルセンター・日本労働組合総連合会(連合、組合員約700万人)が迷走している。芳野友子会長の就任時(2021年10月)からの言動を、メディアを通じて見聞きしていると、解せないことが多い。例えば、日本共産党を連合として選挙の際に支援することに否定的な発言を繰り返したり、自由民主党の議員と堂々と会食をしたりしている。

 日本最大の労働組合としてするべきことは、果たしてこういうことなのだろうか。何かを見失っているように思えてならない。

 この迷走を、連合内部にいるベテランのユニオンリーダーの目を通してあぶり出したい、と私は思った。労働組合ユニオンが多数集まる全国コミュニティ・ユニオン連合会(JCUF・全国ユニオン)は、2003年に連合に加盟した。連合は1989年の結成時から「大企業労組」と言われ、多数の大企業の企業内労組が加盟する。企業内労組は主に正社員で構成される。

 一方で、非正規雇用や外国籍の労働者も多数加入する全国ユニオンは、連合内でさまざまな活動を行い、問題提起を繰り返し、体制内改革を試みる。気鋭のリーダーであり、全国ユニオン会長・東京管理職ユニオン執行委員長の鈴木剛氏に、迷走する連合の裏側を尋ねた。

芳野友子会長が自民党議員と“密会”

――今年2月中旬に連合の芳野友子会長が自民党の小渕優子組織運動本部長、森英介労政局長と都内で会食したと、メディアで報じられました。連合は結成当初から「反自民党」のスタンスだったと思います。自民党の議員と会食するのは矛盾があるように感じるのですが、いかがでしょうか?

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鈴木剛氏

鈴木氏 確かに問題ではありました。私は今後、連合内で芳野会長の言動について問題提起したいと思っています。

 まず、タイミングが極めて好ましくないこと。春闘で連合の組合員が経営側と交渉している時に、経済界と関係が深い自民党の議員と、密会とも受け取られかねない場を設けたことは、「軽率」との批判を受けても仕方がない。少なくとも、私や連合のほかの産別(産業別労働組合)の役員らの多くは、会食の件を聞かされていなかったのです。

 しかも、あの日、芳野会長は参議院選挙に対する基本方針を記者会見で発表し、「自民党と連携はない」と打ち出しました。その数時間後に自民党の小渕議員らと会っていたのです。これも明らかに誤解を招きやすい。

 私の想像ですが、会食は自民党のルートから新聞やテレビ局側になんらかの形でリークされたのかな、と思います。あまりにもタイミング的に、自民党にとって都合がよすぎる。芳野会長はそのことを正確には知らずに出向き会食し、お店から出てきたところを待ち構えていたかのようにメディアに報じられたと感じます。私の見立てが仮に事実ならば、自民党にもちろん問題はあるものの、連合会長としても軽率です。

 もうひとつの問題は、どうせ会うならば、岸田文雄首相であってほしかったということです。日本最大のナショナルセンターである連合のトップなのですから、自民党の組織運動本部長や労政局長ではバランスが取れません。

 さらに言えば、会食という密会のイメージを与えかねない場でなく、多くの組合員が納得する場にするべきでした。会食を終え、お店から出てきた姿は、いかにも「密談してきました」と思われかねない雰囲気に見えました。

 連合には多くの産別があり、数百万人の組合員がいます。政治について基本方針では立憲民主党と国民民主党を支持しますが、組合員にはノンポリもいれば共産党、自民党、公明党などの支持者もいます。だからこそ、春闘の時期に特定政党の議員と会食することは誤解を招きやすく、軽率であり、批判されるべきなのです。

――労働組合は、組合員の生活や暮らしを守るために動くべきですね。時と場合によっては、自民党や経済界にすり寄ることも必要ではないでしょうか。

鈴木氏 「すり寄る」といった言葉は受け入れがたいのですが、連合に限らず、労働組合役員が国会議員と会うことは問題がないはずです。そのことを私は否定しません。組合員の暮らしや生活を守るためには、時には政治家と会い、議会への対策をする必要も確かにあるのです。

 例えば、労働時間の削減や過労死への対策は、与党である自民党、公明党や経済界に反対するだけでは解決はしません。個々の企業の取り組みだけでは難しく、国会での議論や審議のうえで法律や予算に反映しないといけません。そのために、自民党の議員と会うことがあってもいいでしょう。

 その場合でも、時と場所、相手をわきまえて接しないと誤解を招きやすいことを私は強調したいのです。ナショナルセンターのトップなのですから、そのあたりには細心の注意が必要でした。

 これも大切なので、述べておきます。労働時間の削減は経営側と話し合う必要がある場合もあるのでしょうが、賃上げについては話し合いだけでは難しいケースが多い。

 岸田首相が賃上げを呼びかけ、経済界のリーダーらがそれに合わせる形で容認する発言をしたとしても、最終的にはそれぞれの企業内で決まることです。つまりは、労使の力関係で決まるわけです。個々の社員の交渉では限界があり、労働組合が交渉していくしかありません。状況によってはストライキなどの争議を行い、厳しい姿勢で向かうことも必要になります。

 経済界や自民党にすり寄り、お願いをすれば賃上げが行われるものではないのです。私が、芳野会長が自民党の議員とあのタイミングで会食したことを問題視するのは、ここにも理由があります。連合が自民党に物乞いをしたかのように受け止められかねないのではないか、と懸念しているのです。

 ドイツには、「ストライキ権がない労働協約は集団的物乞いにすぎない」という司法判決があります。その通りだ、と私は思います。今、あらためて考えるべきですね。

共産党との距離

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――芳野会長の就任時からのメディアでの発言を見聞きしていると、共産党を好ましく思っていないようです。例えば、2021年12月に産経新聞のインタビューで、2021年の衆院選で共産党と共闘して議席を減らした立憲民主党に、共産党との「決別」を求める考えを述べています。

鈴木氏 芳野会長の出身は産業別労組JAM(ジャム)で、旧同盟系と旧総評系の労組が組織統一し、結成された労組です。伝統的に旧同盟出身者は、共産党や同党と関係が深い全労連とは一線を画した立場をとる場合が多い。

 ただし、過去にも旧同盟出身の会長はいましたが、芳野会長のように明確に共産党と距離をとる発言を繰り返すことはしなかったのではないか、と私は思います。

 例えば、あるメディアで日本維新の会と提携をするかのようなニュアンスの発言をしたこともあります。私たちはこの発言は大きな問題があると思い、連合の中央執行委員会で指摘し、批判しました。維新の会は労働組合には一貫して否定的な姿勢です。その意味で連合会長としては不適切で、軽率な発言でした。今後もこういう発言が繰り返されるならば、私はさまざまな場で厳しく指摘していきます。

――連合は、伝統的に反共産党ですね。私が連合加盟の産別の役員を取材すると、そのほとんどが共産党や全労連について否定的に話します。なかには、記事には盛り込めないような厳しい言葉を口にする役員もいます。

鈴木氏 1989年の設立時から、「反自民党、非共産党」の方針です。私もその方針に同意しています。共産党のあり方には、かねてから強い疑問を感じています。例えば、委員長の選び方が国会に議席を持つ政党としては極めて不透明で、議員や党員による公明正大な選挙で選ばれているとはいいがたい。しかも、20年以上にわたり委員長が変わっていません。こういう政党は、日本にほかにはありません。

 共産党はこれを「民主集中制」と称して正当化しているように私には見えるのです。この体質は、私たちが民主的な運営を大切にする労組である以上、批判していかざるを得ません。

 ただし、現行の小選挙区制においては、その選挙区において一人しか当選しないのですから、そこでは現在の野党間の協力はあり得るのです。私たち連合は、自民党・公明党の連立政権の特に労働政策や経済政策、社会保障政策を一貫して批判しています。

 その政権と闘う以上、状況いかんでは野党間で候補者を調整することはありえます。その時の選択肢のひとつとして、野党間で共産党となんらかの話し合いはあると思います。少なくとも、私はそれを否定はしません。共産党を排除しているだけで政権交代ができるとは思えないし、労働者の暮らしも生活も変わらないのです。

「労働者の苦しみに鈍感、闘わない労組」と揶揄される連合

――「連合は労働者の苦しみに鈍感で、全労連は敏感。連合は闘わない労組で、全労連は闘う労組」と、取材の現場では耳にします。そのあたりは、どう感じますか?

鈴木氏 必ずしも、そうとは言えないと思います。例えば、全労連でも正社員中心主義の考えの組合員はいます。私がその人たちと話していると、非正規の労働者に対して支援するような考えを持っていないと感じます。一方で、連合にも非正規の人たちを支援する組合員はいます。

 例えば、全国紙のひとつに、私たち東京管理職ユニオンは支部をつくりました。契約社員や派遣社員が多数働いているのですが、その一部が東京管理職ユニオンに入り、主に正社員で構成される企業内労組に加入できるように求めているのです。この企業内労組は、産別では新聞労連に加盟し、全労連に近い立場で活動をしています。その活動は、どちらかといえば共産党に近いスタンスで、左翼的ともいえるかもしれません。

 その新聞社の紙面も印象としては左翼的で、リベラルな面があるように受けます。こういう環境ならば、企業内労組はおのずと非正規について熱心に支援するだろう、と私は受け止めていたのです。しかし、最近まで非正規を企業内労組に入れるのを認めませんでした。私としては、大変に残念なものを感じています。

 ここは、一部の報道にもあるように、社員がパワハラを受けたことで精神疾患になり自殺したケースがあると言われています。本来は、こういう問題を企業内労組が真っ先に批判していくべきです。非正規に冷たい労組は、正社員の苦しみにも鈍い傾向はあるように思います。

 この非正規については、連合、全労連、全労協のスタンスというより、日本では正社員中心の企業内労組が強すぎることに大きな理由があると私は考えています。それが今、大きな曲がり角に差し掛かっているのです。

――そもそも、“大企業労組”ともいわれる連合にユニオンが入っていること自体、無理があるように思いますが、いかがでしょうか?

鈴木氏 私はそうは思わないのです。「ユニオンは連合を離れ、独自で活動をしたほうがいい」との助言を受ける場合もあります。しかし、連合の組織力は貴重で、国内外のネットワークも労働政策、法制度への関与も他のナショナルセンターよりは強い。私は、それらを生かしていきたいと考えています。非正規支援の取り組みも、連合内で我々が盛んに指摘し問題視してきたがゆえに、連合として取り組むようになってきたのです。

 労組の力は、ある意味で組合員の数です。ユニオンは数においては大企業労組に比べて見劣りしますが、だからこそ、体制内改革ができます。私は、連合をあきらめない。同時に、非正規の労働者や失業者が主人公となる労働運動が必要です。これらの労働者の多くは連合、全労連、全労協のいずれにも関わりがありません。連合、全労連、全労協を超えたダイナミックな運動が必要なのです。

――ありがとうございました。

 全国コミュニティ・ユニオン連合会は、連合内で異質な存在といえる。ユニオンには、会社と激しい団体交渉や裁判をして争う組合員が多数いる。一方、大企業労組にはほとんどいない。双方は、生きている世界が明らかに違う。

 現在、岸田政権は賃上げを経済界に求めているが、それは本来、労働組合がすべきことのはず。賃金が伸び悩むようになった1990年代後半以降、連合は賃上げを激しい団体交渉やストライキをしてでも求めてきただろうか。連合会長は政治家と“密談”をする以前に、労組の本来の役割について考えるべきでないか、とあらためて思った。

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