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松崎のり子「誰が貯めに金は成る」

物価高騰でも給料は上がらない3つの理由…電気代は“ダブル値上げ”の影響が直撃

文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト
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日本円(「gettyimages」より)
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 昨年から兆しがあった物価上昇が、ウクライナ情勢によりさらに加速度を増している。石油・天然ガス等のエネルギー高騰や小麦の供給問題などがコロナ要因に加わることで、この先の生活必需品の値上げは落ち着きそうにない。ネット上には「給料が上がらないのに物価ばかり上がる」との悲鳴が飛び交うが、本当に給料はこの先も上がらないのだろうか? 筆者は、あまり楽観的にはなれないでいる。その理由は3つある。

会社が光熱費上昇をカバーしてくれるか?

 1つは、コロナ以降の働き方の変化だ。リモートワークや間引き出社を導入する企業が増え、在宅時間が長くなった人も多い。コロナで保育園が閉鎖されたために出勤できなくなったという声も聞く。家にいる時間に比例して、コロナ前より食費や水道光熱費が増えていたところに、ウクライナ情勢が重なった。世界中でエネルギーの取り合いが始まり、日本の輸入価格も影響を受けるだろう。火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)は当分高止まりするだろうし、それが我々の電気代に跳ね返ってくるのだ。

 電気事業連合会のHPによれば、電気料金は基本料金、電力量料金、燃料費調整額、および再生可能エネルギー発電促進賦課金より構成されており、うち燃料費調整額には原油・LNG・石炭の燃料価格の変動を毎月自動的に反映させている(上乗せの上限はあり)。各電力会社は毎月末頃に2カ月先の燃料調整単価と、それによる電気代への影響を発表しているが、東京電力では1月から5月まで連続して値上げが起きている。ウクライナ侵攻の影響が本格的に出てくるのは、この夏以降だろう。電力自由化の際に鳴り物入りでスタートした新電力各社の撤退報道も増えており、先行きは険しそうだ。

 では、再生可能エネルギー発電へのシフトを進めればいいかといえば、それもきつい。再生可能エネルギー固定価格買い取り制度の原資となる「再生可能エネルギー発電促進賦課金」も、毎年上がっているからだ。今年の電気代は、燃料費調整額と再エネ賦課金のダブル値上げの影響を受けるのだ。今から夏が恐ろしい。

 光熱費の節約法で最も効果があるのは、在宅時間を減らすことだ。家にいなければ冷房もPCも使わずに済む。だが、会社によってはこの先もリモートワークを推奨するだろう。うがった見方をすれば、その方がオフィスの維持コストを下げられるのだから。PCもネット代も光熱費も家賃も、働く人に負担してもらえばいい。こうしたコストは家の規模や電気・ネット契約によって異なるだろうが、きめ細かい手当をしている会社はないだろう。だいたい一律でリモート手当なるものを出す。いくら電気代が高騰しようと、連動して手当額をアップしてくれる親切な会社はあるだろうか。

 また、ウクライナ情勢が落ち着いたからといって、ではロシアとの関係を通常に戻しますとはいかないから、この状況がすぐに収まるとも考えにくい。物価高に伴う食費上昇や光熱費の値上げをカバーできるほど給料が上がらない限りは、働く人の持ち出しの方が多いという理屈にならないだろうか。

「企業努力します」で本当にいいのか?

 2つめは、我々消費者のマインドに関わることだ。

 流通大手のイオンがプライベートブランド(PB)のトップバリュ製品の食品・日用品価格を6月30日まで据え置くと表明した。新聞広告には「今こそ企業努力が必要な時」「取引先やイオングループ従業員と力を合わせて」という表現が躍る。これを見た瞬間、「つまり働く人の給料も、まだまだ増えないってことだなあ」と感じてしまった。

 消費者としては、この状況で値上げが相次ぐのは厳しく、せめてPBが価格凍結してくれるのはありがたい。特に食品は生活必需品であり、消費者はできるだけ安いものを求める。スーパー側としても、ここで店頭価格を上げてしまうと買い控えが起きかねず、それは避けたいだろう。

 しかし、これだけ原材料価格や輸送コストが上がっており、耐えかねたメーカーが次々値上げを表明している現状を見ると、PBとはいえ、その中身は苦しいはずだ。「企業努力」とは利益を削るということにほかならず、そのしわ寄せはどこにくるのか。私たち消費者のためにがんばってくれるのはありがたいが、日本の企業の目指すところが「さらなる企業努力による低価格」だとすると、そこで働く人たちの給料の上がり幅も抑えられてしまう。

「物価高なんだから給料を上げろ」という声と釣り合いをとるのは、「高い価格でも買います」という意思表明でないといけない。高くても買いますよ、と私たちは言えるだろうか。企業努力という美しい言葉が使われる限り、働く人への給料や手当てが今以上に増えるとは考えにくい。

「給料が変わらない週休3日制」は実現可能か

 最後は「働き方の多様化」だ。

 パナソニックや日立製作所が週休3日制導入を検討するという。コロナ禍のせいで、これまでは難しいとされてきたテレワークが実現したことを考えると、その導入企業が増えてくる可能性はある。働き方の選択肢が増えることは望ましいが、問題は給料はどうなるのか? だ。給料の金額は変わらないまま週休3日制になるなら、反対する理由はない。しかし現状では、勤務時間が減った分減収となるケースもある。

 報道を読む限り、日立では出勤する日の労働時間を延ばすことで給料を維持するようだ。つまり、休みとなる1日分を他の日に振り向けて長く働くということらしい。

 昭和の頃は土曜が半休という企業が多かった。それが、いつしか週休2日が当たり前になったように、週休3日制も多くの会社の常識になるかもしれない。業種や企業の規模によって異なるが、ITやテックの進化により、長時間ずっと仕事をしているというスタイルは必要なくなってくるだろう。休日分の労働時間を振り向けて3日の休みを確保するのか、それとも成果労働的な目標値を定められるのか、同じ給料をいただくためには、それなりの条件がついてくる。

 しかも、企業には高齢者の継続雇用も求められる。一人が細く長く働き続けるとなると、給料の増え方も低く抑えるしかない。前段の「企業努力」ではないが、働き方の変化とともに、給料の決まり方や伸び方も変化するだろう。効率よく働き、3日の休暇を楽しみ、かつ給料も従来と同じだけ受け取れる――そういうユートピアが、働く人に平等に訪れればいいが。

 鎖国していた日本に黒船がやってきた……ではないが、物価高騰という黒船が襲来し、ようやくデフレの夢から覚めたのが今の日本の姿だ。これまではモノの値段が安かったからこそ、収入が伸びなくてもやってこれた。政府が物価高騰対策を打ち出すとしているが、給付金という打ち上げ花火を配ってもらったくらいでは儚く消えてしまう。通勤が減り、休みが増え、職場ストレスから解放されるのはうれしい半面、我々の収入の先行きはまだまだ厳しいものになりそうだ。

(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。
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