埼玉県のマンション価格が上がっています。東京23区は別格としても、東京都下や神奈川県の価格水準に近づきつつあります。月別の動向をみると、埼玉県が東京都下や神奈川県より高く、東京23区に次ぐレベルに達することもあります。なぜ、こんなに上がっているのでしょうか、今後も上がり続けるのでしょうか。
東京都下、神奈川県より1000万円以上高い
不動産経済研究所は毎月首都圏の新築マンションの発売動向を調査していますが、そのなかからエリア別の平均価格の推移を示したのが図表1です。紺の折れ線グラフの東京23区が最も高く、飛び抜けていますが、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県は4000万円前後から6000万円前後の間で、入り組んだ動きになっています。
かつては東京23区の次は東京都下と神奈川県が競い合い、その一段下で埼玉県と千葉県がブービー争いをしていたのですが、最近はかなり様相が異なっています。特に、埼玉県の平均価格の上昇が目立ち、月によっては東京都下や神奈川県を凌駕するようになっているのです。
2022年6月がその典型で、東京都下が5405万円、神奈川県が5214万円に対して、埼玉県は6705万円と1000万円から1500万円ほど高くなっています。4358万円の千葉県には大きな差をつけています。
マンション・建売市場動向(過去情報一覧) (fudousankeizai.co.jp)
大宮の超高層マンションが平均8575万円で即完
その最大の要因は、22年6月に『大宮スカイ&スクエア ザ・タワー』(さいたま市大宮区)の1期1次の159戸が、平均価格8575万円で売り出された点にあります。これが埼玉県の平均価格を大きく押し上げているのです。
JR「大宮」駅徒歩5分の地上28階建て、免震構造を採用した総戸数522戸の超高層マンションで、日鉄興和不動産が開発しました。大型スーパーや各種店舗を併設する複合開発で、最上階のプレミアム住戸の価格設定は2億2000万円台です。平均8575万円という大宮エリアでも破格の価格設定でしたが、それでも1期1次の159戸が即日完売となりました。それも最高倍率が15倍で、平均倍率は1.7倍という人気を集めました。1期2次以降も抽選になるのではないかとみられています。
となると、2022年6月の埼玉県の平均価格の高さは、この人気の高額物件による価格上昇であり、あくまでも一過性のものという見方ができそうですが、必ずしもそうとは限りません。埼玉県の平均価格は年々ジワジワと上昇しているのです。
2022年には一段と東京都下や神奈川県に近づく?
図表2は首都圏の各エリアの2012年からの平均価格の推移を示しています。東京23区が飛び抜けて高く、しかも、この数年は他のエリアに比べて右肩上がりの上昇カーブが高まっており、2012年から2021年までの上昇率は57.0%に達します。それに対して、東京都下の上昇率は17.2%で、神奈川県は26.5%ですが、埼玉県はそれを上回る30.2%となっています。ちなみに、千葉県は21.1%です。
グラフでも分かるように、埼玉県は千葉県と競い合っていたのが、この2年ほどは千葉県に水を空けて、東京都下、神奈川県に肉薄しています。2021年の平均は東京都下が5061万円、神奈川県が5270万円に対して、埼玉県は4801万円とその差は260万円から469万円に縮小しています。
当然ながら、ここには2022年6月発売の『大宮スカイ&スクエア ザ・タワー』は含まれていません。その意味では、2022年のデータがまとまれば、一段と東京都下、神奈川県に近づく可能性が高いのではないでしょうか。
大宮と浦和が両輪で埼玉県の人気を支える
なぜ埼玉県の平均価格が上がっているのでしょうか。要因として考えられるのが、埼玉県の住宅地としての人気がこのところ年々着実に高まっているという点です。東京圏のなかでは、神奈川県が東海、関西方面への玄関口であれば、埼玉県は上信越、東北方面の玄関口として発展してきました。特に、大宮駅は東北、上越、北陸などの新幹線が乗り入れ、在来線も京浜東北線、埼京線、湘南新宿ラインなどがあって、さまざま方面に直結しています。駅周辺には大規模商業施設も充実しています。
浦和駅も埼玉県の経済・社会の中心として発展、特に文教エリアとして知られ、閑静な住宅地が広がっています。この大宮と浦和が両輪となって埼玉県、さいたま市の住宅地としての人気を高めているといっていいでしょう。
大宮駅は住みたい街のベスト3にランクイン
リクルートの『SUUMO住みたい街ランキング2022首都圏版』では、大宮が初めてベスト3にランクインしました。長年ベスト3の常連だった恵比寿を押し退けてのベスト3ですから、たいしたものです。浦和も負けてはいません。図表3にあるようにこの3年は10位、8位、5位と人気が急上昇しています。長く埼玉県、さいたま市の社会・経済の中心でしたから、街としての成熟度が高く、大規模開発などが難しい状態ではありますが、久しぶりに駅前での再開発による超高層マンション計画が表面化しています。2、3年後にはその販売が始まり、かなりの高額になるのではないかと見込まれています。
そのほか、川口市でも超高層マンションが相次いで建設され、川口市初の億ションも販売されましたが、最上階の高額物件から売れるという人気でした。また、川越市、所沢市などでも超高層マンションや大規模物件が供給され、これまでにない価格帯で販売されるようになっています。
「SUUMO住みたい街ランキング2022 首都圏版」発表! | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)
埼玉県では東京都からの人口流入が強まっている
あまり供給が増えると供給過剰になり、価格が下がるのではないかという懸念もありますが、首都圏のなかでも埼玉県は人口が増え続けており、そんな心配はいらないようです。特に、新型ウイルス感染症拡大でリモートワークが定着し、東京の都心やその近くでなくてもいいのではないかという考え方が広がって、郊外のターミナル駅の人気が高まっています。浦和、大宮のほか、川越、所沢などもその影響を受けています。
コロナ禍で東京を脱出する動きが目立ち、東京都への人口転入が減少し、特に東京23区では2021年の転入超過が2014年以降では初めてマイナスになりました。都心やその周辺から、郊外や地方へ移住する人が増えています。
その受け皿のひとつになっているのが、埼玉県や神奈川県です。図表4にあるように転入超過数をみると、東京都は大きく減少しているのに対して、神奈川県では3万人以上増え、埼玉県も3万人近く増加しているのです。
住民基本台帳人口移動報告2021年(令和3年)結果 (stat.go.jp)
今後も埼玉県のマンション価格は上がり続ける?
市区町村別にみると、2021年に全国で最も転入超過数が多かったのはさいたま市の1万527人でした。2020年は横浜市が1万2447人でトップだったのが、2021年には1万123人に減少、代わってさいたま市がトップに立ったわけです。特に年齢区分でみるとさいたま市では0歳~14歳の転入超過数が多いのが特徴で、それだけ子育て世帯の転入が多くなっていると考えられます。その子どもたちのいる世帯のうち、かなりの人たちが埼玉県の新築や中古マンションを購入して移り住んでいるのではないでしょうか。
今後もそうした人口流入が続き、それに支えられて埼玉県のマンション価格が一段とアップ、東京都下や神奈川県の水準に近づくのではないかとみられます。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)