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藤和彦「日本と世界の先を読む」

「ロシアは世界で孤立」の嘘…国連決議に反対等の国の人口、世界の過半数か、西側へ不信

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
「ロシアは世界で孤立」の嘘…国連決議に反対等の国の人口、世界の過半数か、西側へ不信の画像1
国連のHPより

  バイデン米大統領は3月24日、訪問先のベルギー・ブリュッセルで「ウクライナ侵攻を続けるロシアを20カ国・地域(G20)の枠組みから排除すべきだ」と訴えた。豪州のモリソン首相も「G20首脳会議でロシアのプーチン大統領とこれまでと同じように協議するのは常識外れだ」と述べた。

 これに対し、今年の議長国であるインドネシアのジョコ大統領は、今年11月にバリ島で開催するG20首脳会議にロシアのプーチン大統領を参加させる意向だ。中国も「ロシアはG20の重要なメンバーだ」としており、インドもロシア排除に反対するだろう。2008年の世界金融危機を契機に始まったG20サミットは、ロシアの参加の是非をめぐって機能不全に陥る恐れが生じている。

アジアやアフリカ、南アメリカの国々の多く制裁に同調せず

 国連では24日、ウクライナでの人道状況改善に向けた決議が総会で賛成多数で採択された。賛成したのは国連加盟193カ国のうち140カ国、ロシア軍の即時撤退を求めた2日の決議とほぼ同数だったが、反対と棄権を合わせた国は依然として2割を超えている。棄権したのは中国、インドに加え、経済や安全保障などの分野でロシアとの協力関係が深いアフリカやアジアの諸国(38カ国)で、前回の決議から3カ国増加した。反対又は棄権した国の人口数の合計は世界の過半数に達するとの指摘がある。

 決議に反対又は棄権した国々の中で西側諸国のダブルスタンダードへの不満がこれまでになく高まっていることも特徴的だ。

 アフリカでは難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だと不満の声も上がっている。中東でも「西側諸国のウクライナへの対応が中東に向けられた態度とあまりにも違う」との不信感が強まっている(3月8日付ニューズウィーク)。

 アフガニスタンからの米軍の撤退ぶりが与えた影響も小さくない。「米国はいざというときに頼りにならない」との認識が深まり、「米国の同盟国であることは利益よりも不利益のほうが大きいのではないか」との懐疑が芽生えつつあるという。

 西側諸国から厳しい経済制裁を科されたことでロシアは大打撃を被っているが、ロシアのラブロフ外相が指摘したように、アジアやアフリカ、南アメリカの国々の多くが西側諸国の制裁に同調していない。

 ウクライナ副首相は20日、日本に対して「ロシア制裁への参加を他のアジア諸国に呼びかけてほしい」と要望した。アジア地域でロシアに制裁を科しているのは日本や韓国、台湾などにとどまっているからだ。

 米国の駐メキシコ大使は24日、メキシコ下院で演説し、ウクライナ政府を米国とともに支援するよう求めた。南アメリカ地域では、メキシコに加え、ブラジルやアルゼンチンもロシアに対し制裁を科していない。

BRICSのGDPの合計、米国とEUにGDPに匹敵

 冷戦終結以降、世界は経済優位の時代が長く続いたが、現下の世界情勢は「経済安定」という政策の優先順位が著しく低下している感が否めない。西側諸国が実施している経済制裁は、米軍の戦略を研究してきたランド研究所が2019年に立案したものをベースにしており、破壊力は極めて強力だが、副作用も甚大だ。

 軍事侵攻とこれに対する苛烈な経済制裁、経済の安定を優先する指導者ならいずれも回避すべき選択肢だが、対立するロシア、西側諸国双方が「経済よりも大事なものがあり、それを守る戦いを続けるべきだ」との姿勢を崩そうとしていない。

 米国の国際政治学者ブレマー氏はロシアのウクライナ侵攻を「第2次冷戦の幕開け」と位置づけているが、新冷戦の主戦場は経済であり、どちらが先に消耗するかの持久戦の様相を呈してきている。

 国際通貨基金(IMF)は19日、「ロシアのウクライナ侵攻は成長鈍化とインフレ進行というかたちで世界経済全体に影響を与える」とした上で「長期的には世界経済の秩序を根本的に変える可能性がある」との見解を出した。資産運用で世界最大手の米ブラックロックも24日、「ロシアのウクライナ侵攻で我々が知りうるグローバル化は終わりを迎えた」との見方を示した。

 冷戦終結後、大量の安い労働力を有する中国と大量の天然資源を持つロシアが世界経済に入ってきたことで世界経済のグローバル化は急速に進んだが、今後はサプライチェーンが分断化される世界を前提とした再調整が不可避の情勢だ。

 足元の動きで注目すべきはBRICS(2000年代以降に著しく経済発展を遂げた5カ国)を構成する中国、インド、ブラジル、南アフリカが揃って前述の国連決議を棄権し、ロシアに対する制裁を科していないことだ。BRICSのGDPの合計は世界の3分の1を占め、米国とEUを合計したGDPに匹敵する規模にまで拡大している。

 ロシアのプーチン大統領は23日、「非友好国」に対し、天然ガスの支払いをルーブルで行うよう要求した。西側諸国は「契約違反だ」として拒否しているが、この動きはコモデイテイーに裏打ちされた通貨の発行に向けての最初の一歩になるのではないかと筆者は考えている。天然資源や穀物が豊富なBRICS内で、いわゆるコモデテイテイー通貨が広く流通するようになれば、現在の主要通貨である米ドルとともに、世界の金融システムを支えるもう一つの柱になるかもしれない。

 ロシアがウクライナに侵攻して1カ月が経ち、西側諸国では「ロシアは国際的に完全に孤立している」との見方が常識だが、必ずしも国際社会全体の実態を表していない。世界経済がどのように変容していくかを丹念に観察することが重要なのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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