楽天モバイル周辺がざわついている。5月13日に発表した新しいプラン「Rakuten UN-LIMIT VII」のせいだ。
楽天モバイルは2020年4月に正式にサービスインしたが、最初の売りは、月2980円のプラン料金が「1年無料」となるキャンペーンだった。続いて、2021年4月以降の「Rakuten UN-LIMIT V」からは、「月間データ利用量が1GB以下の場合、プラン料金0円」とした。このプランは段階料金制をとっていて、1GBを超え3GB以下で980円、3GBを超え20GB以下で1980円、20GBを超えた以降は月額2980円というものだ。
とはいえ「0円」のインパクトは大きく、2台持ちのサブ機として契約していた人も多かったのではないだろうか。あるいは、家にWi-Fiがある場合の併用機として1GBまでに抑えるユーザーもいただろう。
しかし、今回の「Rakuten UN-LIMIT VII」への切り替えをもって、0円プランは終了する。
新プランでは0~3GBまでが980円/月となり、契約者は最低980円の支払いが発生することになる。プラン自体は7月1日からの適用だが、現在の利用者も自動的にこちらへ移行されるという。脱落を防ぐため、最大4カ月は実質0円という緩和期間を用意した。1GBまでの利用については7月1日~8月は0円を続け、9月1日~10月は利用分をポイントで還元するという。※価格は税抜き
また、新プランに移行後は楽天ポイントの還元率を上乗せするなどのメリットを強調してはいるが、記者発表会場でのリアクションは手厳しいものだった。「0円のお客は離脱しても仕方がないとの判断になったのか」「(0円は)コロナで苦境にあるユーザーのためだったはずだが」という質問も飛び交った。発表後のネットニュースにも、そうした論調を感じるものが多かった。楽天モバイルのユーザーがどっと離脱するのではとか、0円なきあと他社に乗り換えるならどのプランがいいかとか――そんな記事ばかりだ。
しかし、よくよく考えると、世間が言うほど楽天はまずいことをしたのだろうか。
そもそも0円の客とは、お客だったのか
1GB以下0円に抑えようと、あれこれ苦心して使っていたユーザー数がどれほどいたかはわからない。楽天側もその割合は非公表としている。しかし、0円にこだわってきたユーザーとは、今後もなるべくデータ使用量を抑えようと考えるタイプではないかと推察する。そもそも、これまで楽天側に支払いをしてこなかったとすれば、厳密には「顧客」と言えたのかも微妙だ。だから、その人たちがいなくなっても、ビジネスをマイナスに揺るがすほどの影響はないともいえる。
「0円がなくなればモバイル解約者が増えるのでは」というが、お金を払ってくれないユーザーが退場し、課金者だけが残る方がビジネス上の見通しが良くなるだろう。楽天グループ三木谷浩史会長の弁からも、5Gのデータ大容量時代になれば、現在0円のユーザーが離脱しても十分取り返せるとの強気な判断を感じた。
0円プランをやめる代わりに打ち出しているのは、楽天市場でのポイント還元率が最大6倍(ダイヤモンド会員の場合。ほか条件あり)となるメリットだ。つまりは、どんどん楽天市場で買い物をしてくれればくれるほどトクしますよという理屈で、楽天としては願ったりだろう。
三木谷会長は「(モバイルには)なるべくお金を払いたくない価格コンシャスなユーザー、楽天グループのロイヤルカスタマー、データをヘビーに使うユーザーの3者がいたが、今後はよりグループにとってロイヤリティの高いお客に使ってもらう方向」と述べていたが、まさにそうだろう。
なるべくお金を払いたくないという、いわば持ち出しだけの客は利益につながらないとの判断は、営利企業としては当然だ。どんな企業でも、自社製品・サービスを消費してもらうことを期待しているからこそ、さまざまなサービスをする。サービスインから2年たっても見合うだけのお金を落としてくれないならばいっそサヨナラをし、よりお金を落としてくれるお客の方を大事にする――のは合理的判断であり、「0円をやめるなんてケシカラン」と批判を浴びせるのは酷だろう。
よくある「0円商法」、楽天の誤算とは
とはいえ、怒っている(?)人がいるのは事実らしい。ここに、「0円商法」の難しさがある。なんといっても、「0円」「無料」「タダ」の引力は強大で、人の心をくすぐる。楽天モバイルが「1年間無料」や「1GB以下無料」でユーザーをかき集めてきたのは、やはりその魅力を集客装置として使ったからだ。
世の中には「初月無料」「1年間会費無料」という“入り口無料”商法はあふれるほどあり、それはとにかくサービスを開始してもらうために有効だからだ。逆に、一度契約させれば解約が面倒くさくなってそのままにする、あるいは無料期間が終了したことに気づかず更新してしまうユーザーも多い。特に、利用料金の支払いがカード払いだと、意識せずに払い続けてしまっている人も多いだろう。
人間は、一度獲得した特権を失うのを嫌う。だから、これまで使えたサービスが使えなくなると、ものすごく損をするように感じるものだ。Amazonプライムの1年間無料、YouTubeプレミアムの3カ月無料などのキャンペーンを体験すると、そのまま課金プランに流れる人も一定数いるだろう。特権を手放したくないのと同様に、解約手続きのアクションが面倒になるという「現状維持バイアス」も働くからだ。
AmazonプライムやYouTubeプレミアムなら文句が出ないのに、ではなぜ楽天モバイルはまずかったのか。つまりは、無料サービス期間を示していなかったからだろう。永遠に「1GB以下無料」が続くと信じていたユーザーなら、確かに裏切られた気分にもなる。今回の新プラン、無料期間はまだ4カ月ほどクッション期間はあるのだが、ここまで反響が大きいとは楽天側も想像以上だったかもしれない。
誰が無料を提供してきたのか?
もう一つ考えておきたいのは、「その“無料”を提供してきたのは誰か?」という点だ。ない袖は振れないわけで、その原資の大元をたどれば、楽天のサービスをせっせと使い、お金を落としてきた「楽天経済圏」の住人たちとなるだろう。
ただでさえ、最近は「ポイント改悪か」と報じられることが多いのはご存じの通り。そして、その元凶となったのがモバイル事業への投資ではないかとも囁かれている。ということは、楽天モバイル事業がスムーズに利益を上げてくれる方向に行く方が、楽天利用者全体の幸せにもつながるわけだ。
1GB以下ユーザーも、その多くは楽天経済圏の利用者のはずだ。モバイル契約に応じて付与されるポイントアップの恩恵も受けている。0円サービスが回り回ってポイント改悪につながるのはうれしくないだろう。その恩恵は、いわばカニバリ還元なのだから。そう考えれば、今回の0円終了は誰のためでもなく、楽天利用者のためともいえる。
裏切られた感は理解できるし、ひたすら安さを求めるユーザーが他社の廉価プランに乗り換えるのは仕方ない。ユーザーもモバイル事業者もそれぞれに、自分が付き合いたい相手を自由に選ぶ時代なのだから。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
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