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中学教師の激務が想像を絶している原因…一日14時間勤務、授業準備の時間ない

文=A4studio
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中学教師の激務が想像を絶している原因
「gettyimages」より

 5月2日にニュースサイト「FRaU」で公開された記事『元中学教員が告白「先生が蝕まれる6つの激務」と「負の連鎖」とは』で語られた、元中学教師の「38年間で減った仕事ゼロ、増えた仕事盛り沢山でした」という言葉が注目を集めている。

 同記事では、いじめ問題への対策が増えたことや、現状を改善するために教育委員会に声を上げようとしても、そのために膨大な量の報告書を書かねばならない現実が綴られている。

 そこで今回は教員の過重労働問題などに詳しい、名古屋大学教授(教育社会学)の内田良氏に、中学教師の労働環境の実態や諸問題の根本原因などについて聞いた。

中学教師たちを苦しめているのは、授業準備よりも“部活動”の存在だった

 今、中学教師たちを苦しめている業務はなんなのか。

「中学教師たちを今一番苦しめているのは部活動の存在です。5月31日にスポーツ庁が“部活動を学校から切り離し、地域住民主導で指導するようにする”という趣旨の提言案を発表しましたが、それほど中学教師の部活動に対する負担は厳しいものになっています。

 中学の先生たちは、朝7時台に登校して午後3時くらいまで授業を行いますその合間に空き授業が50分間くらいあります。ですが、これは休憩時間というわけではなく、雑務にあてることがほとんどです。授業時間が終わると次は部活動が始まり、長いと夜の7時くらいまでは部活にかかりっきりになります。

 そして部活が終わってからやっと、学校内のイベントや行事、入試の季節は試験準備などの作業に入っていきます。その後ようやく通常の授業の準備などになり、家に着くのは夜の8時をすぎます。家に仕事を持ち帰ることも常態化していて、翌朝早く出勤して業務をこなす人もいます。あと、部活の場合には土日の指導や引率もあり、非常に過酷と言わざるを得ません」(内田氏)

 部活動に教師たちの時間を取られている影響は、教師の過労問題だけでは済まないという。

「昨年11月に中学校の先生たちに向けアンケート調査をしたのですが、それによると長時間労働を強いられている先生ほど、準備不足のまま授業に臨んでいると回答しています。これは、生徒たちに授業へ興味を持ってもらう工夫にかける時間がなくなるということで、生徒たちの学業への興味の希薄化にもつながります」(同)

 なぜ、教師が授業の準備に充分に注力できないという本末転倒な事態が起きているのか。

「他人が関わる仕事をどうしても優先せざるを得ないからです。だから、自分一人で完結する授業準備はどうしても後回しにされがち。ですが、当然ながら、授業準備こそが教育には一番必要なことです。これでは学校教育が現状成り立っていないといわざるを得ないでしょう」(同)

激化するいじめ問題への対応、時代変化のしわ寄せを押し付けられる教師たち

 前述した「FRaU」記事では、近年は「いじめ問題の激化」も業務増加の原因だと指摘されているが、具体的にどのような業務が増えているのだろう。

「今の時代、いじめが起きれば生徒たちに口頭で注意して終わり、というわけにはいかないわけです。例えば、いじめ問題が起きたら先生たちは教員間で対応を協議しますし、ときにはそれを報告書にまとめて教育委員会に報告することになります。いじめ対応だけでなく、学習面でもテストの点数だけでなく、提出物や挙手の回数などを記録していく。“何事も記録を取る”こと自体は必ずしも悪いわけではありませんが、それだけ作業が細かくなりながらも、教員数がほとんど増えないので、一人あたりの負担ばかりが大きくなっていきます」(同)

 内田氏いわく、いじめ問題は書類タスクに加えて、保護者対応も教師たちの負担になっているそうだ。

「いじめを未然に防ぎ、起きてしまったら被害者生徒をケアし、その保護者に説明を果たすことは先生の責務の一つです。ですが、それに加えて加害者の保護者が“うちの子の何が悪いんですか!”と詰め寄ってくる場合もあり、そうなると先生は板挟みです。

 事実認定をめぐって捜査する権限も専門性もない一方で、被害者と加害者双方の保護者もやってきて、教員は裁判長のような役回りを強いられる。これは荷が重すぎますし、相当なストレスでしょう。

 また、昔に比べて先生の社会的権威が下がってしまったことも、こうした問題を複雑化させているかもしれません。かつては、大学を出て教員となった先生たちは、それだけで社会的立場が強いものとして扱われていた部分がありますが、近年は2人に1人が大学を出ている時代です。それによって生徒や保護者と対等にものを言い合える環境にはなりましたが、じっくりと問題解決に向けて時間を割ける職場環境なのかというと、まったくそうではありません」(同)

負担改善をするはずの教育委員会が、教師たちを苦しめているねじれた現実

 そのような現状を改善する役割も担っているのが教育委員会という存在だが、逆に教師たちを苦しめている面もあるという。

「事例にもよりますが、教育委員会が長時間労働を厳しく取り締まりすぎると、教育委員会に迷惑をかけまいと、学校で教員がみずから勤務時間を過少申告してしまいます。勤務の実態が把握できなければ、なんの改善の手段も立たないですし、むしろ数字上は状況が改善しているとさえ見えてしまいます。

 また教育委員会が独自に学校に課している業務もたくさんあります。たとえば、教育委員会が独自に、○○教育と名のつく実践を自治体全域で取り組むような場合、その作業は国が想定している学校の業務にプラスしてやらなければならないのです。これらは教員個人が勝手におこなって完結するものではないので、学校内で話し合って多くの教員を巻き込みながら遂行されていきます。

 全国に共通する例をいえば、学力テストも教育委員会側が学校に強いていることの事例です。テストの点数を上げろという学校側へのプレッシャーが非常に強いのです。学力テストはもともと地域の実態を知り、そこに手立てを講じていくための調査だったはずが、各自治体が学力を誇示するための競争に成り果ててしまっています」(同)

 では、今回紹介した問題の根本的原因はなんなのか。

「業務が激化すれば、その他の雑事をこなしてくれる事務員を増やすなどの手が考えられますが、国が予算を渋ることでこうした対策はほとんど打たれていません。本来であれば先生がやるはずでない事務作業まで、先生がこなすパターンも非常に多いです。

 もちろん文科省も財源を増やしてはいますが、それも焼け石に水。むしろ文科省はこうした問題に意識的ではあるのですが、解決の根本は財源です。しかし、財源を管理しているのは財務省なのです。財務省側には、長時間労働は教育行政の工夫で乗り越えられると見えてしまっている。これこそ、教師を苦しめている根本ではないでしょうか」(同)

 教育現場へ理想と無理難題を押し付けてきたしわ寄せは、いま刻々と教師たちの肩に重くのしかかり続けている。「先生なんとかして」と教師たちに問題を丸投げする前に、できることをもっと模索していかなければならないのかもしれない。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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