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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

五月病対策にはクラシックが最適…ベートーヴェンの交響曲に驚くべき癒やし効果

文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師
五月病対策にはクラシックが最適
ベートーヴェンの交響曲に癒やし効果(「Getty Images」より)

 新年度が始まり、早くも1カ月。そろそろ、「五月病」の話題が出てくると思います。

 ある医師会のサイトを見ると、「入学、就職で新たな生活がスタートし、慣れないことも多く知らず知らずのうちに無理をしてしまい、ストレスをため込んだり、新しい環境が合っていないことで適応障害を起こしてしまって、1カ月を過ぎて五月になると、身体のだるい、疲れやすい、意欲が低下する、物事を悲観的に考える、よく眠れない、食欲がわかないという心身の症状が現われることが五月病」となっています。正式な医学用語ではないそうですが、悪化すると本格的なうつ病に移行してしまうこともあるので注意が必要だそうです。

 ところで、日本の祝祭日は実にうまくできています。それは五月病が発症する時期に、ちょうど大型連休、いわゆるゴールデンウィークがやってくるからです。実家に帰って高校時代の同級生に会ってみたり、会社で新しくできた友人とハイキングをしてみたり、一休憩できるのではないでしょうか。

 とはいえ、なかには出かけることができない方もいらっしゃるでしょう。そんな方におすすめの曲は、ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』(田園交響曲)です。ベートーヴェンといえば、「ジャジャジャジャーン」で有名な交響曲第5番『運命』(運命交響曲)のような深刻な音楽をつくったイメージがあると思いますが、実は癒やし系の音楽もたくさん作曲しています。僕も大好きな歌曲に、「僕はあなたを愛しているよ。あなたが僕を愛しているように」という歌詞に付けた、チャーミングな曲もあるのです。

ベートーヴェンの田園交響曲は“癒やしの曲”

 田園交響曲も、その名のとおり、平和で穏やかな田園風景を見るような雰囲気に満ちています。実はこの曲について、不思議に思っていたことがあります。それは、第1楽章が始まると、すぐに気持ちもリラックスしてくることです。

 もちろん、ベートーヴェンが天才的な作曲家であることが大前提ですが、調べてみると興味深い理由がありました。それは、人間の安静時の心拍数と関係があるようです。

 人間の心拍数は、常に変化しています。運動時には上がりますし、ストレスを受けても上がります。好きになった相手に告白する際も上がりますし、告白されたほうも急上昇するでしょう。それは、愛の告白であってもストレスだからです。反対に、ストレスの原因がなくなれば、すぐにいつも通りの心拍数に戻るのが正常です。

 通常時では、人間の心拍数は1分間に60~70。これはリラックスした状態です。そして、なんと田園交響曲の第1楽章のテンポの指定が66なのです。。つまり、リラックスした状態の脈拍とまさにぴったりで、聴いているだけで落ち着いてくる大きな理由のひとつだと思います。

 心理学者コンラッド・キング氏が、だいたい60以上のテンポの音楽を聴くと、心拍数と血圧が上昇すると述べていることからもよくわかります。しかも、実際には田園交響曲は60以下で演奏することが多いので、まさしく“癒やしの曲”なのです。

 余談ですが、この曲は、夏を避暑地で過ごすことを何よりの楽しみにしていたベートーヴェンが、都会の喧噪を離れ、ブドウ畑の丘や、涼しげに流れる小川のせせらぎを横目に散歩しながら構想した交響曲です。

 普段は気難しく神経質で有名だったベートーヴェンが、心からリラックスして作曲した第1楽章のテンポが、人間がリラックスしたときの脈拍と同じなことは、さすがに意図していなかったかもしれませんが、単なる偶然ではないでしょう。この音楽のセラピストのような癒やしの交響曲は、YouTubeで検索すれば多くの演奏を聴くことができますが、ぜひコンサート会場でも聴いてみてください。やはり音楽はライブが最高だと実感することでしょう。

ベートーヴェンの交響曲、驚きの癒やし効果?

 ところで近年、音楽セラピーが大注目されており、音楽療法士も活躍していますが、その歴史は100年前のアメリカに遡ります。

 アメリカで音楽がセラピーとして確立されたのは、20世紀初頭のことです。戦地から帰ってきた兵士たちが入院していた精神科病院の慰問で音楽が用いられたのが始まりといわれています。戦地での強いストレス体験により、心にダメージを受けた兵士たちが、音楽を聴き、歌い、演奏することで、心の健康を回復する訓練が施されました。それをきっかけに、音楽の癒やし効果が本格的に研究されるようになったのです。

 音楽による精神の安らぎ効果は、ほかにも効用があるようです。たとえば、名門・米イェール大学医学部が発表した最新の研究報告によると、手術中にお気に入りの音楽を聴いている患者は、麻酔の量が少なくて済むと結論づけています。実際に、手術中に流す音楽のために、CDライブラリーを設けている病院まであるそうです。

 ベートーヴェンに話を戻すと、癒やし系の田園交響曲と同時期に作曲され、初演も同じ日に行われたにもかかわらず、運命交響曲の第1楽章は、まったく正反対です。最初から最後まで緊張感を強いられ続けて、強いストレスを受けているといってもいいくらいです。そのテンポは1分間に108なので、ストレスによって引き起こされることが多い「頻脈」と診断される100以上であることも、関係があるのかもしれません。

 とはいえ、ストレスは悪いことばかりではありません。ストレスには快ストレス(eustress)と不快ストレス(distress)という2種類があります。不快ストレスは、働き過ぎなどによる過剰で慢性的なストレスで、もしかしたら五月病を引き起こす危険性があります。一方、適度なストレスは交感神経を刺激し、むしろ判断力や行動力を高めるそうです。たとえば、無理のない程度の運動によって、身体に負荷をかけてストレスを与えると爽快感を覚える感じといえばわかるでしょうか。これが快ストレスです。

 ベートーヴェンの運命交響曲は、全曲聴いても30分程度で、爽快感抜群の快ストレスを与えてくれます。一方の田園交響曲は、不快ストレスを感じて心の一休憩が欲しい方におすすめです。そして、どちらの交響曲も、ぜひ全曲聴いてみてください。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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